第14話 班のメンバー

 

 ミクル先生によるありがたいお話を聞き、ついでに拳骨も貰った後、俺たちは悪魔の名付けを目指して実習をすることになった。


「皆さん、三人から四人の班を作ってください。その班で実習を行います。この場所は強力な防御結界が施してありますし、私もいますから魔力暴走しても大丈夫です。安心して研究を行ってください」


 はーい。安心して俺もやりまーす。

 強力な防御結界を壊す。よくあるテンプレだよね。よし! 俺も全力を出して研究を…。


「カイン。お前は加減しろ」

「うっす!」


 生真面目な女性教師から一瞬だけ素に戻ったミクルが、正座している俺を鋭く睨んだ。流れ落ちる大瀑布のような殺気が降り注ぐ。

 俺は思わず視線をピシッと正して敬礼してしまった。

 分かったならさっさと行け、と手で追い払われたので、俺は美少女姿のアベルを連れてクラスメイト達の下へ向かう。

 クラスメイト達はグループメンバーの獲得に躍起になっていた。

 女子たちはイケメン王子に群がり、男子はクレア皇女に群がっている。下心満載だ。

 紳士諸君。気持ちはわかるが少しは隠しましょう。

 俺は熱いオーラを放ち、男子たちを紅い瞳で睨んでいるクレア皇女に近づく。男子たちは割り込む俺を睨みつけるが、アベルを見て放心状態になる。目がハートになって固まった。

 今だ。絶好のチャンス!


「クレア皇女~! あっそびっましょ~!」

「あ゛ん?」

「すんません!」


 クレア皇女は滅茶苦茶不機嫌だった。ドスの利いた低い声でガンを飛ばされた。

 だから、即座に頭を下げる。

 でも、ミクルもよくガンを飛ばすから俺は慣れている。


「俺と班を組んでくれませんか?」

「……まあ、下僕げぼくならいいわ。私の班に入れてあげる!」

「ありがたき幸せ」


 クレア皇女がぷいっと顔を逸らし、俺に背を向けた。そして、俺にだけ聞こえる小さな声で呟く。


「……私に何かあったらお願い」

「了解」


 少しは俺のことを信用してくれたらしい。嬉しいなぁ。

 でも、クレア皇女の声には、恐怖が滲んでいた。昨日の魔力暴走がトラウマになっているのかもしれない。

 可愛い子に頼まれたから、俺は全力で守るぞ!

 よっしゃー、とやる気を燃やしていたら、ふわっと甘い香りが漂い、俺の肩に手を回された。


「我が心の友のカインくん。ボクも君の班に入れてくれ!」

「断る!」

「あぅんっ! 刹那の拒絶! 素晴らしい!」


 へ、変態だぁ! ルイ王子は変態だったぁ! 近寄りたくない。離れてくれ!

 でも、俺の肩をガッチリと掴んで離してくれない。


変態ルイ王子は引く手数多だろ? 女子たちと同じ班になれよ」

「今、変な言い方をしなかったかい?」


 な、何のことですかー? 俺は知りませんよー。

 何故か超嬉しそうな変態…じゃなくてルイ王子が黄色い歓声を上げる女子たちにウィンクしたり手を振ったりする。……んっ? 女子の歓声が黄土色に腐ってる気が…。


「誘ってくれるのは嬉しいけど、ボクは君と一緒になりたいんだ」

「「「きゃー!」」」

「言い方! 『一緒の班になりたいんだ』だろうが! 紛らわしい言い方をするな!」


 ルイ王子の手を振り解き、バコンと頭を叩いてしまったが、変態は喜んで嬉しそうに叩かれた頭を撫でていた。

 なんでそんなにうっとりとしているんだ!?

 俺たちの様子を呆れ顔でクレア皇女が眺めている。


「うるさいわね、下僕。ルイ殿下も一緒の班でいいでしょう? 面倒くさい。さっさとやるわよ!」

「ありがとう、クレア殿下! よかったね。ボクたち一緒だよ、カインくん!」

「ちょっ! 我儘皇女の裏切者~!」

「ご主人様命令よ、下僕。私の命令は絶対よ!」


 へいへい。ご主人様のご命令には従いますよ。嫌々ですが。

 だから、ルイ王子! 俺に抱きつくな! 離れてくれ! 甘い香りとか、柔らかな肌でちょっとドキッとするだろうが!

