8.31.合流


 洞窟内にぱらぱらと細かい石が転がり落ちてくる。

 小さな音の筈なのだが、ここは良く響くようで小さい小石だとしても大きな音を立てていた。


 洞窟はそれなりの広さを有していたのだが、先ほどの落盤で完全に道が塞がれてしまっている。

 まだ奥にも道は続いていたのだが……もう通ることはできないだろう。


「あぁ~……とりあえずは成功だなぁ」


 肩を回しながら、辻間はルドリックを引きずって出口へと歩いていく。

 とは言え外に出ることはしない。

 近くで待機しているであろう二人とまずは合流する。

 外に出るのはそれからだ。


 落盤を掻い潜って行くのは簡単である。

 だがやはり人一人を抱えての回避はなかなか骨が折れた。

 こいつの付けている装備が重すぎるのだ。

 よくこんなものを装備して動き回れるものだと呆れる。


 しばらく洞窟を歩いていくと、目的の人物が見えてきた。

 随分離れている場所で待機していたらしい。

 落盤に巻き込まれないようにしていたのだろう。


「あっ。ししょ~!」

「はぁー……またお前と面突き合わせることになるのか」


 ミュラの顔を見たため息をつく。

 相変わらずミュラは楽しそうだが、辻間はやれやれと言った様子で持ってきた勇者を乱暴にその辺に捨てた。


「これ、上手くいきますかね?」

「うぅー! うぅー!」

「知らん。というか黙らせろそいつ」

「子供になんてことを」


 勇者の弟と思われる青年は、洞窟の端っこで縛られている。

 勇者を見て何か叫んでいる様だが、口も封じているのでまともには喋れないようだ。


 こんな事をするのはさすがに心苦しかったが……やらないわけにもいかないし、というかやらなければミュラがもっときつく縛ったりすると思うので仕方がなしにやってしまった。

 ここまでやったのだからうまく事が運んでくれなければ本当に辻間を恨む。


 辻間はとりあえず座り、また肩を回した。


「あとはこいつが起きるのを待つだけだな」

「それまでは暇だね~」

「ていうか、辻間さんよくあの状況で生きて帰ってきましたね」

「普通だろ」

「いや、普通て」


 彼の普通を普通と言ってはいけないだろう。

 落盤から生きて帰ってこれる奴なんて辻間くらいのものだ。


 とは言え、辻間も奇術がなければ少し危なかった。

 切り裂く範囲を間違えてしまったので、予想より大きな穴が空いてしまったのだ。

 なので落ちてくる瓦礫や岩も多かったわけで、それを切り裂かなければ流石の辻間も潰されていただろう。


 一人であれば何とかなっただろうが、この重い装備を付けている男を運びながらは無理である。

 今回は奇術に助けられた。

 すべてを切り裂ける奇術であったことに、辻間はひっそりと感謝した。


 辻間は洞窟の上を見る。

 恐らく地上では殺人鬼と勇者が落盤に巻き込まれたと騒ぎになっているだろう。

 光は見えないし、向こうからこちらの姿は見られていないはずだ。


 ここで勇者が帰って来たとすれば、それこそ英雄扱いされるだろう。

 なのでこの作戦はそれなりにいと思っている。


「さて、そろそろ起こすか。ミー」

「あいあい!」


 辻間に声を掛けられたミュラは、両手を広げて水を出現させる。


「!? 無詠唱の水魔法!?」

「むえいしょー? 何それ」

「うわぁー……ライアさんの無詠唱もすごかったし、ほとんどの属性の魔法を短略詠唱するテディアンさんもすごかったけど……」


 まさか魔法のまの字も知らなさそうなミュラがそんなことができるとは思わなかった。

 これはもう無意識でやっているのではないだろうか。


「こいつこれだけはすげぇんだよな。お前も何かできねぇのか?」

「私は小さい火を起こしたりする生活魔法くらいしかできませんよ」


 そもそも魔法はそれなりの適性がないと使うことができない。

 どんな人にもある程度の適性はあるのだが、戦闘に使える程の魔力がないと魔法使いにはなれないだろう。


 水を出現させたミュラは、それを勇者の顔にぶつける。

 いい威力だったのか、勇者が若干吹き飛んだ。


「がっは! うぇっほげほごほ!」

「よーし、起きたな」

「縛ってないけどいいのぉ?」

「構やしねぇよ。どうせ手は出せねぇんだ」


 何度か咳き込み、周囲の状況を確認するルドリック。

 手に武器がないことを確認し、そして目の前の敵を見て身構える。

 三人の敵。

 加えて見覚えのある顔が、そこにあった。


「!? 何故……!」

「むぐぅー!」

「へへへへ、ちょっとお話しようじゃねぇか、勇者や」

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