第3話 教室
無事に入学した俺は、割り当てられたクラスへと移動し、席は自由とのことなので、適当に後ろの席を取って座っていた。
教室の中は全て最新の機器が備え付けられている。電子黒板に、電子画面が備え付けられた机。映像が3Dに浮かび上がる機能も付いているらしい。
時代は進歩したものだ。電子機械を研究している悪魔憑き達に感謝の意を表したい。
他にも、目を凝らして魔力を使わないと視えないが、教室の床や壁や天井にびっしりと魔術文字が記されており、複雑で強固な防御結界が敷かれている。
これなら、万が一教室で魔力を暴発させても防ぐことができるだろう。
教室には、最終試験で見事悪魔憑きとなって入学した世界各国の少年少女たちが集まっていた。この教室には40~50人くらいいる。
俺の肩に座っていた妖精姿のアベルがふわりと舞い、教室中を見渡し始めた。
「おうおう! 可愛い子はいねがー。綺麗な
「何故になまはげ?」
「そういう気分なんだよ、お兄ちゃん。おぉっ! カワイ子ちゃんはっけーん! ぐへへ。まだ男を知らない未熟な果実は堪りませぬなぁ。青いのぅ」
アベルが楽しそうにヒュンヒュンと飛び回る。楽しそうなのはいいんだが、そのエロ親父みたいな欲深いニヤニヤ笑いとダラダラと垂れ流す涎はどうにかしなさい。淑女なんだから気を付けなさい。
「むむむっ? あの女の子はファーストキッスを済ませておりますなぁ。ませておる。非常にませておる。でも、実に良いのぅ」
「アベルさーん。キャラがおかしくなってるぞー。そして、その少女はどこだっ!?」
「あの茶髪の女の子」
「ほうほう。あの子か」
アベルが茶髪の女の子を指さす。大人しそうに見えるのだが、この年でファーストキッスを捧げているのか。
ませておる。非常にませておる。でも、実にすんばらしいのぅ。
おっと。アベルの変な口調が
でも、アベルは何故わかるのだろう? 女の勘って奴か?
「ふむふむ。あの紅い髪を三つ編みハーフアップにしているのがクレア皇女だね? うほほ~い! チョー綺麗じゃん! これは堪りませぬなぁ」
ローゼンヴェルグ皇国のクレア皇女を見つけて、アベルのテンションが限界を突破する。ちょっとウザいくらいビュンビュンと飛び回る。
ツンと気が強そうに机に頬杖をついているクレア皇女は、燃えるように熱いオーラをまき散らし、周囲に人を寄せ付けていない。クラスの男子たちがチラチラとクレア皇女を見つめているが、すべて無視している。
「ツンデレさんなのかな? ツンデレさんだったら可愛いなぁ」
「アベルは楽しそうだな」
小さな妖精がクルクルと楽しそうに舞い踊る。
「当ったり前じゃん! もう最っ高! おっほぉー! あの子はおっぱい大きい~! あの胸に飛び込みた~い」
「あれはヴァイオエレナ・ヴィルヴァディ皇女殿下だな」
灰色の髪の巨乳の少女が背中を丸め、身体を小さくさせて席に座っている。
悪魔召喚の噂が伝わっているのだろう。死の気配は恐怖を誘うからな。周囲の人はできるだけ近寄らないようにしている。
でも、多くの男子はヴァイオエレナ皇女の胸に視線を向けている。
気持ちはよくわかるぞ、お年頃の青少年諸君。
「ヴィルヴァディ帝国の第三皇女? ふむふむ。暗い雰囲気だけど、あの子はちゃんとお化粧したりオシャレしたら化けそうだね。お兄ちゃん唾つけとく?」
それもいいかもしれないけど、取り敢えず、仲良くなることが先決だ。じゃないと護衛と監視が面倒だ。ひっそりと護衛と監視をする基本は、対象と仲良くなって近づくことだ。
俺たちが女子の観察をしていると、教室の一角で、きゃー、と黄色い歓声が上がっった。ほとんどの女子がある男子に群がっている。
「すごい人気だな、ルイーツァリ王子殿下は。イケメン死すべし」
甘いマスクの王子が女性たちをトロットロに蕩けさせている。さりげなく手を握ったり、微笑みかけたり、ウィンクしたり、女を堕とすテクニックを極めている。
国ではモデルもやっているらしい。世界中に熱狂的なファンもいるという。
俺にもそのテクニックを教えてくれ~!
「カヴァリエーレ騎士国のイケメン騎士王子かぁ。私は興味なーい。でも、本当に男? 女装させたら滅茶苦茶可愛くなりそう」
「イケメンが女装すれば必ず可愛くなるんだよ。顔の形がいいからな。ちっ! 滅べばいいのに」
「ほらほら機嫌直して。お兄ちゃんには私がいるからね~。よしよ~し」
アベルがふわりと飛んで、小さな手で頭をナデナデしてくれる。
この優しさが荒んだ俺の心を癒してくれる。アベルは俺の天使だ。
おっと。天使じゃなくて悪魔だったな。それに、天使には嫌な思い出しかない。
あとで愛しいアベルをたっぷりと可愛がってあげよう。
ローゼンヴェルグ皇国のクレア皇女と、ヴィルヴァディ帝国のヴァイオエレナ皇女と、カヴァリエーレ騎士国のルイーツァリ王子の三人が俺の護衛対象となる。試験には大勢いたのに、俺の護衛対象はたったの三人だ。
他にも世界各国の重鎮の子息令嬢も入学したが、護衛の優先度は低い。
上級生にも王族などの子息令嬢がいるらしいし、あとは元々この学園の護衛についているアイツと連携をとればいいか。
まだ俺が派遣されたことも、任務そのものも報告してないけど大丈夫かなぁ。甲高い声でキーキーと騒がれそうだなぁ。言いたくないなぁ。
憂鬱で落ち込んだ気持ちを可愛い女子を眺めて吹き飛ばそうと思ったら、スッと静かに消音設計のドアが開いて、メガネをかけた生真面目そうなスーツ姿の女性が入ってきた。
教壇に立ち、メガネをクイっとあげて、鋭い声で教室中に言い放つ。
「全員着席してください」
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