第3話 第二次世界大戦の勢力図が変わる
「朗報だ。スターリンは死んだ。大粛清の危機は回避した」
「へぇ」
「そして悲報だ。第二次世界大戦に当たる戦争が勃発した」
「……」
マジっすか。
僕はまた周りをきょろきょろ見回した。
どこか埃っぽい、雑然とした街並み。
「あのう、今は何年でここはどこですか」
「おっと、伝え忘れていたな。1939年の中華民国だ」
また妙なところへ飛ばされたものだ。
「因みに満州事変や南京大虐殺も回避した。めでたいな」
「そうでしょうね……」
日本、ソ連の衛星国になっちゃったからね……。
「代わってソ連が中国を脅かす存在となっている。その状況をアメリカが危険視している」
「へぇ」
なんだ、あんまり変わらないじゃないか。ソ連が日本に取って代わっただけか。
「さて、そんなアジア情勢はさておき、プロイセン帝国がポーランドに侵攻、ソ連と開戦した」
あちゃー。
「……その前にいくつか確認したいことがあるんですけど」
「何だ」
「第一次世界大戦の結果はどうなりました?」
「さほど変わらんな。三国同盟側の惨敗だ。因みにアメリカ軍の出番はあんまり無かった。ソ連が最後まで出張っていたからな」
「それはまた……」
確かにロシア革命が既に起こった上で参戦しているとしたら、大戦の途中でソ連が離脱する理由が無くなる。するとアメリカが首を突っ込む理由もまた一つ無くなるわけだ。
「それでも結局、経済的なんやかんやでアメリカは台頭しているぞ」
「なんやかんやって何ですか」
「聞きたいか?」
「……。で、ユダヤ人虐殺はどうなりました?」
僕はもう一つ気になっていたことを尋ねた。ハカセはにんまりした。
「それも回避されたぞ。ヒトラーがオーストリアからプロイセンに渡ることはなかったのだ。そもそもドイツのナショナリズムはひしゃげていたから、ユダヤ人差別は激化しなかったのだよ」
何と。ドイツをプロイセンに変えたことは無意味ではなかったか。ひしゃげるという表現はどうかと思うが。
「しかしプロイセンの軍国主義は異様に拡大している。よって戦争が起こった」
つまりドイツの軍国主義を潰せなかった結果がこれであると。
「完全にハカセのミスじゃないですか」
「気のせいじゃないか?」
「いいや僕は覚えていますよ。ハカセは匙加減を間違えて──」
「そして……そうだ。喜べ」
「え?」
「アメリカによる原子爆弾の投下は阻止されそうだぞ!」
何だって!?
「そ、それは凄いですね? どうしてですか?」
「簡単なことだ。まず先ほど言ったように、プロイセン帝国においてユダヤ人差別は肥大化しなかった。更に、アメリカはソ連の敵であり、即ちプロイセンの味方である。よってアインシュタインはアメリカに亡命することはない!」
「はい?」
ええと……。
本来は、アインシュタインはユダヤ人で、それ故にドイツからアメリカへ亡命した。そしてアメリカ大統領に、原爆の開発をするようにと提言した、という話は聞いたことがある。その後アインシュタインは、反核の姿勢を明らかにしたわけだが……。
それで、何がどうなっているのだろう? 混乱してきた。
「まず確認だ。プロイセンとソ連は開戦した。いいな?」
「よくないですけど、はい」
「ソ連が中国を脅かしているのを快く思っていないアメリカは、ソ連と敵対している。よっていずれはアメリカはプロイセンにつく」
「……はい」
これは日本と似ているな、と僕は思った。
史実では、アメリカは日中戦争をよく思っていなかった。それ故に日米関係が悪化したのだ。
で、時空改変後は、代わって米ソ関係が悪化した。そしてプロイセンとアメリカが組んだ。仮にアインシュタインがアメリカに亡命しても、捕まって送還されるのが関の山だ。なるほど。
「ついでに、中国もソ連に脅かされるのは御免だ。よってこちらもプロイセンにつく」
「えーと……はい」
ここでも日本がソ連に置き換わっている。
「そして、プロイセンを危険視するイギリスやフランスはソ連につく」
「ウッ……頭が……」
僕は炬燵に額をぶつけた。
もう全然違う。
本来なら、日独伊ⅤS米ソ英仏中、だったはずだ。
それが、普米中VSソ英仏、という勢力図になっている。なんてこった。
「あれっ……因みに、イタリアは?」
「勘定に入れる必要があるか?」
「……」
戦力外通知か。
ファシスト党とか、スペイン内戦とか、色々重要な役割があったと思うんだがなあ。
「とにかく、現在プロイセンとソ連が交戦中だ。イギリスとフランスは今のところ何の役にも立たん——特にフランスがな。そして、中国は日中戦争を回避したので、参戦するかどうかは今後のソ連の出方次第になる」
「はい」
日露戦争って、結構影響力がでかいな。
「アメリカもパール・ハーバーを回避したので、これまたソ連の出方次第だ。更に言うとアメリカは今後、イギリスやフランスと敵対することは避けたいはずだ。また、第一次世界大戦でヨーロッパとは距離を置いていた過去もあることから、アメリカはあまり積極的に参戦はしないだろうな」
「おおお……!」
「戦争はヨーロッパ内にとどまってくれそうだ。大戦の拡大が防げることは私にとっても好ましい」
「そうですね」
僕は素直に感心した。
「さて、ここからが問題だ。まず、核戦争を止めねばならない」
……え?
「だってそれは回避したんじゃないんですか?」
「アメリカでは、な。このままだとプロイセンが、そして追ってソ連が核兵器を開発するだろう」
……そういえばアインシュタインがアメリカに渡らなかったというだけで、他国で核兵器開発がされないとは言っていなかった。
「何でそう詰めが甘いんですかァ──!!」
僕は叫んだが、ハカセは容赦なく赤いボタンを殴りつけた。
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