3|綺麗な花には但し書き③
「じゃあ、これはどう?」
「これ……まだつぼみっちゃか?」
「いいえ、寝ているだけよ。これはサムライガオ。アサガオが朝咲くなら、これは夜中に咲くの」
「ユウガオやヨルガオとどう違うと?」
「すっごく短い時間しか咲かないのよ。午後の十一時台だけ。十一時前から開き始めて、日が変わるころにはもうしぼんでいるわ」
「へえ……? あ、分かったばい。十一時台に咲くけん、サムライったいね。ニシムクサムライ、って感じで、十一のこと、サムライっていうし」
「違うわよ。咲いた花が落ち武者の顔に見えるからよ」
「ホラー!?」
「ちなみに、とてつもなく無念な顔をしているわ」
「いや、いらん! そんなの夜中に見たらトラウマったい……」
首をぶんぶん振る雷奈に、リーフは少し困り顔になった。
「なかなかお気に召すものはないわね……。あと、珍しい花っていったら、これかなあ……。ヒトアヤメ」
「白いアヤメっちゃか」
垂れた花弁の内側に、ばんざいしたように立っている花弁がある、立体感を感じさせる花だ。花弁は白いが、中心部分はやや赤みがかっている。
「きれいでしょ? でも、これも但し書きがあってね」
「また?」
「これに対する敵意を察すると、ここ、花の中心、柱頭っていうんだけど、ここを突き破って、つるが飛んでくるの」
「……は?」
「つるの先端は鋭くなっていて、そのまま体に刺さるようになっていてね。刺した部分から、血を吸うのよ」
「ちょちょちょ……」
「まあ、敵意って言っても、人間か、人間姿になった猫ね。人の形をした敵を殺めると言われる……」
「ヒトアヤメって、人殺め!?」
「ちなみに、血を吸うと、白い花が赤く染まるのよ」
「これちょっと赤いけど!? もう誰か吸われたと!?」
「それにしても、花粉をくっつけるための柱頭を突き破ってまで外敵を排除するなんて、種を守るためには犠牲をいとわないわねー。群生しているから、他の個体を守ろうとするのね、きっと。こんなたくましい花はいかが?」
「人間に勧める花ではなかね!? 遠慮しとくばい!」
必死に距離をとる雷奈に、リーフは残念そうな顔をしながらも、めげない。
「では、こちらは? キキョウユリよ」
見た目は紫のキキョウのようだが、長い花糸がユリらしさを醸し出している。
「きれいでしょ?」
「……きれい、ったいね」
「ただし、ね」
「……そればっかりったいね」
「敵意を察すると、大量の花粉を飛ばすの。吸い込むと、肺から空気が漏れ出す障害を引き起こしてね」
「……」
「早い話、気胸になるのよ」
「気胸百合!?」
「……いらない?」
「いるわけなかろ!? なしてそんな変な花ばっかりっちゃか!?」
頭をかきむしる雷奈と、苦笑いを浮かべるリーフ。二人を傍観していたユウは、ふと口を開いた。
「あの、話の腰を折ってごめんなさい。……雷奈は、東京の人ではないの?」
「うん? ああ、私、種子島出身ばい。種子島ってわかる?」
「九州と呼ばれる地方にある島でしょう? 学院で習ったわ。引っ越してきたの?」
「引っ越したっていうか……逃げてきたっていうほうが正しかね」
やや不穏な響きに、リーフとユウの表情が曇る。雷奈は慌てて手を振って、
「ごめん、びっくりさせたったいね。……ちょうど、アワとフーにも今日、話しとったんやけど……」
左下から右下へと視線を巡らせ、雷奈はためらいがちに口を開いた。
「私の母さん、親父に殺されたとよ……」
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