第18話 夜の密会
夜。寝る準備を整えた俺は、妖精姿のアベルを連れてベッドではなく、玄関に向かっていた。
丁度水を飲みに来たクレア皇女と出会う。クレア皇女はピンク色のパジャマを着ていた。少し幼く見えて可愛らしい。普段はツンツンしてるから、ギャップを感じて余計に可愛く見える。
紅い瞳で俺に問いかける。
「
「ちょっと女性と約束があって」
「うわ…最低…」
おぉ…ドン引きしてる。蔑んだ灼熱の瞳で睨んでおりますぞ。
ローゼンヴェルグ皇国では世界的にも離婚率が低く、一生伴侶と添い遂げることで有名だ。浮気や不倫率もとても低い。燃えるような熱い恋をする情熱的な人が多い国民性だ。
「あんた、その人と付き合ってんの?」
「いいや、全く」
「下衆野郎ね。人間のクズ」
うわぁ。睨みがもっと酷くなった。
ローゼンヴェルグ皇国の皇女からしたら俺は最低野郎だな。いや、普通の人から見ても最低野郎か。
このままだと水をかけられて追い出されそうだ。
「さっさと出て行きなさい! そして、二度と戻らないで!」
「酷いなぁ。でも、料理はどうする?」
「くっ…さっさと出て行け!」
今度は戻るなとは言われなかったな。じゃあ、終わったら帰ってきますよ。
シッシッと手を振って追い払われたので、俺はアベルを連れて寮の部屋を出た。
夜なのに活発に動き回る学園の生徒たちとすれ違いながら、今日会う女性の下へと向かう。
アベルが俺の肩に座って楽しそうに声を上げる。
「クレアちゃん、お兄ちゃんに堕ちたね」
「正確には、俺の料理に、だけどな」
「お兄ちゃんの料理は美味しいからねぇ。虜になるのは仕方がないよ。アベルはお兄ちゃんなしではいられません!」
「俺もアベルなしではいられないぞ!」
イチャイチャしながら歩いていると、あっという間に目的の部屋にたどり着く。
この部屋の奥に今夜会う女性がいるはずだ。
コンコンっとノックすると、すぐにガチャリとドアが開いた。
「おう。カインか」
黒髪をガシガシと掻きながらドアを開けた荒々しい雰囲気の美女。
「よう! 掃除に来たんだが………なんだその恰好は」
俺はミクルの全身を見渡し、思わず呆れてため息をついた。
ミクルは、ボンキュッボンの豊満な身体をこれでもかとさらけ出し、少し過激な白い上下の下着と、黒いガーターストッキングとガーターベルトを付けていた。着ているのはたったそれだけ。
男を興奮させる魅惑の格好だが、今の俺は呆れしかない。
「その格好…俺じゃなかったらどうするんだよ」
「あん? カインだとわかってたからこの格好なんだろ。それに、超高度な幻術もかけてる。他の人は普通に服を着てるアタシにしか見えん。これを見破れんのはカイン、お前だけだ」
「言っておくが、俺は男だぞ? 襲われても文句言うなよ」
「襲いたければ襲え。返り討ちにしてやる」
ミクルが荒々しく獰猛に笑った。手をパキパキと鳴らしている。
おぉー怖。ベッドの上で返り討ちされるのではなく、絶対に殴られて蹴られてボコボコにされそう。
運動音痴の俺が超武闘派のミクルに勝てるわけがない。
下着姿のミクルが俺を部屋の中に招き入れる。
「入れ入れ」
「おっじゃましまーす! って、酷いなぁ」
部屋の中に一歩足を踏み入れた途端、惨状が目に飛び込んできた。
ほとんど足の踏み場がない。ゴミや飲みかけのペットボトルや缶などが散乱し、洋服も散らかっている。空気がどんよりと思い。照明も暗い。黒い瘴気も漂っている気がする。
ミクルは家事能力皆無なのだ。
「うっへぇ~。私、戻るね。後で呼んで!」
アベルが俺の体内に戻って行った。普段なら顕現を解除するのは嫌がるのに、今は逃げるように消え去った。
汚部屋の住人にジト目を向ける。
「よく生活できたな」
「そ、その…食事は食堂があるし、風呂も大きなのがあるし、洗濯も出せばやってくれるし、部屋は寝るだけだったんだけど…」
「何故こんなに汚れた?」
「…………アタシは知らん!」
開き直りやがったぞ。堂々と手を腰に当てて踏ん反り返っている。
白いブラに包まれて、深い谷間を作っている巨大な胸がバインと弾んだ。俺の視線が無意識に吸い寄せられる。
胸は大きいし、肌は綺麗だし、腰回りはくびれてるし、おへそは可愛いし、お尻は形が良くて柔らかそうだし、太もももムチッとしてるし、何よりガーターベルトがナイス! 本当に大人の女性に成長しましたなぁ。俺は感慨深いです。
「俺に見せたくない物とかないのか?」
「あん? あるわけねぇーだろ」
ミクルの、あるわけないと、いう発言の裏には、全て見せてもいい、という意味があるのだ。下着でも裸でも躊躇なく俺に見せるだろう。実際今は下着姿だし。言えば普通にお風呂にも入ってくれる。
全く。そういう所は昔から変わらんなぁ。大人の女性になったから、気を付けましょうよ。
「んじゃ、俺が好きに掃除していいんだな?」
「頼んだぞ」
「はいはーい」
俺は下着姿の美女のプルンプルント揺れる胸やお尻を記憶に留めながら、早速、このゴミ屋敷の掃除に取り掛かるのであった。
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