10.33.ローデン要塞での軍議
数人の主要人物が、集まっていた。
とはいえ先ほどここで話していた面々が揃っているだけだ。
少し人数は増えたが、それでも問題はない。
ここに居る人物を再確認しよう。
まずはローデン要塞の元勇者、メディセオ。
勇者のティアーノに、見習のテトリスとギルドマスターのドルディンだ。
次にルーエン王国の公爵、バネップ。
その執事のクレインと、使用人のリューナ。
孤高軍三強の一人、グラップ。
加えて木幕、槙田、水瀬、西形、レミ、スゥ、エリーである。
ミルセル王国の二人はあれから帰って来ていないようで、この場にはいない。
もう話し合いは終わったと言わんばかりに出て行ってしまったので、今更呼び戻しても帰ってくる事はないだろう。
なのでできる限りの話はここで終わらせておく。
またリーズレナ王国の兵士やライアたちが来た時に話し合いの場を設けなければならないのだ。
その時円滑に進められるようにしておきたい。
準備ができたところで、木幕は声を上げる。
「軍議だ」
「軍議ってなんですか」
ローデン要塞のギルドに集められた面々を前にして、木幕は進行を務める。
だがそもそも軍議というものはこの世界に馴染みのない言葉だったらしい。
出鼻をくじかれたようで、木幕は一瞬固まってしまう。
そこでレミが補足する。
「あー、多分作戦会議って意味だと思います」
「なるほど」
全員が理解してくれたことに、レミは少し安心した。
腑に落ちないように眉を潜めていた木幕だったが、進行することができるようになったので良しとする。
作戦を考える前に、まずは前線を知らなければならない。
そこでドルディンが用意してくれた地図を見ながら、小石を握る。
ということで地形を頭の中に入れていく。
まず地図を見てみると分かるのだが、ローデン要塞は円形の姿をしている。
一番強固な守りを誇る東側の城門は、例え投石機を当てられたとしても耐え凌ぐ程の分厚さを有していた。
ここが突破されるということは、ほとんどないだろう。
だが逆に他の方面は脆く、薄い。
今までに違う方向から攻めてくることなどなかったのだ。
それに相手も遠回りをして陣を敷く必要がある。
あの時の戦いには相当の時間を有したはずだ。
今回はその心配がないとは限らない。
警戒を怠らずに陣を張る必要がある。
閑話休題。
地形だが、東側の城門の左右には切り立った崖があり、ローデン要塞へと入る為にはここを通らなければならない。
こちらとしては最高の防衛施設ではあるのだが、向こうにとっては危険極まりない要塞だ。
崖の奥は暫く山が連なっており、その先を越えると広い雪原が広がっている。
これは先ほど木幕たちが通った道なのでよく覚えていた。
雪原は広大で、障害物などがほとんどない。
切り立った崖に見張りを置けば、その様子を随時観察することができるだろう。
「さて、何処に本陣を置くかだな。総大将バネップ殿。何か提案はあるか?」
「ふむ。指揮官がやられると負けが確定する。儂はローデン要塞で指揮を執るべきだ、と言いたいところだが……。前線に兵が出て戦うことを考えると、その様子が見れないのは良くないな。なので、ローデン要塞東側の奥、雪原へ出たとこに構えるのがいいと思うのだが」
そう言ってバネップは指を指す。
彼が示した場所はローデン要塞の東側で、後ろに後退すれば東城門へと逃げることのできる場所だ。
「その場から陣は見えるだろうか?」
「見えんな。そこに居ると見せかけ、本当の本陣は山の上に移動する。兵は少なくていいじゃろう」
「ふむ」
悪くはない提案だ。
だが柳にはすぐにばれてしまうだろう。
とはいえ木幕は味方の陣が見えないところでも何度か指揮を執った経験がある。
適任もいることだしと思いながら、木幕はエリーを見た。
「……えっ?」
彼女とウォンマッド斥候兵にはその二つの役職を任せるつもりだ。
斥候兵と忍び。
どちらもこの役にはうってつけだろう。
とりあえずバネップの提案に頷き、その方針で陣を形成することにする。
本陣は切り立った崖の中腹……ローデン要塞から見て右側の山にする事が決定した。
偽の本陣は状況が変化したらすぐに動けるように、機動力の高い兵士を配置する。
「雪上での戦闘で、何か気を付けなければならぬことはあるか?」
ふと気になったことを木幕は口にする。
今回の戦いは普通の足場ではない。
