10.17.彼らの動き
まず第一に、彼らは二ヵ月後の開戦には間に合わない。
なのでその次の援軍として来てもらう必要があるのだ。
「まず、お主はどういう動きをしようと思っていた?」
「できるだけ早く行こうと、こうして近道をしていました。幸い全員が冒険者や森に慣れている者たちですので、無茶な行動ではありますが何とかなっている状況ですね。少なくとも騎士団よりは早く到着する予定ですよ」
「到着後はどうする?」
「とりあえず現状を聞いてから決めようと思っていました。なのでローデン要塞までは入らず、下町付近で待機する予定でしたね」
「妥当ではあるな」
ローデン要塞の下町も、冬であれば相当過酷な道のりになるのだが、これだけの数がいれば問題はないだろう。
移動のための食料、物資などは潤沢に持っているというので、アテーゲ領に一度寄って買い足せば、あとは一直線で向かうことができるとの事。
冬になれば、ローデン要塞までは入りにくくなる。
その時の状況によるだろうが……。
「開戦はもう少し先だが、恐らくお主らが来るまでにどちらかが優勢に傾いているはずだ。こちらが負けていれば、下町の外へと後退しているだろう。勝っている様であれば、ローデン要塞に滞在している。それで見分けることができるか?」
「可能だと思います。ですが、戻れますか? ローデン要塞の環境は過酷です。寒い時期であるなら尚更でしょう」
「……せめて、お主らが到着するまでは持たせねばな」
「まぁ総大将なら大丈夫でしょうけどね」
期待してくれているのは嬉しいが、今回は敵が敵だ。
万が一のことについても考えておいて損はない。
そこで、木幕はレミの持ってきてくれた地図を見る。
マークディナ王国からローデン要塞までは約三ヵ月。
開戦から一ヶ月後に彼らはローデン要塞へと到着する予定だ。
少しばかり遅いが……これはどうしようもない。
だがこの時間を耐え抜けば、ローデン要塞防衛戦で勝利を飾ることができるだろう。
あとは兵力……。
これによって、どれだけ耐えることができるかが決まってくる。
「兎にも角にも、私たちは到着を最優先に行動をします。向かう先はローデン要塞の下町付近でいいですかね」
「うむ。だがリーズレナ王国から入る道沿いを通るのだ。もし防衛戦が失敗に終われば、某はそこに本陣を構える」
「なるほど、分かりました」
地図で場所を確認した後、ローダンは頷く。
とりあえず彼らの行動は決定した。
しかし、ローダンは気になることが一つだけあった。
「総大将、侍大将ってなんですか?」
「ああ、そうか。簡単に言えば、この兵を指揮する長のことだな」
「今やってることと変わりはなさそうですね。でもなんかそっちの方がかっこいい気がします」
「ローダン率いるマークディナ孤高衆だな」
「お、おおぉ……」
名前を少し木幕に分かりやすいように直してみただけなのだが、ローダンはそれが気に入ったらしい。
呼び方を忘れないようにメモまでしている。
「ありがとうございます。では、マークディナ孤高衆はこれよりローデン要塞へと進みます」
「うむ」
「……そう言えば、総大将はどうやってこちらに……? エリー殿もなんでここに居るんです……?」
「無理矢理連れてこられました」
「助かります」
「助か……え? え?」
彼女がいれば斥候としての役割を十二分に発揮してくれると、ローダンも思っているのだろう。
それには深く同意する。
腑に落ちない顔をしているエリーであったが、レミに肩を叩かれた。
「皆貴方の力を必要としているのですよ」
「……はぁー……。じゃあもう本腰入れますよ……」
まだ折れていなかったのかと驚いたが、今ここで折れてくれたようだ。
さて、次はここまでの移動手段であったなと、木幕は思い出して地面を二度トントンと踏む。
スゥがこれの意図に気が付いてくれているのであれば……。
ガララララララッ!!
すぐにでも閻婆が引く馬車がこちらに走ってくるはずである。
「ぅえ!!?」
『わああああああ!!?』
フレアホークの姿に、ローダンは勿論他の孤高軍の面々も驚愕の声を上げて後ずさる。
一々説明するのも面倒くさいので、木幕はすぐに馬車に飛び乗って顔だけを出す。
「某は先に向かっている! ローデン要塞で待っているぞ!」
「え、ぁ、あ! はい! マークディナ孤高衆、必ずや援軍に馳せ参じて見せます!」
木幕に続いて馬車に飛び乗った二人は、すぐに馬車に掴まった。
スゥはよく気が付いただろう、と言いたげに胸を張っている。
よくやったと、頭をポンと撫でておく。
全員が乗ったことを確認した槙田が、閻婆の背中を踏んで出発させる。
森の中では速度が出ないので、とりあえずは街道へと出る必要があるだろう。
だがその道も既に確認済みであり、数秒もすれば森の外へと出ることができた。
「交渉は上手くいきましたか?」
「交渉と呼べるものではなかったな」
水瀬が少し茶化すようにそう聞いてきた。
だがそれを軽くあしらう。
「面白い者ばかりだな。この世にいる人間というのは」
「あー、それは僕も思いましたねぇ~」
「喧嘩?」
「何故ですか姉上!?」
西形が言うと彼が殺人鬼の時のことしか思い浮かばないので、水瀬がそう言う反応をするのは仕方がないことだろう。
それにその場にいた全員が軽く笑った。
さて、次はアテーゲ領だ。
彼ら海賊はどう動くのかを聞くだけである。
何も問題がなければいいのだがと、木幕は心の中で呟いた。
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