10.20.ライルマイン要塞での事件
あれからまた一週間。
一行はアテーゲ領から馬車を確保した後、ライルマイン要塞へと訪れていた。
今回は一度も馬車は壊れることなく到着することができたのだが、それでもギリギリだ。
使い捨てばかりなので少し心苦しいが、仕方がない。
槙田に至っては壊れる方が悪いと言っている。
そもそもフレアホークに合わせて作られているものではないのだ。
壊れるのも当然である。
ローデン要塞と同じ最前線都市、ライルマイン要塞は何だか騒がしい。
巨大な城壁の奥からも分かる程だ。
「なんだぁ……?」
「ふむ、城門がすべて閉ざされているな……何かあったのか?」
閻婆の背中に乗りながら、槙田は遠くを見る仕草をしてライルマイン要塞を睨む。
馬車に乗っていた者たちも一度顔を出して、その様子を確認した。
門がすべて閉ざされているのは珍しいことだ。
それもまだ昼であり、外には入国を希望する行商人や木幕たちのような旅人が多くいた。
門の付近では何故入ることができないのかと不満を漏らしている様だ。
だが兵士はそれに取り合う気は一切ないらしく、その全てを跳ね退ける。
それを見た水瀬は、一つため息を吐いて呟く。
「不思議なこともあるものですね。これでは新しい馬車を仕入れることができなさそうです」
「僕の奇術で中には入れるけど、馬車を持ってくることはできませんね……。やっぱり門を開けてもらわないと……」
何故この人たちは強硬手段を取りたがるのかと嘆息したレミは、提案を一つする。
「それよりも今はこの状況を説明できる人を探しませんか?」
「居るのかぁ……?」
「この国にはライアさんがいるはずです。中に入れないので……まずは周囲の聞き込みから始めましょう。最悪西形さんが中の様子を探ってきてください」
「了解です」
レミはそう言うと、エリーと一緒に馬車を降りた。
情報収集へはこの二人だけが行くようだ。
「この馬車のこと、宜しくお願いします」
「分かった。気を付けていけ」
「はい」
二人は木幕の言葉を聞いた後、話を聞きに行く為に門の近くに集まっている人たちの場所へと足を運ぶ。
近づいてみれば彼らが何を言っているのかが理解できた。
基本的には入らせろの一点張りだが、他にも門が閉ざされている理由を言及しようとしている者たちもいるようだ。
どちらかといえば後者の方が気になるので、彼らに話を聞いてみることにする。
「あの、すいません」
「なんですか?」
「どうしてライルマイン要塞は門を閉めているんですか?」
「それが分かったらよかったんですけどね……。こっちまで情報が流れてこないんですよ」
「ありゃりゃ……困りましたね」
「まったくですよ、本当に」
さすがに一人目でうまく話が聞けるはずもないかと思ったのだが、そこで後ろからひょこっと小柄な男性が顔を覗かせた。
「僕知ってますよ」
「えっ」
「教えてもいいけどー……」
「ああ」
意図を読み取ったのか、レミは懐に手を入れて金貨を一枚握りしめる。
それを小柄な男性へと手渡した。
まさかこんなにもらえるとは予想していなかったのか、ぎょっとした顔をして慌ててそれを仕舞い込む。
「教えてもらっても?」
「もも、もちろんだよ! えっとね……ここがどういう都市かっていうのは君たちも知っているよね?」
「魔王軍と戦う為の最前線都市ですよね?」
「そう、最前線。だからライルマイン要塞はこちらにも魔王軍の手が伸びることを危惧して、籠城の構えを見せたんだ」
「え? でもそれだけで入国拒否をするなんて事はないですよね?」
レミの隣りで話を聞いていたエリーが疑問を口にする。
まだ一ヵ月ほどの猶予はある。
だというのにこの決断は早すぎるというほかない。
それに何故入国を拒否するのかも分からなかった。
交易が断たれてしまうし、その様な構えを見せれば国民だって不安になるだろう。
「いや、違うんだ。入国拒否をしたかったわけじゃない。今ライルマイン要塞にいる戦える兵士を外に出したくないんだ」
「……は?」
「孤高軍って、知ってるかい?」
「「……ああ……」」
合点がいったというように、二人は息を合わせて声を漏らす。
孤高軍……。
恐らくライアが指揮している者たちのことだろう。
最後に会って彼ら時間も随分と経つし、自分たちが思っている以上の兵団になっている可能性は大いにある。
今や戦える戦力だと国が認める程なのだ。
これは予想だが、ライアは魔王軍の話を聞いてすぐにでもローデン要塞へと向かう準備をしていただろう。
孤高軍の面々も同じ面持ちだったはずだ。
だがローデン要塞と同じく最前線を守るライルマイン要塞は、ここを守る兵力をできる限る失いたくはなかった。
孤高軍の意志は固い。
言葉で説得して理解を得られることはないだろう。
そこで取ったのがこの手段。
すべての門を閉ざして国から出ることも入ることも不可能にさせることだったのだ。
「それヤバくないですか?」
「うん、やっばいよ。最悪内戦が起きてもおかしくはない。だけど孤高軍もこんなところで戦力を削るなんてことはしたくないから、今は解決策を練っているらしい。こんな状況じゃなきゃ、すぐにでも城へ攻め入ってたかもね」
「ライアさん……これは相当苦労していますね……」
これは待っていても解決できそうにない。
レミとエリーは目を見合わせて頷き、踵を返して木幕たちのいる場所へと戻って行った。
「エリーさん、お仕事です」
「……えっ?」
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