11.2.移動


「えー! もう行っちゃうんですかー!?」

「すまぬなテトリス。茶、うまかったぞ」


 すっかり料理の腕が上手くなったテトリスの店を最後に、木幕一行はローデン要塞を発つことにした。

 本当であればもう少し長居したかったが、木幕はまだ目的を達成したわけではない。

 レミとスゥもそのことは分かっており、着いていくことにした。


「うええ、じゃあお弁当とか……」

「構わぬ。気持ちだけで十分だ」

「だそーよテトリス」

「ちょっとティアーノ! もー!」


 そのやり取りに、レミとスゥはクスクスと笑った。

 相変わらずティアーノは木幕に対して冷たい。

 全く変わらないなと思いながら、彼らは店を後にしたのだった。


 姿が見えなくなるまで見送った二人は、店の中に入る。

 まだ昼の仕込みの最中だ。

 それをやってしまわなければならなかった。


 雪道を歩いていく木幕一行。

 冒険者ギルドに行けば馬車が出ているはずだ。

 とは言ってもクープでの移動になるので、また少し時間が掛かるだろう。


 しかし今日はいい天気だ。

 これであればすぐにでも出立できるだろう。


「木幕さーん! レミさぁーん! スゥちゃーん!」

「む」


 雪に足を取られながら、ロストアがやってきた。

 彼だけは生き残ったらしい。


 ロストアは三人の前で立ち止まってから、深く頭を下げた。


「ありがとうございました!」

「……?」

「師匠、何かロストアさんにしてあげたんですか?」

「いや、特に何もしておらん」

「ええー! いやいや! 魔王軍に勝てたのはもう木幕さんの陰じゃないですか! 勇者として、礼を言うのは当然のことです!」

「そうですね」


 ひょこっと隣から、ミルセル王国勇者のトリックが顔を出した。

 足は既に治っているようで、身軽な足取りでこちらまで近づいてくる。


「私からも礼を言います、木幕さん。ローデン要塞で貴方が戻ってきてくださらなければ、私たちは負けていたでしょう」

「結果的に敗走したのだ。同じこと」

「そんなことないですよ。木幕さんとウォンマッドさんが来てくれて、態勢を整える時間を作ってくれたから壊滅せずに済んだんです。本当に、感謝しています」


 トリックもロストア同様、頭を深く下げる。

 そんなに大層なことはしていないのだがなと思いながらも、その例を受け取っておくことにした。


 二人は礼を言って満足したのか、自分の仕事に戻って行く。


「正義感溢れすぎるというのも、少し問題だが……。まぁあの者たちなら問題ないだろう」

「ロストアさんが勇者ですもんね~。また鍛えてあげないとですね」

「そんな時間があると思うか……?」

「ふふ、確かに」

「っ!」


 次、いつリーズレナ王国に行けるか分からないのだ。

 道すがらであれば行けるかもしれないが、今のところ向こうに行く予定はない。


 そう言えば、レミの故郷ではそろそろ人々が戻る頃合いだろうか。

 春前に戻って種を植えていればいいのだがと、木幕はふと思った。

 逞しい彼らであれば、また戻ってあの村を再興していくことだろう。


 木幕たちがギルドに行くと、すぐに歓迎された。

 丁度良かったので馬車の件を話してみれば、すぐに見つかって乗せてもらえるように工面してもらえたようだ。


「もう行くのかい?」

「ああ。世話になったな、ドルディン」

「礼を言うのはこっちさ。助かったよ、木幕」


 ドルディンは木幕に手を差し出す。

 それを握り返して、二人は強めに振った。


「次はどこにいくんだい?」

「決めておらんな」

「下町から北西に行った所に、チルダワ領という場所がある。森が豊かで住みやすい場所だ。行ってみてはどうだ?」

「ふむ……どうだろうか、レミ」

「いいと思いますよ。行ったこともないですし、私もそんなところがあるなんて知りませんでした」

「最近できた街だからね。知らないのも無理ないさ。馬車で一ヵ月そこらで行けると思うよ」


 丁度いい場所にあったものだ。

 だが行かない理由もないし、当てもないのでそちらへと向かうことに決定した。


 チルダワ領行きの馬車を見つけ、とりあえず下町まで向かうことになる。

 出発はもうすぐだということだったので、荷物を魔法袋に突っ込んで早速乗ることにした。


 これからまた旅が始まる。

 レミとスゥはそれを楽しみにしながら鼻歌を歌っていた。


 馬車が動き出す。

 クープが雪を踏み潰しながら歩いていき、馬車の道を形成していく。

 少し揺れるが問題はない。

 そのまま少し眠ろうと、木幕は外套を羽織って縮こまったのだった。


(すまんな、レミ、スゥ)


 心の中で謝った後、彼は眠りに落ちた。

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