7.26.宝石
宝石があると聞いて、海賊たちは各々ツルハシや籠を持って山を登っていた。
先頭には木幕と石動がおり、その後ろに海賊たちが続いている。
水辺の場所を聞きに来たつもりが、まさかこんなことになるとは思わなかった。
道中で水辺の場所は聞いたのだが、こっちが優先だと聞かなかったので仕方がなく道案内をしている。
だが手伝ってくれるというだけでありがたい。
彼らもやる気になってくれたようだ。
士気が上がるのは良いことだと思うので、まずは彼らを満足させるだけの場所へと連れて行くことに決めた。
あれがどのような宝石かは分からないが、確かに綺麗だった。
その価値は財宝や宝探しをしている海賊たちの方が詳しいだろう。
鑑定士らしい人物も混じっているので、その辺は任せても問題なさそうだ。
しばらく歩いていると、目的の場所に到着した。
土砂がなくなって岩がむき出しになっており、そこからは確かに様々な色をした鉱石が顔を出している。
「ここだべ」
「おお……! あんたらはこれいらないのかい?」
「おらたちが欲しいのは砂鉄と鉄だべ。こんなの使えないから欲しいだけ採ればいいだよ」
「ははっ! ありがたい限りだねぇ! 皆ー! 掛かりな!」
ラックルの号令により、採掘がはじまった。
海賊が鉱夫のようなことをするとは思わなかったが、お宝のためであれば割と何でもするらしい。
価値のある物だけを選別しようとしているらしく、まずは欠片を取って、それを鑑定士に見せている。
手に取ってちょっと確認した後、大きく頷いた。
それが合図となり、青色の鉱石をどんどん掘って行く。
他にも白色と赤色の鉱石がある。
黒は鉄鉱石なのであまり積極的には採らないが、あとで採掘してもらう。
採掘が終わるまではしばらくかかりそうなので、その辺に座って海賊たちの気が済むまで見ておくことにした。
石動も同じ考えだったようで、木幕の隣りに座る。
「ここの海賊たちは、随分と多いな」
「んだなぁ」
十隻以上の海賊船があったのでそれも普通かとは思ったが、ここに来ている人数だけで五十人はいる。
下にはまだ準備をしている者たちがいたはずなので、これの数倍の人数はいるはずだ。
これだけの海賊団をまとめ上げるのはさぞかし大変だろう。
鑑定士は持ってきてもらった鉱石を鑑定していく。
どうやらどれもがいい宝石であるようで、赤、青、白色の鉱石すべてを回収してくれと海賊たちに頼んでいた。
思わぬ収穫にその場にいた全員が盛り上がり、誰もがツルハシを振るっていく。
できるだけ大粒で採る程にその価値は上昇する。
なので石動が初めに回収したあれが、一番の価値となっていたらしい。
放り投げたので砕けたが。
宝石は籠に入れられ、拠点へと運ばれていく。
道が狭いので荷車は持ってこれなかった。
途中まで降りれば荷車を待機させている場所があるので、そこまでは人力で持っていかなければならない。
だがさすが海賊たち。
体はよく鍛えられているようで、誰もが軽々と言った様子で大きな宝石を肩に担いで運んでいく。
もはや籠が要らなさそうだ。
採掘場を見てみると、鉱石は掘り出す程に大きくなっているらしい。
大きく削りだすことが困難になってきているようだ。
周囲の岩を削らなければならないらしいのだが、誰もそう言った専門的知識を持っているわけではなかった。
なのでそのまま掘り進む。
一通りの指示を与え終えたラックルが帰ってきた。
再度礼を言ってから、二人の前に座り込む。
「これでしばらく暇せずに済むよ。魔王軍が来ないから金も乏しくなってきててねぇー」
「そうなのか?」
「ああ。うちらはアテーゲ領を守る代わりに、領主から良くしてもらってるんだ。食料は契約上貰い続けられるんだけど、砲弾とかの備蓄がだんだん少なくなってきててねー。アテーゲ領は鍛冶場が多いでしょ? 大砲とか作ってる所もあるのさ」
「投石機とは違うのか」
「そうだね。魔力込めて筒の中を爆発させるのさ。そうすると、中に込められていた大きな弾丸が吹き飛んで行くっていう仕組み」
これは魔力を持っている者であれば誰でも実用可能なものだ。
送る魔力によって飛距離が変わるので、砲撃の調整は慣れるまでは難しいのだという。
小さい大砲も作ろうとしたこともあるらしいのだが、その場合は大体筒が耐えきれずに暴発してしまうのだとか。
なので鉄の塊でできた大砲でしか、使えないのだという。
「これができる前は、海の上だと魔王軍にあった瞬間にコテンパンにされてたんだよね。風を使って逃げるので精いっぱいだった」
「今は倒すんだったか?」
「そうだよー。全三十門の大砲が火を噴いた時の快感は忘れられないねぇ! クラーケンだろうが巨大鮫だろうが今は動じやしないよ!」
ラックルは胸を張って笑った。
相当な自信があるらしい。
とても頼もしく、豪快な人物なのだなと、木幕は改めて思った。
ひとしきり笑った後、今度は体を前に出して二人の目を見る。
「で、あんたらからの仕事は何だい?」
「砂の運搬と、ここにある鉄の採掘……それを小川に流してもらうことだ」
「川に……? んー、でも湧き水は私たちにとって貴重なもんだ。そこは相談してからでもいいかい?」
「構わない。どの道準備もしなければならないから、一度アテーゲ領に戻らなければならんのだ」
「お! だったらさ!」
そう言って、手を叩く。
「私たちもこの宝石売りに行きたいから、その時に乗せてってやるよ! 二日後でどうだい?」
「どうだ、石動」
「問題ないべさ。こっちが駄目だった時の川も探しておかないといけないから……」
「っし、決まりだね!」
目的は違うが移動先は同じなので、問題はない。
三人がそれを了承したあとで、ラックルはこれからの事を簡単に話した。
二日の間に宝石をある程度回収して、それを売りに行く。
まだ鉱脈があるかもしれないので、船は二隻だけで向かうことにするらしい。
この宝石を船に積む作業が待っているが、それは一時間ほどで終わるとの事だ。
下で暇をしている者たちが多いのだから、それくらいで終わる予定だとか。
「ま、あんたらは拠点で飯でも食って待っとけばいいさ! 宝石のことはこっちに任せな!」
「そうしてくれると助かる」
「助かったのはこっちの方さ! じゃ、私は筆頭にこのことを説得してくるから、適当に降りて来なよ!」
そう言って、ラックルは降りて行ってしまった。
木幕たちもここにずっといても仕方がないので、立ち上がって降りることにする。
作業に必要なものを把握しておこうという石動の提案に、木幕は頷いた。
刀の素材が集りそうだ。
それに安堵し、足取り軽く山を下りた。
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