7.22.捜索
灯りが付いている家からは、楽しげな声が外まで聞こえてきている。
酒場であったり、お洒落なバーで飲み食いをしている者が多くいた。
この領自体も大きいし、海の男と呼ばれる者たちが集う為、気は強く荒々しい者が多い。
それだから、他の国に比べて夜も騒がしいように感じられた。
酒場でテディアンの愚痴を聞いていたレミは、勘定を適当に払って外へと走り出していた。
隣にいたはずのスゥがいなくて大慌てしているのだ。
居酒屋を探してもいなかったので、恐らく外に行ってしまったのだろう。
あんな変な話を聞き続けるものではなかったと後悔したが、今はそれよりもスゥを探し出さなければならない。
まったく情けない。
子供一人の面倒も見れないのかと、自分が嫌になりそうだ。
「何処行ったのかなぁ~」
「……貴方は少し黙っていてください」
「ごめんなさぁーい」
反省する気がまったくないテディアンの発言に、少し苛立つ。
とりあえず黙ってくれと付け足して、レミは捜索を再開した。
だがどこにいったか全く分からない。
そもそもこの土地は不慣れであり、満足に捜索できない。
当てずっぽうで探している状態だ。
夜なので大声を出すのは憚られたが、それでもレミはスゥを呼ぶ。
しかし返事だけは絶対に帰ってこない。
運よく声が届いていればいいと思うのだが、やはり不安がぬぐえなかった。
「はぁ……」
「探してあげよっかー?」
「……」
またのんびりしたような口調で言葉をお発したテディアンをじろりと睨む。
だが彼女を責めたところで意味はない。
どちらかと言うと自分の責任によるところが大きいので、首を横に振って彼女に責任を押し付けようとしたことに反省した。
一度落ち着いて息を吐く。
「できるの?」
「一度見てるからねー。魔力を辿れば問題なああああああ!!?」
テディアンが得意げに話していると、地面が盛り上がった。
急なことに対応することができず、体が浮いて頭を地面に思いっきり打ち付けてしまう。
立つこともままならず、頭を押さえて震えていた。
盛り上がった土は大きな穴へと姿を変え、そこからスゥがぺっと吐き出される。
受け身を取れずに倒れ込んだスゥは、何か文句を言うようにその土に向かって腕を振り上げていた。
立ち上がり、地団太を踏んで地面を乱暴に踏みつける。
しかし、地面はなんとも思ってないかのように元に戻っていく。
キンッという音が聞こえたのを最後に静かになった。
「よ、よかったぁー!! スゥちゃん!」
「っ! っ!」
呼ばれてレミの存在に気がついたスゥは、すぐに駆けよって手を掴む。
そして何かを伝えるようにしてジェスチャーを繰り返しているが、レミには全く意味が分からなかった。
ただ手をワタワタとさせているようにしか見えないからだ。
「ちょ、ちょっと待ってね? 何、どうしたの?」
「っ~……」
少し考えるようにした後、今度はゆっくりとジェスチャーを行う。
頭にフードを被るそぶりを見せ、こそこそと追いかける様にし体を動かす。
だがこれ以上の説明ができないらしく、悩まし気に頭を掻いていた。
何か重要なことを伝えてこようとしてきていることは分かる。
だがそれが全く分からない。
「っ!!」
「も、文字?」
「っ!!」
空中に文字を書く様なそぶりを見せた。
どうやら文字で伝えたいらしい。
しかしスゥはまだ文字を完全に習得しているわけではないので、それを教えてくれと言っているのだろう。
とりあえずそれに了承し、レミはスゥの手を握った。
スゥは引っ張るようにして、鍛冶場へと向かおうとしている。
それに合わせて足を動かした。
そう言えばと、レミは後ろを振り返る。
未だに頭を抱えて蹲っているテディアンがいた。
どうしようかと考えたが、なんだか付きまとわれるのも厄介なので無視することにしたのだった。
「そ、そういえばスゥちゃん。何で土から出てきたの……?」
「っ!」
スゥはレミの手を離すと、腰に携えていた小太刀の鞘と鍔に、紐を結びつける動作をした。
刀が抜けないようなジェスチャーも同時に行う。
これは葛篭の刀に施されてあったものだとレミは気が付いた。
だがそれはどういうことだろうと首を傾げる。
主人がいなくなった刀はマジックウエポンとしての能力を消失するということは、槙田と出会った時に把握していた。
だからこそ、死んだはずの葛篭の刀を表現しているスゥに疑問をいだく。
しかし嘘をついているようには思えない。
確かに葛篭の魔法はとても珍しい土を操る魔法だった。
スゥが地面から出て来たのも土魔法でなければできない芸当だ。
他の誰かが土魔法を使ってスゥを助けてくれたということも考えられるが……。
葛篭は生きているのでは?
そんな疑念がここで発生した。
だが考えても証拠がないので分からない。
これは木幕が帰って来たときに相談しなければならないなと思いながら、とりあえず今日は鍛冶場へと帰ることにした。
スゥは信じてもらえてないということに気が付いたのか、口を尖らせて少し不服そうにしている。
だが文字が書けるようになったら伝えられるはずだ。
そう考えて、帰路につく足並みを速めたのだった。
後方の地面から、獣ノ尾太刀が顔を出していた。
そしてゆっくりと沈んでいく。
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