10.21.状況打破の鍵
木幕たちの所に戻ってきたレミとエリーは聞いたことを彼らに伝える。
横暴な行動に出たライルマイン要塞ではあったが、確かにそれであれば兵力を確保したまま籠城戦へと持ち込むことができるはずだ。
とはいえ、外からの供給が一切なくなってしまうという欠点もある。
その点はこの大きな都市にはあまり関係がないことかもしれないが……不満は募っていくことになるだろう。
良くも悪くも、彼らの決断は間違いではない。
この世界を守ろうと、都市の力を最大限に発揮させようとしている結果だ。
それをとやかく言うのは木幕にはできなかった。
だが、木間幕は孤高軍にだけは出てきてほしかった。
その一番の理由はライアである。
彼が孤高軍の二番手といっても過言ではないのだから、戦場に出て来て貰わなければ困る。
勿論ライアもそのつもりではあるのだろうが、こうして足止めを喰らっているのが現状。
これ以上手をこまねいていると、開戦に間に合わない。
それだけは何としても避けなければならなかった。
「なるほど、では西形、エリー。お主らの出番であるな」
「し、侵入するんですね……」
「お任せください! あの空間でライアさんの顔は見ているので大丈夫です! が、僕は面識がありません。急に会いに行って説得できるかどうか……」
「そこでだ。スゥを連れて行け」
「っ!」
やる気満々、といった様子でスゥは胸を張る。
スゥであればライアとの面識もあるし、なんならもう一つの勢力から手助けをしてもらえるかもしれないのだ。
ウォンマッド斥候兵。
彼らの協力を得ることができれば、ローデン要塞での戦いを有利に進めることができるかもしれない。
そもそもこんなところで燻っていていい兵士ではないのだ。
「よーし、では行ってきます!」
「まじですかぁ……」
「ということで」
「えっ?」
「っ?」
西形はスゥとエリーを肩に担いだ。
しっかりと抑えるようにして、一閃通しを両手で握っていた。
「ちょっと耐えてください」
「っ?」
「……え、あのちょ──」
砂煙を残して一瞬で消えてしまった西形。
あの二人は素早過ぎる速度でライルマイン要塞へと侵入したのだろう。
自分じゃなくてよかったと心底安心したレミは、西形の通って行ったであろう方角を同情する目線で見ていたのだった。
◆
ズザザッ!
地面を滑って停止した西形は、背に担いでいた二人を下ろした。
来た道をもう一度見てみるが、誰も自分たちに気が付いた様子はない。
壁を走って城壁を越えることも、この奇術があれば造作もないことだ。
だがこれから孤高軍をこのライルマイン要塞から出すにあたって、それでは時間が掛かり過ぎるし、西形の体力が持たない。
とはいえこちらにはスゥがいる。
獣ノ尾太刀の奇術を使用することができれば、彼らを簡単に外へと向かわせることが可能だろう。
今回の鍵はスゥが握っている。
この子の奇術で孤高軍をローデン要塞へと向かわせるのだ。
急がなければ間に合わなくなってしまう。
「ほら二人とも! 立って立って!」
「っ~~……」
「吹っ飛ばされる感覚って……こんな感覚なんですかね……」
視界が置いて行かれたのは、後にも先にもこれが最後だろう。
震える腕で何とか立ち上がり、置いてけぼりにされた感覚を取り戻すように足で地面を踏みしめる。
スゥも何とか立ち上がった後、西形を蹴った。
「いたっ!」
「っ!」
「だってこれしかないじゃないか!」
「っ! っ!」
「わ、悪かったよ……」
人の目がなければスゥの奇術で侵入することができただろうが、それは目立つ。
目立つ行動は最後に取っておかなければならない。
この城壁の外へ出た瞬間、彼らは自由になるのだから。
「はいはい、じゃあスゥさん。捜索お願いします」
「っ!」
スゥは獣ノ尾太刀を地面から出現させて柄を握る。
目を閉じて集中し、ライアたち孤高軍がいる場所を探って行った。
「っ」
「お、いましたか。では案内をお願いします」
