10.16.孤高軍の意思
木幕とレミ、そしてエリーはスゥが指をさした方向へと歩いていく。
次第に人がいる気配がし始めた。
もう少し進んでみれば、更に話し声も聞こえてくるようだった。
孤高軍は、森の中を進んでいたらしい。
彼らは冒険者活動で森の中について詳しい為、近道をしようと森の中に入ったのだろう。
整えられた陣形を彼らは持たない。
それ故にこのような行動をとることができるのだ。
騎士団には真似することができない芸当である。
木幕はシレっと孤高軍の中へと入り込む。
初めは誰も彼の存在を気にしていなかったらしいが、やはり服装は目立ってしまうものである。
二度見、三度見。
何故我らが総大将がここに居るのかと驚愕した者たちが、大きな声を上げて驚いた。
それはこの場にいた孤高軍の面々に届くことだろう。
『ええええーー! 総大将ーー!?』
「やかましい」
まぁ予想していた反応であると、レミとエリーは思った。
普通合流などできるはずがないと思っていたのだ。
木幕たちが向かった先を知っていた者であれば、ローデン要塞へは到底間に合わないものだと考えていたはずである。
彼らは木幕のことをよく知っている。
孤児院へと直接足を運んでくれて、更に資金も工面してくれたのだ。
加えて孤高軍三強の一人、ローダンが木幕のことを言いふらして彼らに認識させた。
逆に知らない人物の方が少ないだろう。
すぐに一人の男性が走ってきて、頭を下げる。
「総大将! 一体どうしてこちらへ!?」
「いろいろあった。ローダンは居るか」
「はい! 今向こうで会議をしております。呼んできましょうか?」
「すまんな。頼めるか」
「お任せください!」
彼はそう言うと、すぐにその場を去ってしまった。
とりあえずここで待っていればローダンはすぐに来てくれることだろう。
しかし周囲の目線が痛い。
どちらかというと期待されているような目を向けられている訳なのだが……。
声を掛けようにも邪魔にならないようにと待機しているらしい。
だがこういうことには慣れている。
昔はいつもそうだった。
「マークディナ王国の孤高軍は千四百ですよ。全部が孤児院やスラム出身じゃないですけどね」
「兵士は六千くらい居ましたよね。さすが大国って感じですけど」
「ああ、それは某と西形が確認している」
進軍中のマークディナ王国の兵士たちを見た時、二人でその数を確認していたのだ。
その数は約六千。
魔王軍との戦いではあるが、これは少し控えめな兵の数だと言える。
あの国の大きさであれば、もう少し出兵しても問題はなかったはずだ。
とはいえ守りを薄くするのも嫌なのだろう。
それは何処も同じである。
出兵してくれただけ有難いと思った方がいい。
「木幕さん!!」
「ローダン」
帽子を外しながら、ローダンは全速力でこちらへと駆けてきた。
その速度は意外に速い。
どうやら風の奇術を使用しながら向かって来たようで、木の枝や草を大きく揺らしていた。
一切息を切らすことなく、木幕の目の前に立つローダン。
その目は曇りがない。
何の迷いもない透き通ったものであり、それからは彼の覚悟を見て取ることができた。
「……少し心配だったが、杞憂だったようだな」
「あれから色々、考えましたよ。私たちはどうあるべきかを」
「聞いても良いか?」
その言葉に、ローダンは頷いた。
既に口にする言葉は決まっていたのか、その返答は早い。
「私たちは、やはり貴方に着いていきます」
「あの事を他の者たちは?」
「他の者には教えてはいません。教えるべきものではありませんから」
「皆を騙すのか?」
ローダンは、木幕の言葉に首を横に振った。
「貴方の行動がなければ、私たちはここに居ませんでした。その恩を返そうとするのは当然のこと。それに、貴方の目的など……私たちの知ったことではありません。それを深く知る必要もない。ただ、私たちは貴方に助けられた。それだけの理由があればいい。であれば、貴方が私たち孤高軍を求める時、それに応える。それが行きついた答えであり、恩返しです」
木幕は周囲を見る。
他の者たちもこの話を聞いていた。
だが誰も“騙す”や“教えるべきものでははない”という言葉に反応を示すことはなかった。
ここに居る全員が、ローダンの言葉に頷く。
それが自分たちの在り方だと、そして恩返しのやり方なのだと、言っている。
そこでようやく、木幕は笑う。
「大馬鹿者の集まりだな。だが……」
木幕はローダンの肩に手を置いた。
その手にはいつもより強い力が籠っている。
これはローダンにしか分からないことだった。
「本当に、助かる」
木幕はそれだけ言った。
本当であれば素直に協力してくれたことに喜ぶべきだろう。
だがあの場で一度、言ってしまったのだ。
自分のための駒になるな、と。
だというのに自分からまた協力してくれとは、実は言い出しにくかったのだ。
何と都合のいい奴かと思われて終わりだと思っていた。
だがそうではなかった。
彼らは木幕の言葉がなくても、動いてくれた。
それだけの恩が、それだけの理由となっていたのだ。
ローダンは、魔王の姿を見てすぐに木幕が探している侍だということを知ったのだろう。
だからこうしてマークディナ王国の兵士よりも早く行動を開始した。
答えが出ていなければできなかった行動だ。
孤高軍は、木幕のために行動するだけの理由があり、恩がある。
これはこのマークディナ王国の孤高軍だけにとどまらず、すべての孤高軍が共通して持っている認識であった。
「っ……! はっ!!」
ローダンはその場に跪く。
自分の決定はやはり間違っていなかった。
それに心底安堵して、力が抜ける。
「ローダン」
「は、はい!」
「お主は一人の侍大将だ。任せるぞ、この兵を」
ローダンがマークディナ王国の孤高軍をここまで育て上げたのだ。
彼がこの兵の指揮をするのが妥当だろう。
元より決まっていたことかもしれないが、こうして言っておいた方がいいはずである。
「分かりました」
「では、お主らの動きを伝えておく」
これからは彼らの行動について決定する。
木幕はレミに地図を持ってこさせた。
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