3|綺麗な花には但し書き⑤

「まあ……その、とにかく、ありがとう。神社のおばさんに頼まれとったと。とにかく可愛か花探してきてって。ばってん、近くの花屋が臨時休業で、思い出したのがここ! 助かったばい」

「あら、居候している神社の方のおつかいだったの!?」

 リーフは目を丸くして、

「……だったら、人間界のお花を勧めればよかったわ……」

「あったと!?」

 石化する雷奈に、リーフは必死で弁解した。

「だ、だって、珍しい花っていうから、てっきりフィライン・エデンの花が欲しいのかと……。だってあなたたちにとっては珍しいでしょ?」

「リーフ、お客さんの要望の聞き取りから修行ね……」

 ユウの指摘に、リーフは意気消沈ぎみだ。

「……ごめん、何なら取り換えるけど……」

「いや、よかよ。これも可愛か花やけん。ありがと、リーフ」

 最終的に、雷奈がそう言って笑ったので、リーフも反省の色を浮かべつつ笑顔。礼を言って、見送ろうとした時、ユウが雷奈を呼び止めた。

「今回選ばれた人間は、他にも二人いるのでしょう? その二人にもよろしくね。あと、私の家族や親戚は、医療従事者が多いの。このあたりにいる姉も医者だから、もし何かあったら遠慮なく頼ってちょうだいね。例えば、気胸になったりとか」

「!?」

「冗談よ」

 いつもすまし顔のユウは、珍しく年相応のいたずらっぽい表情をした。雷奈は苦く笑いながら、「頼るばい」と手を振って、帰っていく。

 それを見送って、リーフはやっと二人目の客の接待に入った。

「お待たせしちゃったわね、ユウ」

「いいわ。私も、選ばれし人間には興味があったから。それも、想定外の三人目……。この狂った時間と何か関係があるのかしら」

「まあ、偶然にしては、ね。でも、慣れるの早いし、別に問題ないんじゃない? このまま過ごしてもらっても」

「そうかしら」

 ユウは横髪に触れて目を伏せた。

「案外、これらの花と同じだったりして」

「……どういう?」

「本来見えないはずだったワープフープが見え、気づくはずのなかった時間のループに気づいた。それは花が咲くがごとく、開花した才能のようなもの。きれいに咲いた能力の『ただし』の先は何かしら」

 時折見せるこの謎めいた雰囲気は、彼女自身の性質によるものか、あるいは「念」という、見えないものを操る類の猫種によるものか。

 固唾をのんだリーフに、次に視線を向けた時、ユウの表情はいつものしとやかな笑顔だった。まるでさっきのオーラが一瞬の気の迷いだったかのように、何もなかったかのごとく軽やかな声で、

「とりあえず、一番おすすめのお花、いただける?」

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