10.27.兵の割り振り
まず行わなければならないのは、誰がどれだけの兵力を担うかである。
それによって任せることのできる場所が変わってくるのだ。
連れてきた人物がその兵の総指揮官となるのが一番手っ取り早いのだが、どちらにせよその確認は必要である。
だが孤高軍とローデン要塞は既に決まっていた。
「木幕総大将! 俺が連れて来た兵士は貴方に任せます!」
「……全一万七千の兵か……」
「木幕、私たちローデン要塞の兵も任せていいだろうか? お前であれば誰もが従う」
「となると、一万八千八百……か。某は構わぬぞ。だがその中でも兵を分ける」
「その辺は好きにしてくれていい。メディセオもそれでいいだろう?」
「うむ。采配に期待しておる」
「私も大丈夫ですよ!」
ティアーノは何か言いたげだったが、木幕の実力は彼女も知っている事だ。
なので個人的な感情で発言はしなかったらしい。
成長したものだと、木幕は満足げに笑った。
今度は目線がバネップにいく。
だが彼は自分の兵を自分で動かした方がいいと考えていた。
「儂の兵は儂が持とう。忠義を尽くしてくれる者も多いからな」
「リーズレナの兵士は、リーズレナ王国の勇者に任せますか……?」
「お、リューナもいいところに目を付けるようになったな。それでいいはずじゃが……、奴らが兵法を知っているかどうかは分からぬな……。来てから聞いてみることにしようか」
それが妥当だろう。
やはりできるだけ、彼らは彼らで行動してくれた方が助かる。
その方が連携も取れるだろうし、自分たちの力を発揮できるはずだ。
なのでミルセル王国の第三王子にも自分の兵を任せることにした。
「ふん! 誰に物を申しているのか。当たり前のことだ」
「まぁこれは想定の範囲内……。んじゃ、問題となっている話をしますよー……」
心底気乗りしないと言った様子で、ドルディンは嘆息する。
だがこれは絶対に決めなければならないことだ。
「……総指揮官、誰にしますかね」
ドルディンはその言葉を言った瞬間、ハバルアが机を叩いて立ち上がる。
「だからそれは私だと言っているだろう!」
「お主に任せるくらいなら、儂がする。年上の言うことは聞くものじゃ」
「ここはローデン要塞です。地理に詳しいメディセオ様が指揮を執られるのが最善かと思いますが」
彼ら全員の言い分を聞いて、木幕は頭を抱えた。
さすがの槙田もひきつった笑みを浮かべている。
西形に関しては爆笑していた。
「あはははは! 一人だけ碌でもないのがいるねぇ!? はははははは!」
「西形ぁ……」
「あ、いやごめんなさいね。はははは……。はー、でも総指揮官……多分総大将のことだよね。確かにそれは必要だねぇ」
戦況を見極め、指示を出す人物は絶対に必要だ。
この五万以上の兵力を操れる人物でなければ、それは難しい。
指示があるからこそ、戦場を駆ける彼らは迷いなく突き進むことができるのだ。
一々悩み、止まっていては、まともな戦いにならないのは目に見えている。
必要不可欠とも言っていい総大将としての立場。
どうやら彼らはこれに困っていたらしい。
ただでさえ他国からの兵が合同となるのだ。
仲違いも発生するだろう。
「でも、僕は木幕さんが総大将をするのが一番良いと思うよ」
西形は淡々とそう言った。
ローデン要塞としては問題ないといった風な様子だったが、さすがにバネップは反論する。
「信頼を得ているのは分かった。だが、兵の総指揮を任せることはできん。確かにお主は個に強い。だがこれだけの大戦……一度でも経験したことがあるか?」
「……ほぼないな」
「儂は三度ある。経験ある者が指揮を執るべきだとは思わないか?」
「バネップ殿の言っている事は間違いではない。その通りだ」
「では──」
「だが、某は魔王の戦い方を知っている」
バネップは目を見開いた。
それは他の者たちも同じだ。
「何故……魔王を知っている」
「某の主だったお方だからだ」
「異国の者が……魔王に……? 確かに木幕と似通っている部分はあったが……」
喋り方も似ていたと思う。
だがその雰囲気はまったく違った。
あれは人などではなく、魔王と呼ぶのがふさわしかったように思う。
その場にいた者全員が考える。
確かに魔王の戦い方を知っているというのであれば、その指揮を任せるのに値するかもしれない。
しかし、木幕は総指揮官になるつもりはなかった。
「総大将は、バネップ殿が適任だ」
「……」
「某はその隣にて、軍師として助力しよう」
木幕はこの世界に疎い。
なので魔物に関しての知識はどれだけ勉強しようとも現役冒険者には勝てないのだ。
それに大隊を連れて来てくれたのはバネップだ。
彼が総指揮を務めるというのであれば、誰も文句は言わないだろう。
それにバネップとしても、敵の戦い方を知っている人物が隣にいてくれるというのは心強いはずである。
「木幕さんがそう言うのであれば、私はそれに従います。細かい指揮は任せますからね」
「テトリスは素直であるな」
「ティアーノが仏頂面なんですよっ」
「なんですって!? 今それ関係あった!?」
隣で行われているじゃれ合いに苦笑いしながら、メディセオもそれに頷いた。
勿論といった様子で、グラップも頷いている様だ。
あと残るはミルセル王国の二人だが、勇者は小さく頷いた。
だが約一名は首を横に振る。
「僕は王子だぞ! 立場上一番上だ! 人の指揮下に入るなんて御免だね!」
「おいぃ……今それを言うのかよぉ……」
「ふん! 私は私で動く! いくぞトリック!」
「え!? ちょ、ハバルア王子!? っ……し、失礼します!」
苛立ったようにして音を立てながら出ていったハバルアを、トリックは慌てて追った。
勇者は多少まともそうだが、あの王子は危険分子だ。
少し警戒しておく必要があるだろう。
「こういう時はどうする?」
「どうもこうも……とりあえず指示だけは出しておくかなぁ。完全に全部無視するわけじゃないだろうしね。あー疲れた……」
肩の荷が下りたと言った様子で、ドルディンは肩を回して音を鳴らした。
「あとはー……兵が完全に揃って、その隊長格でもう一度作戦を作ってから陣を張ればいいかな……」
「陣形は既に作っておいた方が良いだろうな。しかし相手がいつ動き出すかも分からん……すぐにでも構えるべきか?」
「それは不要である」
バネップの疑問に、木幕は立ち上がりながら答える。
「あのお方は、約束は守るお方だ。約束を違えて攻め込みはしない」
「確証は?」
「今から確かめてくる」
「は?」
そう言った後、木幕はすぐに扉を開けて外へと出ていってしまう。
槙田もそれに続いていき、西形だけは一瞬立ち止まって軽く説明する。
「多分大丈夫なので、兵の陣形を作っておいてください。僕たちは前線に置いてもらえばいいんで!」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
西形は一瞬で消える。
手を伸ばしたまま固まったドルディンは、またあの時と同じだなと嘆息した。
同じ光景を見ていたメディセオはカラカラと笑う。
「まぁ良いではないか。任せよう」
「胃が痛い……」
気苦労が絶えない人物だなと、彼を始めてみる者たちは若干同情したのだった。
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