大きく頷いたスゥは、小走りで目的地へと走っていく。
向かう方向はスラム街だ。
やはりあの場所が一番初めの拠点としては使いやすいのだろう。
数分を掛けて移動した一行。
スラム街に近づくにつれて人が多くなっている。
彼らはみすぼらしい姿を一切しておらず、誰もが防具や武器を身に着けて今から戦争にでも行きそうな服装をしていた。
恐らく彼らが孤高軍なのだろう。
話を聞いてもよかっただろうが、今は道を急がなければならない。
できるだけ早く彼らをこの場から脱出させなければならないのだ。
スゥは軽い足取りでライアがいるであろう場所へと向かった。
そこは他の場所よりも人が多く、子供が入れるような場所ではないということが一瞬で見て取れる。
だがそれを気にせず、三人は敷地内に足を踏み入れた。
勿論止められることになるのだが。
「お、お待ちください! 今は会議中です! 他の方々はお待ちくださいませ!」
「んー、僕の姿を見ても理解できないってことは、この人たちは木幕さんの姿を見たことがないのかな?」
「多分奇妙な服を着てるな、くらいにしか思われてないですね」
「心外だなぁ……。まぁいいか」
西形がパンっと手を打ち鳴らす。
「我は生光流槍術開祖、西形幸道が孫、西形槍術道場次期師範代、西形正和! 孤高軍総大将、木幕の使いで参った! ライア・レッセント! おられるのであれば姿を表せぃ!」
西形はこの場にいるすべての者たちに向けて叫ぶ。
口上を言い終えて満足したのか、一閃通しをしっかりと握って鼻を鳴らした。
ライアがいるであろう家から、バタバタという音が聞こえてくる。
蹴り飛ばす勢いで開けられた扉は、脆くなっていたということもあって飛んでいった。
そこからは、この世界で作った合口拵えの刀を携えている人物が現れる。
目を見開いて西形を見る瞳は、期待の眼差しをこちらに向けているということが分かった。
「!! スゥ!」
「っ!」
「おお、おお! 久しぶりだね! え、えっと、貴方は総大将のお知り合いですか!?」
「如何にも!」
「キャラ変わってない……?」
こういう第一印象は大切だ。
それにライアは西形の姿を見てすぐに知り合いだと理解したらしい。
「ま、じゃあ普通に話そうかな。ライアさん。僕たちは孤高軍をこの国から出すための奇策を持ってきた。君たちの意見が合致しているのであれば、断る理由はないと思うけど」
「願ってもない話です! 僕たちは木幕さんのためにローデン要塞へと向かわなければなりません! それはこの場にいる孤高軍一同、同じであります!」
「では即決即断! 城壁に兵を集めるんだ! 一気に出るよ!」
「分かりました!」
綺麗にお辞儀をしたライアは、すぐに振り返って大声で孤高軍に指示を出す。
「聞いたか! ここから近い城壁に兵を集めろ! 物資も忘れるんじゃないぞ! 向こうに到着する頃には冬になる! その為の装備も忘れるな! この一ヵ月間、準備していた物と計画を一気に進めるぞ!」
『『『おおー!!』』』
孤高軍の面々が、行動を一気に開始する。
彼らも足止めを喰らっている一ヵ月間、何もしていなかったわけではないのだ。
いつでも行動を開始できるように準備をして、その機会を伺っていた。
それが今だ。
ぼろ小屋の中から馬車を引っ張り出し、隣りの小屋から物資を積んでいく。
相当綿密に計画が仕組まれていたのか、その速度は異様に早い。
誰もが一つの役割を全うしている様だ。
作業で騒がしくなっている間に、西形はライアに話しかける。
「ライアさん。ウォンマッド斥候兵は何処に?」
「へへ、実は既にいるんですよ」
「なんと」
そう言ってライアは一つの方角を指す。
そこには確かにウォンマッド斥候兵の隊長、ウォンマッド・エースロディアが太めの直刀を背に担いで、こちらに歩み寄ってきていた。
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