8.22.動きが速い


 目が覚めた。

 そこは辻間が案内してくれた隠れがであり、やはり中にはほとんどといって物がない。

 床にはミュラが寝ていており、寝る前まで辻間がいたであろう椅子には誰もいなかった。


 周囲を見渡してみると、彼は床で胡坐をかいていた。

 手で何かの印を結び、じっと動かず固まっている。

 何をしているのだろうかと首を傾げたが、ああいうことは木幕も良くやっていた。

 邪魔してはいけないと思うので、暫くは静かにしておく。


 立ち上がり、自分の薙刀を出してみる。

 先ほどは忘れていたが、そう言えばこれで魔法を切り裂けた。

 魔法には魔法で対応するのが普通なのだが……この武器はその魔法を切ることができた。


 自分にそういった力が発現したわけではないだろう。

 であれば、この武器に何か仕掛けがあるはずだ。

 確かに今まで武器で魔法を切り裂いてみようとは思わなかった。

 まさかそんな事が可能だとは思った事もなかったのだ。


 良く武器を見てみるが、特に変わったようなことはない。

 何時から魔法を斬れるようになったのだろうか。


「んー……」


 他の武器と違うこと……。

 この武器は恐らくこの世界で初めて作られた薙刀だろう。

 だがそれだけでそんな力が発現するとは思えない。

 となれば……。


「あっ」


 製造方法。

 この薙刀はクオーラ鉱石を使用して作られた武器だ。

 普通武器に高価すぎる鉱石を使用するということはないだろう。


 となれば、クオーラ鉱石には魔法を霧散させるような力があるのではないだろうか?

 まだ確証はないが、それしか他の武器と違うところがない。

 これはあまり言いふらさない方がいいかもしれないなと思いながら、レミは薙刀を静かに仕舞った。


「そう言えば」

「わあ!? びっくりした!!」


 いつの間にか真隣にいて声を掛けられれば驚いてしまうのも仕方がない。

 驚きすぎて薙刀が宙に浮いてしまったが、何とかそれをキャッチしてほっと一息つく。


「お前のその武器、誰が打った? 日ノ本の人間が鍛えた物ではないだろ?」

「あ、はい。これはルーエン王国って所で作ってもらったんです」

「そうか……」


 辻間はじっとその薙刀を見る。

 何か腑に落ちないことがあるのか、首を傾げていた。


「な、なにか?」

「……いやなに、よく作ったなと思ってな」

「形を真似するだけですから、特に難しいことはないのでは?」

「それは知らん。俺は鍛冶師みたいに見ただけでそういったことは分からんからな。だが……」

「だが?」

「何と言ったらいいか……奇妙な感じがするんだよ」


 そう言って、また刃をじっと見る。

 辻間はその刃を始めてみた時から、奇妙な感覚を本能的に感じていた。

 だがそれが何なのかは、辻間には分らなかった。


 誰に言うでもなく、辻間は独り言を呟き始める。


「なぁ、これなんだと思う? ……ああ、だよな。そうだよな。いや、でもそれは違くねぇか? どっちかって言うと……そうそう、それだよ。なんでさっさと答えを言わねぇんだ」

「……? え、辻間さん?」

「あ?」

「だ、誰と話してるんですか?」

「……気にするな」

「いやめっちゃ気になるんですけど!?」


 それを最後に、辻間は立ち上がって伸びをする。

 明らかに自分たちからは見えない者たちとの会話を見てしまったレミは、鳥肌が立った。

 ここに何かがいるということが彼によって証明されてしまったからだ。

 あまり長居したくはないなと思いながら、レミも立ち上がって軽く動く。


 どれくらい寝ていたのだろうか。

 まだ日が落ちていないところを見るに、そこまで長い時間眠っていたわけではなさそうだ。

 ……相変わらずミュラは床で寝ているが。


「ああ、そうだ。レミちゃんに朗報と悲報の二つがあるけど、どっちから聞きたい?」

「え……、じゃ、じゃあ悲報からで……」

「残念ながら、既に俺たちの手配書が出回っているらしい」

「ええ!? いくら何でも早すぎませんか!?」


 あれから半日も経っていないはずだ。

 だというのにこの国全体に自分たちの話が出回っているというのは、いくらなんでも早すぎる。

 精々騎士や兵士の中だけの話で止まると思っていたのだ。


 どうやら辻間はレミとミュラが寝ている間に、周囲の散策を行っていたらしい。

 集めてきた情報としては、兵士たちが住民たちに協力をしてもらっているということ。

 早すぎる動きは彼らの行動にあったようだ。


 しかしまだ人相書きなどは開示されておらず、この世界では珍しすぎる武器を目印にしているらしい。

 隠していさえすれば見つかることはないだろうが、それも人相書きが出るまでだ。

 少しは時間の猶予があるが、辻間はそれに当てはまらない。

 彼の服装はやはり特殊で、それは恐らく今の段階でも周囲の国民に共有されてしまっている。

 なので明るい内に少しでも外出すれば、簡単に見つかってしまうだろう。


 そんな状況でよく情報収集に行けたなと感心する。

 だが……自分とミュラが寝ていた間に情報収集を行っていたということは……。


「辻間さん、寝てないんですか?」

「女が男に気を使うんじゃねぇよ。お前らが足手まといになったら面倒だから休ませただけだ」

「へー」


 やはり、なんだかんだ言って辻間は優しい。

 ミュラもそういうところを好きになったんだろうなと、レミは思った。


「で、朗報は?」

「今のこの状況を打破する奇策を思いついた」

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