7.15.右腕ラックル
砂が宙に舞い、相手の目をくらませる。
だが関係なしに振り抜いた金城棒が、何かに当たる強い感触が手から腕に伝わった。
耐性を崩してしまったがすぐに立ち上がり、踏み込みにくい砂を思いっきり蹴ってまた突進する。
飛び上がり、横にブンブンと振っている金城棒を回避し、相手の顔面へと蹴りを繰り出した。
だが頭が少し傾くだけで、たいしてダメージは入っていないように思える。
伝わってくる感触からもそれは分かった。
「固すぎんだろてめぇ!!」
「お前がいうな!! 目くらましとは卑怯だべ!!」
「はっ!! 戦いに卑怯もクソもあるかよ!!」
「正々堂々という言葉を知らんだべか!!」
「知らねぇなぁ!!」
デルゲンはまた砂を蹴り、空を舞う。
驚くべき身のこなしだと称賛するべきだろう。
あの体躯で石動の背よりも高く跳躍するのだ。
それなりに足腰を鍛えていないと不可能だし、相手の弱点をよく見て狙いを定めているということが分かる。
デルゲンが攻撃している場所は、人の急所に当たるところばかりだ。
的確な攻撃を繰り出してはいるが、石動の不動が自動的に発動しているようで、そのダメージは非常に少ない。
石動の金城棒が当たれば体は吹き飛んでしまうのだが、それでも彼の皮膚は硬く、ほとんどダメージは通っていなかった。
このままでは埒が明かない。
しかしいつの間にか野次馬たちが集まり、その戦いを嬉々として見て楽しんでいるようだ。
仕舞にはどちらが勝つのかなどと言った賭けも行われ始めている。
こんな見世物をする為にここに来たわけではなかったのだがと、木幕は頭を掻いた。
自分が煽ってしまったのが悪いとはいえ、そろそろ話を進めて鉄を探しに行きたいところだ。
しかしあの中に入って仲裁するのであれば、それ相応の度胸と覚悟が必要になるだろう。
あの金城棒が危なすぎるのだ。
もし当たってしまえば一瞬でお陀仏だ。
喧嘩が始まって随分経つ。
二人は息を荒げ始めているが、まだまだ余裕と言った様子だ。
これは一体どうやって収拾を付ければいいのだろうかと考えていると、遠くの方から女性が走って来た。
砂地であるというのに、中々の速度でこちらに向かってきている。
彼女は裸足であり、砂を蹴って撒き上げる。
「デルゲーン!!」
「っらぁ! ……え?」
「あんた客人に何しとんのじゃぼけぇええ!!!!」
「ゴッ──」
鳩尾。
足ではなくつま先で鳩尾を蹴り抜いた彼女は、そのままデルゲンを勢いに任せて吹き飛ばした。
砂地に頭から突っ込んだデルゲンは、そのまま動かなくなる。
「あんたもだよっ!!」
「ぐっ!?」
裏拳でわき腹を突かれた石動は、痛みに耐えかねて金城棒を手放してしまった。
喧嘩両成敗をしたところでようやくすっきりしたのか、彼女はフンッと鼻を鳴らして仁王立ちをする。
なかなか豪快な女だと、木幕は思う。
海賊の女とはここまで荒々しいものなのだろうか。
しかしタフすぎるデルゲンを一撃で沈め、奇術を無意識に使っていた石動も一撃で沈める彼女はい一体何者なのだろう。
観察してみるが、それと言って何かを纏っているわけでもないし、武器を身に付けているわけでもない。
彼女の奇術に何かカラクリがあるのだろうか。
すると、彼女が大声を出しながら手を叩いた。
「はいはい! 見世物は終わりだよ! さっさと帰んな馬鹿どもが!」
「えー! ラックルの姉御ぉー! 賭け金はどうするんすかぁ!?」
「こいつらと同じ目に遭いたいかい?」
「っしゃ皆帰るぞー! 積み荷を運べー!」
ギロリと睨んだ彼女に怯え、海賊の一団はそそくさと荷物を持って拠点へと向かっていった。
ラックルと呼ばれた女性は、肌の露出が少しばかり激しい格好をしていた。
隠しているのは胸と腰回りだけで、他は動きやすい様に何も身に着けていない。
しかしタトゥーが彫り込まれており、それは焼けた肌によく似合う。
野性的な目は獲物を睨みつけるような迫力があった。
彼女の姿を見てほっとしたテガンが、すぐさま走り寄る。
「姉御! 助かりましたぁ~!」
「うちの馬鹿がすまないね。何か問題があったのかい?」
「まぁ些細な事なんですけど、そこの御仁二人がこの島の鉱石が欲しいということで、島を散策したいらしいのです。次に物資を運んでくるときに乗せて帰るつもりなので、それまで見てくれませんでしょうか?」
「一人や二人増えたってなんも変わりゃしないよ! いいよいいよ! 珍しい客人だ!」
「ふむ、ありがたい。お主は話ができて助かる……」
女性の懐の広さは時々広すぎる時がある。
だが彼女の場合はそれが海のようであると、木幕は直感した。
筆頭と呼ばれた海賊団の長よりも、よっぽど長らしい。
軽い自己紹介を終えた後、まずは鉱石についての話を聞くことにした。
「私たちは専門家じゃないからよくわかんないけど、岩がゴロゴロしてる所ならあるよ。オアシスを超えた先にね」
「そうか……ではそこに寄ってみるとしよう」
「お腹がすいたら帰っておいで。人手がいるんだったら貸したげるからいつでも言いな」
「かたじけない。だがそこまでしてもらって良いのか?」
「構やしないよー! 最近魔王軍が来ないから、暇してんのさ! 是非こき使ってやってくんな!」
「左様か」
本当に心の広い女だと、再確認する。
見返りを求めてもいいくらいだとは思うのだが、彼女は欲がないのだろう。
だが手伝いは後からで問題ない。
初めは木幕と石動の二人で下見をしに行く予定である。
木幕は膝をついてわき腹をさすっている石動に声を掛けた。
「行くぞ?」
「お、おう……。あんなん久しぶりに貰っただよ……」
「大丈夫か?」
「動けるから大丈夫だぁ」
木幕の手を借りて、石動は立ち上がる。
では指定された場所へ行こうとした時、また後ろから声が掛かった。
「ま、まだだぁ……! まだ終わっちゃいねぇ……」
「……往生際が悪いな……」
デルゲンが立ち上がり、物凄い形相でこちらを見ていた。
このままにしておいたら闇討ちをされてしまいそうだ。
一度折っておいた方がいいかもしれないと、今度は木幕が前に出た。
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