11.3.決行


 寒冷地であるローデン要塞を後にした木幕一行は、途中から馬車を降りて徒歩で移動をしていた。

 森の中は少し肌寒いが、自然が豊かで気持ちがいい。

 スゥにはここがいい遊び場になっているらしく、根っこを飛び越えたり、ぶら下がっているツタでに掴まって移動したりと、森での遊びを楽しんでいる様だ。


 また徒歩なのかと、レミだけは少しうんざりしている。

 しかし体力が付くのは事実。

 仕方なく付き合うようにして、二人の背中を追った。


「レミよ」

「あ、はいはい?」

「強くなったな」

「え、なんですか急に……」


 足を止めた木幕は、レミを見る。

 昔は棒を回すだけでも一苦労だったのだが、一日として稽古をさぼらず、様々な経験を積んだ彼女は確かに強くなっていた。

 まだ木幕には追いつけないだろうが、それでも近しい能力を有しているということは、実力のある者から見ても分かることだろう。


「スゥは奇術の使い方が上手くなったな。できるだけ葉我流も取り入れようと頑張っている」

「っ? っ!」


 コクリと頷いたスゥは、自信満々に親指を立てた。

 葛篭の使っていた刀を使い、そして奇術をも身に着けている。

 これだけの才覚があれば、もう自分が教える事はない。


 それはレミも同じことだ。

 自分が教えられることは、もうほとんどない。

 放ったらかしにしていたことも多くあったが、それはそれで自分を高めるために思案し、良い経験になっていた。


 もう、自分がいなくても問題ないだろう。

 木幕は葉隠丸を抜刀する。


「え、師匠?」

「??」

「すまぬなレミ、スゥよ。某が神を討つには、十二人目の侍を殺さなければならん」

「ん? だからそれを探し……に、行く……の……」


 はっと何かに気付いたレミは、咄嗟に走り出して木幕に掴みかかろうとする。

 だが、遅かった。


 ザスッ。

 木幕は腹部に刃を入れ、二文字を入れた。

 次の瞬間小太刀を抜き放ち、心臓付近に突き立てる。


「師匠!!!!」

「!!?」


 倒れていく体を支えたレミは、すぐに傷口を抑えようとする。

 だが臓物が出ており、傷は深すぎた。

 スゥも近づいて木幕を叩く。

 心配そうに見つめる彼女は、既に涙を流していた。


 膝をついた木幕は、横から倒れてしまう。

 支えていたレミであったが、急な重さに耐えられなかったようで、自分も倒れてしまった。


「っ!! っ!!」

「駄目! ダメダメダメダメ! 師匠!!」

「……分かって、いた事、だろう……」

「なんで!! なんで!!」


 レミは走り出した瞬間、木幕の言葉の意味を完全に理解した。

 十二人目の侍というのは、木幕本人であるということに。


「こ、こんな……! こんなのあんまりでしょう!!」

「これが……神へた、どりつく、ための……方法、なのだ……」

「他にも……あったでしょう!! 私たちが知らないだけで!! あったかもしれないじゃないですか!!」

「……」

「っ!!」


 寒くなっていく体で、力を振り絞る。

 ガッとレミとスゥの服を掴み、体を起こす。


「頼みがある」

「そんなの後で聞きますから!! 死んじゃダメです!!」

「一刻、戻らなけ、れば、某を……燃やせ」

「なんで……なんでぇ……!!」


 ついに大粒の涙を流し始めたレミは、力なく木幕を叩いた。


「なんで……言ってくれなかったんですか……うぅ、うああぁ……!」

「……ケリを……つけてくる」


 力んでいた力が緩み、体が地面に落ちる。

 その光景を見てしまったレミは、固まった。


「…………ああ、う、うぅ……」

「っー!! っ!!」


 スゥが木幕を揺するが、起きる気配はない。

 血が彼女らの足元にまで広がっていく。


 大きな森のなかで、一人の男性の死を悲しむ鳴き声が、木霊した。

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