第6話 予想外
ルームメイトのクレア皇女が灼熱の魔力を暴走させ、部屋の中を燃やし尽くした後、俺は後片付けをしたり学園側に連絡したりして過ごした。
やはり、入学後すぐに魔力暴走を引き起こす新入生は多いらしく、学園側の対応は慣れた様子だった。焦げた室内と罅が入った防御結界を見て驚かれたけど。
学園の職員によって、あれだけ焼け焦げていた部屋の中はあっという間に修復された。魔法ってすごい。
灰や炭になった家具も揃えてくれるらしい。搬入は明日になるらしいが。
部屋が直った時には日が暮れていた。俺は散らかしてあるクレア皇女の荷物をまとめ、お風呂を沸かしたり、ご飯を作ったりした。
学園内には自由に使えるお風呂や食堂もあるが、俺は家事が好きだし自炊しようと思っている。野菜や肉、魚などは学園内で栽培や繁殖や飼育されているらしく、希望者には無料で配布されるのだ。
魔導と農業、畜産業、漁業などを組み合わせる技術の研究か…。実に助かります!
やることも全部終わり、クレア皇女は気持ちよさそうにスヤスヤと眠っていたから、俺とアベルは先にお風呂に入ることにした。
お風呂は三人くらい余裕で入れる広々としていた。高級ホテルのスウィートルームかっ、と思わずツッコミを入れたくなるほど豪華だった。空間転移でもしてしまったのか、と何度か辺りを見渡してしまったぞ。何度確認しても、間違いなく寮の部屋のお風呂でした。
アベルとイチャイチャできたし、とても気持ちよかったです。
今は家具がないリビングの床に座り、アベルの白くて長い綺麗な髪をドライヤーで乾かしております。
「ぼえぇー」
アベルはとても気持ちよさそう。少し火照った褐色の肌はしっとりスベスベ。綺麗なうなじ。艶めかしい鎖骨。お風呂上がりの魅惑的な大人の色気を漂わせている。
神が造形した完全に左右対称で黄金比の身体には、薄くてラフな大きめのTシャツしか纏っておらず、裾からは肉付きの良い太ももが、胸元からは男を誘惑する深い谷間が覗いている。無意識に覗き込んでしまう。
「あぁー。気持ちいいなぁー。でも、ちょっと暑いなぁー」
暑いのは仕方がない。ドライヤーをかけていますから。もう少し我慢してくださいな。
アベルが片手で顔を扇ぐ。反対の手で服をパタパタとさせ、太ももや胸元が際どいギリギリのところがチラチラと見える。
見えそうで見えない。あと少しで見えるのに…。だが、それがいい!
男心がくすぐられ、俺はゴクリと喉を鳴らした。
「うふふ。お兄ちゃんのえっち♡」
アベルは、妖艶かつ悪戯っぽい笑顔で背後にいる俺に振り向き、可愛らしくチョコンとウィンクした。
おっと。我が可愛い契約悪魔さんには、俺の欲にまみれた視線が全てバレバレだったようだ。
俺は真面目な顔になって、アベルの髪を乾かすことに集中する。
アベルは脚をパタパタと動かして、ちょっと嬉しそうだ。
「一緒に裸でお風呂に入ったのに、まだ足りないの?」
「男という生き物はな。性欲が無限なんだよ」
開き直り、胸を張ってドヤ顔しながら我が契約悪魔に告げる。
ドライヤーはこれで終わりっと。お疲れ様でした。
アベルは身体ごと振り向いて、誘惑する悪魔っぽく蠱惑的に笑い、唇を真っ赤な舌でチロリと舐める。
「知ってる? 悪魔も欲は無限なんだよ?」
「だからいつも貪り喰われて搾り取られるのか!」
「うっしっし! 悪魔に勝てると思うなー! 喰いつくしてやるー!」
うきゃー、と楽しそうな声を上げて、アベルが抱きついてきた。抱きつかれた勢いのまま、俺は床に押し倒される。俺はアベルを抱きしめて拘束する。そのまま床でゴロゴロしながらイチャイチャする。
すると、ギギーッと僅かな音がして、寝室のドアがゆっくりと開いた。
眠そうな紅い目を擦っているクレア皇女がリビングに入ってきて、抱きついてイチャイチャする俺たちと視線が合う。
「おーっす! 身体は大丈夫かー?」
「おっはよー。いや、おっそよー! ぐへへ。可愛い寝顔だったのぉ~!」
こらこらアベルさんや。その涎を拭いなさい。俺に垂れそうだから。
ボケーッとしていたクレア皇女が、カァッと目を見開いて後退った。
「だ、誰っ!?」
クレア皇女が本気で警戒している。今にも叫んで助けを呼びそうだ。
ルームメイトの顔を忘れるなんて酷い。酷すぎる! よよよ…俺泣いちゃう。
「誰って、俺だよ俺」
「私だよ私」
「そんな詐欺みたいに言われても…本当に誰なの!? あなたたちみたいな超絶イケメンと絶世の美女なんて私知らないわよ! まさか暗殺者!?」
「「ほえっ?」」
思わず変な声が漏れて、抱きしめているアベルと顔を見合わせる。
超絶イケメンというのは誰かわからないが、クレア皇女が言う絶世の美女はアベルだな。
まあ、クレア皇女も俺から見たら絶世の美女なんだが。
というか、超絶イケメンって誰だ? ここには男は俺しかいないんだが、俺はイケメンなんて一回も言われたことないぞ。あまりに目つきが鋭くて、泣かれたり怖がられたり腰を抜かされたり気絶されたり何度も反社会勢力と間違われたりしたけど、イケメンと言われたことは皆無だ。
クレア皇女は目が悪いのか?
「そう言えば、クレア皇女はアベルの妖精姿しか見てなかったな」
「そう言えば、お兄ちゃんはお風呂上がってから、前髪をあげて、メガネはかけてないね」
「この美女はアベルだぞ」
「このお兄ちゃんはお兄ちゃんだよ」
アベルさんよ。お兄ちゃんはお兄ちゃんって、確かにそうなんだが、その説明だと伝わりにくくないか? クレア皇女が混乱しているぞ。
なかなか分かってくれないので、俺たちはさっきまでの姿に戻る。
アベルは縮んで妖精の姿となり、俺は曇ったレンズのメガネをかけて、髪をボサボサにする。
クレア皇女が綺麗な目をパチパチと瞬かせた。
「えっ? えぇっ!? 確か…カインと契約悪魔のアベル…だっけ?」
「「いえーす! おふこーす!」」
俺たちお得意の平仮名英語で肯定し、ニコッと笑ってサムズアップをする。
クレア皇女は目を見開き、美しい口元を綺麗な両手で押さえる。
「えぇぇぇぇええええええええええええええええ!?」
勝手に予想外の展開に陥って、驚愕したクレア皇女の悲鳴が、修復されたばかりの部屋の中に響き渡った。
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