10.73.砲撃
今回は人間軍が優勢の状況から、本格的な戦闘が開始された。
どのような場合においても、守りより攻めの方が優勢である。
それは敵を待ち構える時も同じであり、魔王軍は爆発と炎に怯んで防衛の構えを取ってしまった。
死を恐れない魔物でも、炎や爆発を受ければ壊滅してその構えを取らざるを得ない。
どれだけ大きな魔物であっても、それは同じだ。
接近した人間の兵士が、果敢にも大型の魔物に駆け寄って武器を振り上げる。
斬撃、打撃、爆破、魔法。
できるすべての攻撃を叩き込み、一匹を沈める。
まだ混乱している状況だからこそ、大型の魔物は人間の動きに付いて来れていなかった。
実力のある者は一人で一匹を確実に仕留め、兵士は三人以上で立ち向かい、弓使いや魔導兵はその援護を全力で行っている。
それにより討伐はスムーズに行われ、脅威だった大型の魔物は次々に撃破されていった。
範囲攻撃を得意とする槙田、木幕の快進撃は凄まじいものであり、一度の攻撃で十以上の魔物を細切れ、もしくは焼却している。
左翼は若干苦戦している様だが、孤高軍の精鋭と三強が揃っているのだ。
そう簡単に負けはしないし、ライアの的確な指示が兵士たちを動かしていた。
指示がある、ないでは彼らの動きは変わってくるだろう。
目的、行動を指定された兵士は、それを実行するだけでいい。
あとは目の前にいる敵を潰せば次の指示が飛んでくる。
これ程にやりやすい戦闘は他にはないだろう。
左翼は今、弓兵からの援護は受けていない。
未だに水瀬が上空の敵を撃ち落としている最中だからだ。
その代わりと言っては何だが、後方に待機していたリーズレナ王国の兵士たちが合流してくれた。
そのまた後方から、ルーエン王国の兵士が上がって来て弓を構えて待っている。
上空にある水が消えれば、すぐにでも一斉射撃の構えを見せてくれていた。
あとはここでどれだけ耐えられるかである。
だが今の状況は優勢。
更に大型の魔物は人間軍の攻撃に怯んでおり、本来の動きを発揮することができていない。
だがそれも後方から今まさに向かってきている援軍が到着するまでのことだろう。
数的有利が安心感を与えれば、今度はこちらが不利になる可能性がある。
「あと少し……!」
水瀬は水を操り、敵を一匹ずつ仕留めていく。
もう少し時間はかかりそうだが、この調子であれば敵の援軍が合流するまでには始末することができそうだった。
ドォン……。
遠くから砲声が聞こえた。
それはこの激しすぎる戦場では誰も聞くことができなかっただろう。
ただ、遠くで弓を構えていたルーエン王国の兵士だけは、聞こえたかもしれない。
風を切る音が聞こえた時には、すでに遅かった。
ドゴオオン!!
土が高く舞い、近場に居た兵士たちのほとんどが吹き飛ぶか潰されるかの二択を強制的に選択される。
それはルーエン王国の兵士がいる場所へと着弾した。
最後尾。
一番後ろの兵士にまで、その砲弾は飛んできた。
今人間軍がいるこの場所は、魔王城が所有する大砲の射程範囲内。
「なに!? かなり遠いはずだぞ!!?」
最後尾で指揮を執るバネップが、立ち上がって叫んだ。
だがよく考えてみれば、魔王軍が自ら突撃してきたことに違和感があった。
守りに入るのであれば、向こうからは動かないのが定石。
だというのに敵は自ら突っ込んできたのだ。
その理由は、大砲の射程範囲内に人間の軍勢が入っているから。
何故そのことに気づかなかったのかと、バネップは頭を掻いた。
明らかに遠すぎる距離からの砲撃など不可能だと思っていたのだ。
これが分かっていれば、敵が攻めて来た瞬間に撤退させていた。
だが今更撤退したとしても、相手に更なる追撃を与えてしまうだけだ。
ここまで来た以上、撤退はない。
音を聞いた誰もが、それを理解していた。
大将格は直ちに指揮を執り、前へ進めと叫ぶ。
大砲を撃ち落とせる可能性のある者だけが、その場に立ち止まって集中している。
幸いまだ一発だ。
次の砲声も聞こえないところから察するに、ここまで届く大砲は一つしかないのかもしれない。
「……あの二人に任せるしかないか……」
バネップは頷き、また座る。
近くにいたクレインも心配そうに前線を見つめていた。
時間との勝負だ。
やはりどちらにせよ、早期決着を迫られる。
長引けば大砲のいい的になってしまうだろう。
だがこの状況を抑えられる人物二人が、今魔王城へ侵入しているはずだ。
彼女らであれば、もしかしたら……。
この戦況をひっくり返すことができるかもしれない。
砲撃手をなんとかしてくれれば、こちらは何とかなりそうだ。
今回は色んな武器を使うことができる。
しかし任せているのが二人というのは、やはり心もとなさすぎた。
だが、やってもらわなければならない。
そんな期待を込めて、バネップは願ったのだった。
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