第15話 実習
俺は小さくなって冷たい床に正座をしている。足が痛い。もう正座に疲れた。
ヴァイオエレナ皇女を鎖でエロティックかつアーティスティックに縛りあげたのがダメだったらしい。クレア皇女は非常にお冠だった。芸術がわからないみたい。
クレア皇女が燃えるような灼熱の紅い瞳で俺を蔑んで見下す。
「反省しなさい、変態エロ
「ごごごごめんなさいごめんなさい。私のせいでごめんあさい」
「ヴァイオエレナ殿下は悪くないから。全部下僕が悪いから」
「ごごごごめんなさいごめんなさい」
超ネガティブ思考のヴァイオエレナ皇女をクレア皇女が優しく慰めている。
面倒見がいいらしい。強引系が好きなマゾだとは思えないな。
班のメンバーのルイ王子が、歯を輝かせてイケメンスマイルを浮かべる。
「そろそろボクたちも実習を始めようか」
「ええ、そうね」
くっ! イケメンと美女。とても絵になる。悔しさと殺意が湧き上がる。イケメン滅ぶべし!
周りはもう既に実習を行っている。時々、爆発音が聞こえてくる。魔力暴走を起こしかけている生徒はミクルが防いでいる。
「まず聞きたいのだけど、悪魔の顕現はどうすればいいんだい?」
ルイ王子が、クレア皇女が連れている紅炎の美女や、妖精姿のアベルをじっと見る。
ちなみに、アベルは痺れた俺の足を突こうとしたので捕獲しております。
こらこら! 手の中で暴れるな! 蹴るな! 叩くな! 噛むな! 舐めるな!
「魔書に手を当てて願えばいいみたいよ。影響がないように出てきてって」
「なるほど」
イケメン王子の手の中に光り輝く魔書が出現する。光で出来た魔書のようだ。魔書の表紙に手を当てて願う。そんな姿も実にかっこいいい。イケメン死すべし!
光の魔書から神々しい光が溢れ出す。それが集まり一体の光の騎士を形作る。二メートルほどある純白の全身鎧の騎士。手には盾を持ち、腰には剣を帯びている。ルイ王子の契約悪魔だ。
「君がボクの悪魔だね?」
「………」
悪魔は無言で騎士の礼をする。騎士の悪魔は喋らない。喋れないのかもしれない。喋れない悪魔も珍しくはない。
ルイ王子には悪魔の言いたいことが伝わったらしい。イケメンスマイルで微笑む。
「ヴァイオエレナ殿下は…」
クレア皇女がヴァイオエレナ皇女のほうを見たのだが、ヴァイオエレナ皇女は泣きそうになりながらフルフルと首を横に振るだけだった。
「………無理やりは良くないわよね。気が向いたら悪魔を召喚してちょうだい。じゃあ、下僕。これからどうすればいいの?」
「あとはお好きなように。魔書の題名を思い浮かぶ時は人それぞれだから、これをすれば必ずできるっていう方法はないんだよね」
こればかりは個人差がありすぎる。すぐ思い浮かぶ人もいれば、数年かかる人もいる。
でも、アドバイスできることもある。
「一つ言うなら、欲を知ること、かな」
「欲を知る?」
「そう。悪魔は心の奥底の想いや願いや欲望や願望が形作る。自分が気づかず無意識に押し殺している欲を。それがテーマになっているはずだ。欲を知って願えばいい」
「欲望に忠実になれってこと?」
「そうとも言うし、そうじゃないとも言える。悪魔憑きは、大抵自分の欲望に忠実だ。自分がしたいことをする。興味がないことはしない。そこは欲に忠実だけど、欲に流されすぎると悪魔に喰われる。さっき見ただろ? 悪魔に甘く囁かれて誘惑された悪魔憑きの末路を」
クレア皇女やルイ王子の顔色が悪くなる。ヴァイオエレナ皇女はもともと顔色が悪い。
ミイラ男と首だけの女性。あれはまだマシな方だ。もっと悲惨なこともある。俺は欲望に忠実になり過ぎた者たちをたくさん見てきた。
「所詮自分の欲望だ。自分次第でどうにでもなる。怖がる必要はないさ。今日は魔書を調べたり、悪魔とお喋りしたりして、今の自分にできることを知ったらどうかな?」
ちょっとアドバイスしすぎたかな?
でも、頑張れ! 才能ある若人諸君!
「カインくんは物知りなんだね」
「下僕はずっと昔に契約したんですって」
「へぇー。もしかして、魔書の題名をもう知っているのかい?」
「まあね。《禁縛の魔術書》って題名だよ」
俺は正座したまま、手の中に鎖で封印された禍々しい漆黒の魔書を出現させる。
もう魔術書じゃないけど、昔はそうだった。嘘ではない。
クレア皇女が蔑んだ瞳で俺を見下す。
「き、緊縛!? この変態! 近寄らないで! 部屋から追い出してやるわ!」
「そっちの緊縛じゃない! このムッツリ皇女! 禁止の禁と縛ると書いて禁縛だ!」
「一緒じゃない!」
「あっ、お兄ちゃんは縛るの大好きだよ」
「ほら!」
こらアベルさんや。女性を縛るのは俺よりもアベルさんのほうがお好きじゃないですか。自分が縛られるのも大好きですし。
というか、クレア皇女。ちょっと期待顔なのは何故なのですか? やはりマゾなのですか? 縛っていいなら縛るぞ?
とりあえず今は、余計なことを言ったアベルを縛る!
妖精姿のアベルをネックレスみたいな細い鎖で縛ろうとしたら、スルリと逃げられてしまった。追いかけようとするが、足が痺れて立てない。そこへアベルが足をツンツンしてくる。
「うぎゃっ! アベル止めろ!」
「嫌! 例えお兄ちゃんの言うことでも聞けませ~ん! 今はツンツンしたい!」
俺たちは一進一退の攻防を行う。
むむむ! なかなかやりますな! うぎゃっ!
そんな俺たちをクレア皇女は呆れ果てて、ルイ王子は羨望の眼差しで見つめていた。
「馬鹿は放っておきましょう」
「ボクとしてはカインくんと固くて太い友情の鎖で繋がりたかったが、また今度にするよ。ボクたちも悪魔と仲良くならないとね」
「ヴァイオエレナ殿下。貴女も行くわよ。ここにいると馬鹿が
「は、はははい…わ、わかりました、です」
王族の三人は俺たちから離れて悪魔と対話をしたり、魔書を捲ったりし始めた。
俺は、こめかみに青筋を浮かべたミクルに拳骨を落とされるまで、アベルとワチャワチャを続けるのだった。
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