第10話 同僚

 

こんにちは! 作者のクローン人間です。

訂正の連絡です。

第一話で地震を引き起こしたのはミクルでしたが、これを大規模魔法テロが引き起こしたものとします。

また、第四話に登場した素のミクルの言葉遣いを変更しました。クレアとキャラが被ってしまったので。

修正しましたのでご確認ください。

設定がガバガバで申し訳ございません。

これからもよろしくお願いします。


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 真夜中の学園。空には満天の星が輝いていた。

 空気が澄んでいるため、とても綺麗に見える。

 学園のあちこちではまだ明かりがついており、悪魔憑きたちが時間を忘れて研究しているのだろう。

 敷地内を出歩く人も多いし、月の力を借りて何かの魔法を発動させようとする人もいる。

 失敗して爆発音が響き渡ったが。

 俺とアベルは学園で一番高い塔の屋根の上に立っている。そこから周囲を見渡し、夜の闇に紛れて忍び込もうとする不審者の警戒にあたっている。

 時々、学園の周囲で様々な色が弾け飛んでいる。音は聞こえない。

 誰かがどこからか魔法攻撃を放ってきたのだ。

 だが、張り巡らされている結界に全て弾かれている。

 俺は星空に浮かぶ三日月を見上げる。そして、背後に向かって声をかけた。


「月が綺麗だな。そう思わないか?」

「死ね!」


 忌々しそうに吐き捨てる女性の声が聞こえ、突然、俺の背後の空気が揺れた。人の気配が出現する。

 ゆっくりと振り返ると、長い黒髪の巨乳美人が立っていた。

 シスター服とチャイナ服を融合させたような服を着ている。ボディラインがはっきりと露わになり、胸元が大きくはだけている。魅惑の深い谷間が覗き、胸がはちきれそう。腰骨辺りまである深いスリットからは綺麗な素足がチラチラと見え、下着の類は見受けられない。伊達メガネも外している。大胆でガサツで荒々しい印象を受ける。生真面目で有能な雰囲気は一切感じられない。

