第17話 王族との晩餐会
体育で十分間走という地獄を経験した俺は、ぐったりと疲れ果てていた。
ヨロヨロと寮の部屋に戻り、汗を流してベッドに倒れ込む。そして、少しの間仮眠を取った。
アベルという抱き枕を抱きしめて寝たけど、甘い香りと心地よい温もりと柔らかさが気持ちよかった。俺の疲れはすっかり吹き飛んで癒されました。
夕方過ぎに昼寝から起きた俺は、夕食を作る。
今日はみんな大好き鶏肉の唐揚げ! クレア皇女は喜んでくれるかなぁ~。
白ご飯やサラダやお吸い物なども作って、ほい完成!
「出来たぞ~」
「わーい! お兄ちゃんありがとー♪」
「
「そうなのかい? 期待しとくよ。正直、この香りだけで美味しいことはわかるね」
「何故ここにいる、
自然と食卓に座っている金髪碧眼のイケメン王子ルイーツァリ・ワルキューレ・カヴァリエーレ殿下が白い歯を輝かせてイケメンスマイルを浮かべる。
「何故ってボクとカインくんは友達だからさ!」
俺にかっこよくウィンクした。イケメン滅べ!
「ごごごごめんなさいごめんなさい。ここにいてごめんなさい」
ルイ王子と同じように椅子に座って小さく身体を丸めていたヴァイオエレナ皇女は、ペコペコ頭を下げて謝る。相変わらずのネガティブ思考だ。
そんなに謝らなくても、巨乳少女は大歓迎です!
「ヴァイオエレナ皇女はいいけどさ、そこの王子は帰れ!」
「あふぅんっ! 心底嫌そうな拒絶! つれないなぁ…でも、素晴らしい! カインくんのそういう所も大好きだよ!」
「止めろ! 俺は女の子が好きなんだ! 男に興味ない!」
「ボクも愛情よりも友情を深めたいと思ってるよ」
「嘘つけ!」
この変態王子をどうにかしてほしい。王族は変人が多いとは聞くけど、何故こんなにおかしな人ばかりなんだ!
俺が王子とやり取りをしていると、涎を垂れ流すアベルが我慢できなくなったように、フラフラと唐揚げに手を伸ばし始めた。クレア皇女も唐揚げから目が離せないようだ。
無駄話をしていたら冷めちゃうよな。熱いうちに食べるか。
「はぁ…わかった…今日は食べていけ」
俺たちは手を合わせて、いただきます、と挨拶をしてから食べ始める。唐揚げを一口齧った王族たちは目を丸くして固まった。ヴァイオエレナ皇女でさえ、顔をあげて灰色の目を見開いている。
「昨日も思ったけど、下僕の料理だけは認めてあげる」
「ありがたき幸せ」
「これは…美味しすぎるよカインくん! 君なしではいられない身体になってしまうよ。ボクはどうすればいいんだい!?」
「何もせず直ちに帰れ!」
「辛辣っ!? でも、それがいい! この容赦ない言葉が友達って感じがするよ!」
はぁ…ルイ王子の言葉に反応すると疲れるな。しばらく無視してもいいかな。まあでも、パクパクと食べ始めたから少しは静かになるだろう。
アベルは無言でパクパク食べている。実にいい食べっぷり。美味しそうに食べてくれるから、作った甲斐がありました。
固まっていたヴァイオエレナ皇女が、灰色の瞳を気弱そうに揺らし、小さな声でボソボソと呟いた。
「あの…美味しい…です…………ご、ごめんなさいごめんなさい。私なんかが美味しいものを食べてごめんなさい。あぁ…死のう…」
「だから何で!? 鋏を取り出すな!」
どこからともなく手の中に出現させた鋏を奪い取る。ネガティブ思考にも程があるだろ! 本当に王族はおかしい人が多い。
誰か一緒にヴァイオエレナ皇女を止めてくれと思ったけれど、皆食べることに夢中だね。そうですかそうですか。邪魔をしたら睨まれそうなので俺が対応しますよ。
「ヴァイオエレナ皇女殿下。折角食べるなら笑顔で食べて欲しいな」
「で、ででででも…私なんかが…」
「じゃあ、唐揚げあげない!」
「ふぇ…」
ガーン、と顔色が悪い青白い顔を更に白くさせるヴァイオエレナ皇女。この子も揶揄うと楽しいな。折角の美人さんなのに、ぼさぼさの前髪で顔を隠しているのが実に勿体ない。
俺は笑いながら、ショックを受けて落ち込む皇女に、取り上げた唐揚げを差し出す。
「冗談だよ。沢山食べてくれ」
「は、はい…です…」
食欲には勝てなかったらしい。ヴァイオエレナ皇女が唐揚げに小さく齧りついた。ぽわぁっと少しはにかんで、モグモグと食べる。小動物みたいで可愛い。
改めて食卓の風景を眺める。モグモグと一心不乱に食べる王族が三人と、俺の可愛い契約悪魔が一人。何故こうなったのだろう。護衛にはちょうどいいけど。
「皆は何故この学園を選んだのか聞いてもいい?」
「「「王からの命令」」」
「ですよね…」
質問のチョイスを間違えた。うん、今のは俺が悪い。
今度は別の質問をしよう。大丈夫のはず。
「じゃあ、学園に入学したけど、これから何をしたい?」
「私は自分がしたいことをして生きる」
「日本では我儘しないんじゃなかったんですか、我儘皇女殿下?」
「黙りなさい、下僕!」
へいへい。黙りますよ。でも、クレア皇女はどうかしたのかな? ちょっと元気がないというか、思いつめた感じがする。何か理由があるのかもしれない。
「ボクは魔導を極めつつ、コネづくりかな。他にも、出来れば伴侶を見つけて欲しいって陛下から言われてるし」
「婚約者はいないのか? 意外だな」
「縁談は多いけど、全て断らせてもらってるよ。残念ながらボクの好みの人はいないからね」
だから、何故そのタイミングで俺にウィンクするんだ。本当に止めてくれ。
ルイ王子とはこれ以上喋りたくないので、ヴァイオエレナ皇女に話を振る。
「ヴァイオエレナ皇女は何をしたい?」
「ひぃっ……わ、わわわ私なんかが、好きなことをしたら…ダメ…なんです…」
ビクッと身体を震わせたヴァイオエレナ皇女、は食べるのを止めて椅子の上で小さくなった。
ヤバい。滅茶苦茶気まずい。地雷を踏み抜いてしまったらしい。こっちも何か理由がありそうだ。
シーンと静まり返る。ただ一人、アベルだけがパクパクとご飯を食べている。
流石です、アベルさん。マジすごいです。尊敬するっす。
イケメン王子。こういう時に貴方の出番だと思います。イケメントークで雰囲気を払拭してくださいよ! ご飯を夢中になって食べるふりをするな!
イケメン頼みにしていたら、下僕がこの空気をどうにかしなさいよ、とクレア皇女に紅い瞳で睨んできた。とても怖い。何とかするんで睨まないでください。
「え、えーっと……デザートにプリンがあるんですけど、食べます?」
「「「「食べる!」」」」
全員が身を乗り出して答えた。気まずい雰囲気が一瞬で吹き飛んだ。ヴァイオエレナ皇女までも目を見開いている。
君たちは王族ですよね? 口元にご飯粒がついていますよ。美味しそうに食べてくれるので嬉しいですけど。
王族に見えない王族たちは、礼儀作法を気にすることなく、デザートのプリンまでパクパクと平らげた。
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