 周囲はクレア皇女やルイ王子を諦めて、班を作り始めている。早いところは魔書のページを捲って、行動を開始している。

 しかし、ただ一人、クラスメイト達から離れてポツーンとしている少女がいた。クラスメイト達は彼女に近づこうともしない。

 不健康そうな真っ白の肌。あまり手入れがされていない灰色の髪。身長は低いが、胸は大きい。

 ヴィルヴァディ帝国のヴァイオエレナ第三皇女殿下だ。

 俺はルイ王子を乱暴に振りほどき、彼女に近づいて声をかけた。


「やあ。良かったら俺たちの班に来ないか?」

「ひ、ひぃっ!?」


 ヴァイオエレナ皇女はビクッとして、俺から後退っていった。地味に傷つく。

 人との接触を自分から拒んでいる印象を受ける。おどおどと怯えている。灰色の瞳は俺を捉えようともしない。俯いたままだ。


「一人じゃできないだろ?」


 背中を丸め、小さくなったヴァイオエレナ皇女が、辛うじて聞き取れるほどの小さな声で囁いた。


「で、でででも…私なんか……と一緒…じゃ……迷惑が……かかり…ます……から…」

「全然迷惑じゃないよ」

「ひゃうっ!?」


 いつの間にか妖精姿になっていたアベルが、ヴァイオエレナ皇女の背後に回って、耳元で優しく囁いた。びっくりした皇女は可愛い悲鳴を上げて飛び上がる。

 アベルは楽しそうに宙をクルクルと飛び回る。


「あっはは~! たっのしぃ~♪ ナイスリアクション!」

「ご、ごごごごめんなさいごめんなさい。驚いちゃってごめんなさい」


 ヴァイオエレナ皇女がペコペコと頭を下げながら、小さな声でブツブツと謝っている。


「おぉ~。ヴァイオエレナちゃんはこういうキャラか。名前長いからエレナちゃんでもいい? あっ、やっぱりヴィエナちゃんでいい?」

「ご、ごごごごめんなさいごめんなさい。名前が長くてごめんなさい。私、死んだほうがいいですよね。あはは…死のう…」

「ぬぉっ!? その二本の鋏をどっから出した!? 器用に心臓と首に突き刺そうとするな!」


 灰色の瞳を据わらせて、鋏を自分に突き刺そうとしたヴァイオエレナ皇女を、俺は慌てて鎖で縛りあげた。虚空から飛び出した鎖で皇女の身体が縫い留められ、身動きが取れなくなる。

 その隙に手から鋏を奪い取った。危ない危ない。


「なるほどねぇ~。ヴィエナちゃんは超ネガティブ思考か。でも、超けしからんおっぱい! 実にけしからん! うほほ~い!」


 妖精姿のアベルが、ヴァイオエレナ皇女の豊満な胸に飛び込んで、バインッと弾かれた。めげずに再び突撃し、抱きついた。実に羨ま…………羨ましい!


「ごごごごめんなさいごめんなさい」

「謝らなくていいよ。目を離すと危ないから、強制的に連行しまーす」


 鎖で縛られてエロい芸術と化したヴァイオエレナ皇女を引っ張って、クレア皇女とルイ王子のところへ連れて行く。


「けしからんおっぱい皇女の一本釣り! ムフフ! すんばらしいお胸様ですぞ、お兄ちゃん! 揉む? それとも吸う?」


 揉みませんし吸いません……………………今は。


「ごごごごめんなさいごめんなさい。けしからんおっぱいでごめんなさい。胸が大きくてごめんなさい。私なんか死んだほうがいいですよね…」

「ダメでーす! って、どこから鋏を取り出した!?」


 いつの間にか手に持っていた鋏を奪い取る。

 ヴァイオエレナ皇女も癖のある人物のようだ。危なっかしくて目が離せない。まあ、俺はこういう子も好きですよ。

 俺は我儘皇女と変態王子に笑顔を浮かべて手を挙げる。


「班に勧誘したメンバーを連れてきましたー!」

「最低」

「カインくん。実に男らしいよ!」


 班のメンバーを連れて来たのに、クレア皇女からは燃える灼熱の蔑みで睨まれて罵られた。ルイ王子は羨望の眼差しで、イケメンスマイルを浮かべている。

 クレア皇女その視線を止めて! ゾクゾクするから! そして、ルイ王子は抱きついて来るな!

 その間、鎖でエロティックに縛られたヴァイオエレナ皇女はずっと、ごめんなさいごめんなさい、と呟いていた。


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