 俺が知っている素の状態の美弥みやミクルだ。


「アタシの部屋に来いって言った。何故来ない?」

「……おぉ! すっかり忘れてた。ごめんごめん」

「どうせそうだろうと思ってたが」


 はぁ、とミクルがため息をつき、ガシガシと乱暴に頭を掻く。

 鋭い眼光でキッと俺を睨む。


「それで? 何故お前がここにいる?」

「王族が多く入学しそうだったから追加の護衛。ついでに、仕事の報告をしないミクルのお目付け役」

「ちっ!」


 そんなに苦々しく舌打ちしなくても良いじゃないか。折角の美人さんが台無しだぞ。

 俺はミクルの全身を上から下までじーっと見る。ミクルは恥ずかしそうに胸と股を手で隠した。


「な、なんだよ! 目つきがエロい。死ねばいい」

「酷いなぁ。教師のコスプレも似合ってたけど、やっぱりその服のほうが似合ってるよ。可愛いし綺麗だ。そして何より、エロい!」

「うっさい! 死ね!」


 闇夜でもわかるくらいミクルは顔を真っ赤にしている。

 男勝りな彼女にしては可愛い反応だ。ずっと変わらない。とても懐かしく思える。


「数カ月ぶりか…。元気だったか?」

「アタシが今、元気なさそうに見えるか?」


 ミクルは艶やかな黒髪を撫で、ムスッと口を尖らせる。

 彼女らしい返答に、俺は思わず笑い声を漏らす。


「元気いっぱいに見えるな。餓狼ガロも元気か?」

「はい。元気です」


 ミクルの影の中から、声が聞こえ、一人の女性が現れる。

 頭に黒い狼の耳とお尻に尻尾が生えた、気真面目そうな雰囲気のしなやかでスレンダーな女性だ。

 ミクルの契約悪魔の餓狼ガロだ。


「ガロちゃんやっほー!」

「アベルさんやっほー!」


 アベルとガロが仲良くハイタッチする。二人は仲がいい。

 そのまま二人は仲良く喋り始める。しばらく放っておこう。

 じっと俺を見続けているミクルに話しかける。


「部屋、綺麗か?」

「うぐっ!?」


 ビクゥッと大きく身体が跳ねたな。実にわかりやすい。

 この様子なら汚部屋になっているだろうな。ミクルは掃除ができないから。


「掃除したほうがいいか?」

「……お願い」


 可愛らしい素直な返事だな。ミクルの可愛さに免じて掃除をしてあげよう。


「りょーかい。その様子なら運命の人にも巡り会えていないみたいだな」

「ええ。玉砕記録更新中です」

「余計なこと言わなくていい、ガロ!」


 ミクルがガロに殴りかかるが、空気を斬り裂いた拳はあっさりと避けられる。

 ガロも応戦を始めた。鋭い突きや蹴りの応酬が繰り広げられる。


「そもそも、アタシに男ができないのは、ガロとの契約の代償のせいだろうが! 『運命の人以外の男運を奪う』って何だよ!」

「願ったのはミクルです。私は代弁しただけですよ」

「アタシの運命の人はどこにいるんだよ!」

「そんなの私は知りません!」


 ミクルとガロの拳と拳がぶつかり合う。轟音が響き渡り、爆風が吹き荒れる。

 いつものことなんだけど、ちょっとやりすぎではありませんかね? 足元に罅が入ったし、爆風と衝撃波で学園の窓が割れそうだから。

 俺はスゥっと気配を消して二人に近づき、頭にゴッチーンと拳骨を落とす。


「お仕置きだ」

「うぎゃっ!」

「くぅん…!」


 二人は頭を押さえて蹲った。あまりの痛みに声すら上げられない。くぉー、と痛みに耐えている。今にも泣き出しそうだ。

 アベルは楽しそうに、蹲る二人をツンツンし始める。


「二人はお兄ちゃんの前だと子供っぽくなるよねぇ~。なんでだろうねぇ~。うっしっし」


 止めろ、と揶揄うアベルを鬱陶しそうに振り払い、蹲ったままミクルとガロが涙目で上目遣いに俺を睨みつける。


「パワハラだ。セクハラだ。婦女暴行だ。訴えるぞ」

「断固抗議します」

「料理洗濯掃除をしなくていいか?」

「「誠に申し訳ございませんでした」」


 ミクルとガロは即座に正座して土下座する。

 ふむ。素直に謝れて偉いぞ。頭を撫でると…ミクルが睨むから止めておこう。


「でも、タダでするのはなぁ。対価が欲しいなぁ」

「この悪魔め! 死ねばいいのに。…………今度奢ってやる」

「やけ食いやけ酒に付き合えってことだよな? 付き合うのはいいが太るぞ?」

「ふんっ! 不老っていいよな。年を取らないってことは成長しないってこと。体重も増えない!」


 そうでした。ミクルは不老でした。この美貌とスタイルを永遠に保ち続けるって卑怯じゃないか? 俺はグッジョブとしか言えませんけど。 

 美しさを維持するために研究を行う悪魔憑きソルシエールもいると聞く。

 正座しているガロが、同じく隣で正座しているミクルを指さす。


「対価でしたらミクルを差し上げます。貰ってあげてください」

「はぁっ!? な、何を言ってるんだ! このバカ悪魔!」

「では、私を貰ってください」

「ガロ! お前、いい加減にしろ!」


 ミクルがガロに飛び掛かった。そのまま押し倒し、二人はゴロゴロと転がって屋根の上から落ちそうになった。スリットがはだけて太もものギリギリまで露わになっている。眼福です。

