7.14.海賊のテリトリー
デルゲンの言った発言に対して、二人は首を傾げる。
何か問題があるのだろうか。
「何故だ」
「ここは俺たちの拠点だ。そしてこの島はいわば庭。家の庭を好きにしていいっていう家主はいないはずだぜ?」
「あくまでこの島を所有物だと言い張るか」
「当たり前だろう? 自然も豊かで動物もいるいい島なんだ。それを急に現れた奴に好き放題されてたまるかってんだ。俺がいる限り、ここは俺の島だ」
木幕はそれを聞いて嘆息する。
これは妙な意地だ。
何でもかんでも奪って生活をしてきた海賊だろうし、この辺の倫理観を問うても響くことはないだろう。
独占欲が強くなっているこの船長をどう諭したものかと、木幕は考えてみるが一向にいい案が浮かばない。
どうしようか悩んでいると、石動が木幕の肩を突いた。
「む?」
「話をしても無駄だべ。さっさと行くだよ」
「ああ、そうか。話をする必要などなかったか」
石動の言葉を聞いて妙に納得した木幕は、踵を返して山へと向かう。
石動も満足したようにして、肩に金城棒を担いでそれに続く。
だがそれを大慌てでデルゲンは止めた。
「おいおいおいおい!! 話聞いてなかったか!? 帰れっつってんだよ馬鹿野郎!」
「「何故」だべ?」
「何故って……ここは俺の島! 俺の庭なんだよっ! 勝手に踏み荒らすな!! テリトリーを穢すな!」
大声で叫ぶものだから、周囲の海賊の一団もそれに気が付いたらしくざわざわとし始めた。
面倒くさいことになる前にさっさと離れたかったが、デルゲンがそうさせてくれそうにない。
であれば少しからかってやろうと、木幕はデルゲンに向きなおる。
「それはお主が勝手に決めているだけだろう。この島に住み着いた民族でしかないのだからな」
「民族……!?」
「この島を作ったのはお主なのか? 今立っている砂を運んできたのはお主か? ここまで火山を噴火させて大きな島にしたのは、ここまでの大森林を作り出したのはお主なのか? どうなのだ?」
「作れるかよ!!」
「そうだろう? それに某はお主と権利争いをしに来たのではない。少しばかり石を貰いに来ただけである。そしてその旨は伝えた。お主がここに住んでいるだけの存在であれば、許可はいらぬはずだ。では」
「だから待てごらああ!!」
馬鹿だからと思って適当に話をして見たが、やはりこうして暴力的解決をしてしまう方が簡単である。
頭を使えない奴には体で教え込むのが一番だ。
ということで、踵を返して山に向かおうとしていた木幕の肩に手を置いたはずのデルゲンは、既に砂地を背にして倒れていた。
何が起こったのか全く分からなかった彼は、ガバッと立ち上がって木幕を睨みつける。
そして腰に携えていたハンティングソードに手を掛けた。
「!? ちょ、デルゲンさん!」
「うるせぇ!」
頭に血を登らせたデルゲンは、話を聞くこともなく感情のままに剣を抜き、大きく振りかざした。
思いっきり振り抜くつもりで力を入れたはずだが、剣が全く動かない。
なんだと思って後ろを振り返ってみれば、峰を石動が指で握っており、止めていた。
「あぶねぇべ」
「!? お!? おま!? え!? うぐぉおおおお!!」
「ああ、そんなに振り回さないで欲しいだべさ……。折れて──」
ポッキンッ。
振りほどかれまいと剣を掴む指に力を入れた石動は、とうとうそれを折ってしまった。
奇術を使って止めていたので、絶対に止められる自信はあったが、まさか折れるとは思っていなかった。
それに石動は逆切れする。
「だから折れるって言ったべよ!!!!」
「なんで貴様が怒ってんだよ!!!!」
「声……でっか……」
大男同士、その肺活量は尋常ではないらしく、挟まれていたテガンが耳を抑えてくらくらしている。
周囲にいる者たちも、どう収拾をつければいいのか分からず声をかけあぐねていた。
未だに大声で文句を言い合っている二人を見て、木幕は嘆息する。
「やはり蛮族……話が通じん……」
「うぅ……木幕ぅ、何とかしてくれよぅ……」
「話の通じる者を用意してくれ」
「筆頭の右腕……ラックルなら話を聞いてくれるだろうけど……」
テガンは周囲をキョロキョロと見渡すが、見覚えのある人影は見つからないようで首を横に振った。
この辺にラックルという人物はいないらしい。
しかしこのまま喧嘩した状態で島には入りたくない。
この状況を作ってしまった根本は木幕ではあるが、反省も後悔もしていなかった。
どうしようかと考えている間にも、デルゲンと石動の口喧嘩は熱を帯びて行く。
「大体なんだべその独占欲!! それに眠ってる鉄が可愛そうでねか!!」
「ああん!? 知るかそんなもん!! 俺の島だ!! 俺の土地だ!! 部外者が好き勝手するなっつってんだよ!! わかるかぁ!?」
「これが海賊の頭とか考えられない程器の小さな男だべさね!! ちょ~~~~っと腕が立つからって調子こいてっとこの金城棒が頭かち割るべよ!!」
「おうおうおうおう!! やってみろくそ野郎が!!」
「フンッ」
「あごぁっ!!?」
「「「「「「筆頭ーーーー!!!?」」」」」」
見境のない攻撃に、流石の木幕も口を開けて驚いた。
最初に手を出してきたのは向こうとは言え、あの攻撃はさっきの比ではない。
が、デルゲンはすぐに復活してずんずんと石動に向かって歩き、拳を繰り出した。
その拳の威力は、恵まれた体格から繰り出されたということもあって強力だ。
普通であれば簡単に吹き飛んでしまう程の威力があるだろう。
だがその拳は石動の硬すぎる胸板にぶち当たって跳ね返される。
「!!?」
「フンッ」
「ごっほぁ!?」
「「「「「「筆頭ーーーー!!!?」」」」」」
デルゲンはゴロンゴロンと転がっていく。
だがまたすぐに立ち上がった。
よく見てみると、彼は血が一切出ていない。
それどころか、打撲による青あざなどもないように思われた。
彼はタフだった。
特殊な魔術などは一切使っていない。
だか彼の恵まれたその体格の皮膚は、下手をすれば矢すらも跳ね返す硬さを有していたのだ。
自然的な肉体の強化。
この世界においてはとても珍しい体質だった。
「喧嘩だな!!!!」
「言うことが聞けない奴は叩いて直すべ!!!!」
「あわわわわわ」
「ここまで発展させるつもりはなかったのだがな……」
流石に反省した木幕であった。
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