7.25.砂鉄
二時間ほどかけて、目的の場所まで降りてきた。
遠回りどころか迂回しなければならないかったので、余計に時間が掛かってしまったのだ。
少し歩き疲れてしまった石動は、砂地に座って足を伸ばす。
「でぁー……疲れたべー」
「砂地は歩くのに難儀するな」
「だべなー」
雪道とはまた違った道。
慣れていなければすぐに疲れてしまうだろう。
かといって雪道と同じ歩き方をしようものなら、何故だか知らないが余計に疲れる。
不思議なものだと、木幕も腰を下ろした。
少し休憩だ。
持っていた水筒を取り出して飲み、それを石動に投げて渡す。
危なげなく片手でそれを手に取った石動は、中身を全て飲んでしまった。
体格がこれだから、摂取量も多くないといけないのだろう。
魔法袋の中にはまだあるので、特に何か言うつもりはない。
飲み切った物を、ポンと木幕に放る。
それを受け取って、魔法袋の中に入れた。
潮風が心地いい。
この辺は磯の匂いはしなかった。
崖によって影になっているので、砂地もひんやりとして気持ちがいい。
ふと、石動は砂をごそっと手ですくってみた。
手の隙間からこぼす様にして、それを眺める。
「
鉄穴流し。
これは砂鉄を採取するために使用された採取方法の名称である。
砂鉄を含んだ岩石を切り崩し、引いておいて水路にその石を流し込むものだ。
比重選鉱法などと呼ばれもするこの方法は、最終的に純度の高い砂鉄が採取できることで重宝されてきた。
だがそれには相当な準備が必要だ。
恐らくこの島にそれだけの道具はない。
なので一度向こうに帰って準備を整えてから採取を開始しなければならないだろう。
「ああ……久しぶりに聞いたな」
「ここにも砂鉄はあるだろうけど、細かいから見えないだ。湧き水があるってことは小川もあるはずだべから、そこにここの砂と、さっき見つけた鉱脈の土砂を放り込めばある程度は採取できるべ」
「川下にもあるのではないか?」
「じゃあ今度は小川を探してみるべか」
準備ができても肝心の川がなければ作業ができない。
海賊団に頼んで運搬もしてもらわなければならないので、下見はしっかりと行わなければならないだろう。
そうと決まれば、早速小川を探しに行こうと立ち上がる。
まずは下流を探す。
反対側には無かったと思うので、一度戻って海賊たちに話を聞いてみることにする。
砂地なのでまた体力を奪われるが、歩くのにも段々慣れてきた。
次第に気にならなくなるだろう。
「お主は砂鉄の採取もやっていたのか?」
「うんにゃ、打つだけだべ。でも仲は良かったからやり方だけ教えてもらっていただ」
「さいか」
それだけ聞いて、あとは黙々と歩いていく。
真隣に海があるので、その音が邪魔をして小川のせせらぎを聞くことができない。
こういうところで他の水場を探すのは大変だなと、木幕は思った。
◆
しばらく歩いてくと、海賊たちの拠点が見えてきた。
木を組んで作られた家や小屋が点在している。
その多くは壁がなく、屋根だけあるといった状態だ。
だがそれで問題はないようで、海賊たちは各々が好きな事をしていた。
見てみれば分かるのだが、海賊たちは本当に暇をしているらしい。
寝ている者がほとんどで、酒を飲んでいる者もいない。
戦闘時以外は動くことがないのだろうか。
木幕と石動の姿を見つけた海賊もいたが、特に興味を持つことはなかった。
というのも、二人は客人として迎え入れられている。
だがどうやってもてなせばいいのかも知らない者たちだ。
彼らに期待するのはお門違いだろう。
別に気にしてはいないし、なんなら変に絡んでこない方がありがたい。
この辺は随分と開拓されているらしく、船を止めるためだけの港のようになっていた。
良くここまでの設備を整えた物だと感心する。
海を見てみれば、既にテガンはここから出航してしまったらしく、乗ってきた船は見当たらなかった。
その代わり、デルゲン海賊団の船は多くある。
小さなものから大きなもの。
その中で一際目立つ装飾を付けた大きな船が、彼らの船長デルゲンが操る船なのだろう。
砲門も多く、帆の数も多い。
蜘蛛の巣のように張り巡らされたロープは、どれがどれを動かすものなのか分からなかった。
何人かは船に乗って掃除をしたり、整備をしているらしい。
それくらいしかやることがないのか、彼らも少し詰まらなさそうに動いている。
ここには話の通じるラックルはいないらしい。
ではどこにいるのだろうかを周囲を探してみはするが、それらしい場所もないので分からなかった。
聞いてみようと、木幕はその辺にいた海賊の一味に声を掛ける。
「ラックル殿は何処だ?」
「んぇ? あ、あんたらか。副船長なら自分の船に乗ってるよ。フォルデン号の隣りの少し小さい奴」
そうして指をさしたのは、一番大きな船の隣りに停泊しているこれまた大きな船。
冗談でも小さいとは言えない船だ。
確かに隣りと比べれば小さいが。
どうやらあの一番大きな船がフォルデン号らしい。
一つ一つに名前があるようだ。
木幕は軽く礼を言ってから、その船に向かって行く。
よくこんなに大きな船を停泊できたなと感心する。
熟練の腕が必要なはずだ。
あのデルゲンという男は意外と凄い奴なのかもしれない。
掛けてある橋を渡って船に乗り込むと、すぐにラックルを見つけることができた。
声をかけると、すぐに振り返る。
「あら、もう帰ってきたのかい? どうだったー?」
「成果はあった」
「おお、そりゃおめでとう! じゃあなんか私たちに手伝えることはあるかい? 道中見ただろうけど、うちの連中はもう暇すぎてあのざまさ」
「では一つ仕事を頼もう」
そうして、木幕は山を指さした。
「あの辺りに鉱脈があった。そこに鉄と青く鉱石あってな」
「青!? え、宝石の事かい!?」
ラックルがそう叫んだ瞬間、乗っていた船員たちの目の色が変わってこちらを凝視する。
少し驚いて口をつぐんだが、気を取り直して説明を続けた。
「う、うむ。日に当てると青い光る鉱石があった」
「おらも見たから間違いないべ」
「お、大きさはどれくらいだい!?」
「これくらいだべかな?」
そう言って、石動は一抱えほどの大きさを手で示す。
だがそれは彼が採掘しただけのもの。
他にも様々な色があったことを覚えているので、違う鉱石もあるかもしれない。
話を聞いたラックルは、感動したようにして石動の手をとり、乱暴に振り回す。
「お手柄だよぅ! そんなのがこの島にあるなんて思わなかったから散策なんてしなかったからね! 皆! これからこの人たちの仕事に付き合うことになるけど、文句はないね!?」
「ないっすよ姉御!」
「宝探しとか久しぶりだなぁ!」
「急げ急げ! ピッケル誰か持って来い! あと運搬用の荷車な!」
「「「うっす!」」」
急に海賊たちがまとまりはじめ、指示を出してあれやこれやと物事が進んでいく。
ラックルもこの事を暇している連中に話しに行くようで、ダッシュで陸の方へと声を掛けに行った。
いつの間にか取り残された二人は、顔を見合わせる。
「海賊って、凄いべ」
「うむ。というか単純だ」
「ああ……確かに」
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