足が地面に沈むためその動きは遅くなってしまうだろう。
なので馬などはそもそも使えないし、ローデン要塞の冬の寒さに耐えることができないので飼育はしていない。
その問いにはローデン要塞の面々が答えてくれた。
「機動力はそもそも期待しない方がいいです。立ち向かうより迎え撃つのを前提にした戦い方の方が、私たちは得意なのです」
「うむ。無駄な体力を消耗するよりは、陣を配置した場所から動かずに戦うのが儂らの戦い方じゃ。弓兵、魔導兵で向かってくる敵をあらかた始末し、討ち損じた敵を前衛の儂らが狩る」
「もし戦況が悪くなった場合、兵を増援として向かわせるのなら予想の三倍はかかると思っていいわ」
「三人の言う通りです。なので偽の本陣に割く機動力の高い兵といえば、この環境に慣れている千八百のローデン要塞の兵士たちしかありません」
彼らの言葉を聞いて、木幕は一度考える。
ローデン要塞の兵力は主力兵士とは別格だ。
それを防衛に回すのはあまり良い策とは言えないだろう。
話を聞いて策を提案したバネップも難色を示した。
囮の本陣の意味がなくなっているのであれば、この策は有効ではない。
であれば必要な箇所に兵士を配置した方が良いだろう。
「ふむ、であれば本陣は分かりやすくしてやるとしようか」
「賛成である。では陣を組んでいこう」
バネップが陣を構える場所に、兵士を配置する。
とりあえず本陣の場所が分かれば、味方からもまだ本陣があるかの有無が確認できるはずだ。
あとは約五万の兵の位置取りを決定していく。
一番数の多いバネップ率いるルーエン王国兵半数を中央に鶴翼の陣で展開。
残りは前線へ投入することとなった。
バネップはその中で数名の指揮官を選んで役割を任せて行くそうだ。
今決められる中で残っているのは孤高軍とローデン要塞の兵である。
その中でまた大賞を決め、任せる兵士を分けて行きたいがこれは時間が掛かりそうだ。
まず陣の位置を決めておきたい。
「木幕さん。渡したりローデン要塞の兵士は前線へ置いてください。一番役に立てるでしょう」
「良いだろう。では今後到着するであろうリーズレナ王国兵との連合軍とする。
その流れであれば、孤高軍の陣形も決まってくる。
「西形。お主は
「お任せくださいませ!!!!」
待ってましたと言わんばかりに、西形は嬉しそうにしていた。
これだけやる気があれば問題ないだろう。
「水瀬、レミ、スゥ。お主らはその左翼にて
「分かったぁ……」
「了解です!」
「っ!」
「分かりました」
兵の数はおいおい決めて行かなければならないが、それはライアたちの兵力を待ってからにしよう。
「そ、総大将! 俺は何処に!?」
「グラップであったな。ではお主は西形と共に前線へ参れ」
「承知いたしました! 西形様! 宜しくお願いします!」
「よろしくね! だけど一番槍だけは譲らないからね!」
万に一つも西形が前線を任せられて負けるということはないとは思うが、功を急いてたたらを踏まないようにだけは祈っておこう。
大体の陣形は決まった。
リーズレナ王国からは勇者一行のガリオルが来るはずなので、この陣形にも満足するだろう。
問題は……ミルセル王国の兵士だ。
なんとも厄介な人材だと思いながら、彼らに任せる場所を吟味する。
「……希望通り、籠城をしてもらうか」
「それってもしかして、ミルセル王国の王子の事かい?」
「ドルディンはどう思う? あの者が前線を務めて役に立つと思うか?」
「あの勇者は少なくとも動いてくれるでしょうが……戦争を知らなさそうな第三王子は不安でしかありませんね」
「だろうな」
ミルセル王国も妙な人員を連れて来たものだと、若干呆れる。
だが少なくともローデン要塞の守りは必要だ。
一万の兵を半分に分けて南と北に配置させるのが良いだろう。
魔王軍もローデン要塞を落とさずにこちらだけで戦うとは思えない。
それに医療班はローデン要塞に居てもらうつもりだ。
それを考慮すると、やはり防衛にあたる兵士は必要である。
一万をすべて防衛の回すのは少しやりすぎかもしれないので、あとは彼らの意見を聞いて前線へ出るか否かを聞いておこう。
「よし、あとは各々、各大将に任せる兵を吟味してくれ」
誰もがそれに頷き、今日の軍議は終了したのだった。
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