 俺は虚空から鎖を放って二人の身体を絡め取る。鎖が蛇のように二人の身体を這い、縛り上げる。そして、空中に縫い付けた。


「ちょっ! 鎖が喰い込んでる。む、胸に…股にも…。エロカイン! わざとやってるな!」

「何のことかなぁー? 暴れてたせいじゃないかなぁー?」


 大きな胸の間や、スリットの隙間から股下に鎖が入り込んで喰い込んでいるのは偶然である。奇跡なのである。

 実に非常に大変眼福です。ありがとうございます。


「おっほぉー! お兄ちゃんナイス! 実に良い光景ですなぁ」

「だろ? 露出は一切していないのに、喰い込みだけで表現できるエロス。まさに芸術だ」


 俺とアベルは鎖に縛られた美女二人をじっくりと眺める。

 これは決して性的なことではない。エロスを表現した芸術なのである。俺たちがしているのは芸術鑑賞だ。

 ミクルが暴れれば暴れるほど鎖が身体に喰い込んでいく。


「カイン! 解け!」


 仕方がないから解こうかと思った丁度その時、ドォーンと大きな音がして、学園に施された防御結界が揺れた。外部からの大規模な魔法攻撃だ。何度も轟音が響き、結界が揺れる。

 どこからか、このセラエノ図書館学園に断続的に攻撃を仕掛けてきているらしい。


「さぁ~て。お仕事しましょうかね。ミクルがするか?」

「アタシがやる! だから解け!」

「いやいや。その鎖はただの鉄だから、自分で解けるぞ」


 物凄く身体に鎖を喰い込ませて、ジャラジャラと鎖の音を響かせながら暴れていたミクルの動きがピタリと止まった。一瞬目を瞑ってカッと目を開き、気合一閃で鉄の鎖を吹き飛ばす。縛っていた鎖が弾け飛んだ。

 アベルがニヤニヤと笑いながら、ミクルを揶揄う。


「普通の鎖だってことに気づいていたんでしょ~? どうして鎖を解かなかったのかなぁ~? もしかして、お兄ちゃんに縛られたかったりする?」

「黙れ!」

「うわぁ~ん! ミクルちゃんが虐めるよ~! 怖いよ~! お兄ちゃん助けて~!」


 怖がるフリをしたアベルが俺に抱きついて、顔をグリグリと押し付けてくる。俺は抱きしめて、アベルの頭を優しく撫でる。アベルは満足そうだ。ただ単純に俺に抱きついてイチャイチャしたかっただけらしい。

 ミクルの瞳に一瞬だけ羨望が浮かび、はぁ、と呆れのため息をついて、自分の魔書を手に出現させる。まだ続いている魔法攻撃に鋭い視線を向けた。


「行くぞ、ガロ」

「はい」

「「《追跡トレース》」」


 ミクルとガロの黒い瞳の中に複雑な魔法陣が描かれる。魔法攻撃を逆探知しているのだ。


「術式は西洋。場所は…ヨーロッパか。緯度と軽度がわかれば遠くからピンポイント攻撃するのも可能だが、お粗末すぎないか?」

トラップを感知。罠ごと喰らいつくします」

「場所の捕捉完了。ちっ! もぬけの殻か。まあいい。ガロ、全てを喰らいつくせ」

「了解しました」


 命令を受けたガロの口が開き、パクっと食べて何かを飲み込む動作をする。喉が艶めかしく嚥下するように動き、ゴクリという全てを飲み込む大きな音が響き渡った。

 二人の瞳から魔法陣が消え去る。魔法攻撃が収まり、学園は静かになった。


「お疲れー。報告書もよろしくー」

「い・や・だ! カインがやれ! アタシと同じ任務に来たんだろ?」

「なんでミクルの報告書まで書かないといけないんだよ。今の攻撃の場所も知らないし」

「アタシも知らん!」


 えぇー。逆探知したのに場所を把握してないの? ミクルらしいけどさぁ。


「…………掃除とかしてやらないぞ?」

「そ、それは困る…」


 少しだけ脅すと、サバサバしたミクルがはっきりと狼狽えてオロオロする。

 反応が可愛い。こういう時はちょっと乙女になる。

 その可愛さに免じて、今回だけは許してあげよう。


「次回からは気をつけるよーに」

「…………善処する」


 明らかに気をつけるつもりないよね、その返事は。それに、目も逸らしながら言ったよね。

 まあ、いいや。今回だけだぞ。

 ミクルに甘い俺は、その後も彼女と一緒に夜の学園の警護を行っていた。


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