第二章 ゲームの支配者(5)

【五】


 翌日。

 今日のマーダータイムは、三十分後に始まる。


「陣さん。本当に、あの北条さんを倒せるのですか?」

「ああ。だが、オレ一人じゃ無理だ。だから恋愛子、複数人で動いているお前らの力が必要だ」


 陣は恋愛子の個室で、恋愛子、根野、立浪と共に今日の打ち合わせを行っていた。


 陣は昨夜、再び恋愛子の元を訪れていた。北条の殺しを防いだことで、少しだけ陣を認めたかのように見えた恋愛子だったが、やはり門前払いをされる。


 けれど陣は諦めなかった。夜では部屋から出てこないだろうとそこでは戻ったものの、翌日たる今日、三時間程前から恋愛子の部屋の前で待ち構えていたのだ。どうやら恋愛子は早い段階でそれに気付いていたらしく、いつまでいるのかと様子を見ていたが、ついに折れたとのことだった。


 恋愛子は小柄ながら、こちらを見下してくるように腕を組む。言葉遣いから気品は感じられるが、逆にそれが棘となって向かってくるようだった。


 一歩下がって所在なさげにこちらを見る根野と、黙っていてもこちらを伺うキョロキョロとした目線だけでうるさい立浪は、口を挟むつもりはないらしい。この二人は、先程恋愛子が招集をかけていた。配布されたノートPCで連絡を取れるとのことで、ネットには繋がらないが、館の中での連絡なら可能のようだ。


「陣さん一人で対処するのが難しいことは分かりますわ。それだけあの、北条さんは厄介ですもの。けれど、あなたは井口衣鈴さんと一緒に行動していたのではなくて?」

「オレが本来協力したかったのはお前だ、恋愛子。だがお前に邪険にされ、仕方なく別の奴を当たったら、たまたまあいつが釣れただけ」


「あなたは、全員生き残って欲しいと思っていますわよね。ならあなたの目的は、また北条さんを邪魔すること。けれど、それは甘いとあたくし様は思います。北条さんは、殺すべき。この考えに、あなたは賛同出来ますの?」

「そのつもりがなけりゃ、またお前と接触しようなんて思わない。一日考えて、こう結論を出した。全員が生き残るのではなく、なるべく多くの人間が生き残る方法を探るべきだ、と。そのためには、北条穂久斗は邪魔だ」


 恋愛子は腕組みを崩して、顎に手をやってこちらの様子を見てくる。だが疑われることはないだろう。


 衣鈴と協力はしたが、また協力出来るかは分からない。事実、昨日は衣鈴より先に恋愛子と接触し、今日だって待ち構えていたのだから。そして陣の目的だって、陣の行動を見ていた恋愛子なら理解出来るだろう。


「では、その方法とは? あたくし様達は三人で対策を考えましたが、お恥ずかしながら、良いと思えるものは浮かびませんでした。四人寄ってようやく文殊の知恵、となるのでしょうか」


 恋愛子は、ちらと根野と立浪を見やる。根野はバツが悪そうに目を逸らし、立浪は悪びれもせず「そーそーそうなんすー!」と笑うだけだ。


「まず、これだけは言える。北条穂久斗が館の秘密を知ったり運営側だったりといったのは奴の嘘だ。よって、全ての能力を使えるというのも嘘。となりゃ、厄介なのは“絶対服従”で全ての攻撃を避けちまうことだけだ。だが、限界っつーもんがあるだろ」

「限界?」


「攻撃をかわすっつっても、物理的な制約はある。広いスペースで避けるだけの余裕がないといけない。だから例えば、狭くて身動きの出来ない場所に押し込んじまえば、北条は銃弾をかわせない。それは昨日、奴が衣鈴からのゼロ距離銃撃をかわした時、北条が自分の速度に付いていけずに倒れたことから推測出来る。ワープをしたのではなく確かに移動しているからこその転倒だからな」


「ですが、押し込める場所なんてありますの? 仮にあったとしても、北条さんを連行するために暴行を加えようとしたら、それが攻撃と取られて“絶対服従”の力で避けられてしまう」

「ああ、そうだな」

「そうだな、って……」


 かくんと肩を落とし、恋愛子は呆れた表情をする。だが陣は、待ってましたと懐に入れていたナイフを見せ付けた。


「銃撃はもちろん、北条に暴行したり強引に連れ込んだりしようとすることは、攻撃と取られちまう。だが、それを逆に利用する」

「ナイフで?」

「お前にはこれが、ナイフに見えるのか?」

「ナイフにしか見えませんわ!」


 当然、それはただのナイフであり、陣もそれは分かっている。だが、数人集まって北条に対抗した時、それは別の顔を見せるのだ。


「これはナイフじゃねぇ……アイアンメイデンだ。北条穂久斗を、棘の檻に閉じ込める!」

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