7.13.到着
船は荷物が多く乗っているためか、揺れはそこまでではなかった。
潮風が乗組員たちの汗を乾かすが、代わりに少しじっとりとした海独特の感触に見舞われる。
だが悪い気分ではない。
休憩していた乗組員たちだったが、島が近づくにつれて慌ただしく動き始める。
舵を切り、魔法で風を起こして船が進む速度を調整した。
島は随分と大きい。
森が生い茂っているが、それは麓付近だけで山頂に向かうにつれて木々は少なくなっている。
岩場が多いようだが、崖から湧き水も流れているらしく、山からは大量の水が滝となって落下していた。
鳥が何匹か空を飛んでいるので、ここにも生物が多いということが分かる。
岸壁と砂浜があり、その境目に船着き場が用意されているようだ。
「なかなか大きな島であるな……」
「んだなぁ~。これなら鉱石があってもおかしくはないだ」
「あることを願うしかないな」
甲板の上は更に慌ただしくなる。
ロープを解き、違う場所へと結びなおす。
数人がかりで帆を引っ張り、向きを調整した。
船着き場に船をつけた後、下にいて準備をしていた海賊の一団が桟橋に船を流されないように固定する。
海賊と言っても誰も彼もが顔や体に傷がある訳ではない。
好きな格好をしているのと、潮風で髪がカッチカチになっているところ以外は普通の領民と似たような顔立ちだ。
だが一人が一本ずつ武器を持っているようだった。
海賊の一団が船を固定してくれている間に、乗組員は錨を下ろす。
これでもしロープが外れても流されることはないだろう。
「よーし! 荷下ろしだ! ゆっくりでいいからなー!」
「「「「おおー!」」」」
ここには他の船は来ない。
順番を気にしなくてもいいので、急ぐ必要性もないのだ。
それに加えて、海賊の一団も荷車を何台か用意してくれている。
使いまわしている港よりも数が揃っているので、この一隻に積んでいる荷物などすぐに下ろすことができる。
船長であるテガンは、荷運びを一切せずに船を降りる。
今回は乗組員も彼に文句を言うことはない。
何故かと言うと、彼は今から海賊団のリーダーと話をしに行くからだ。
必要な物資を聞かなければならないし、船の整備なども彼らには必要である。
それに、ここの海賊たちには魔王軍の侵攻を食い止めてもらっている時があるのだ。
その話を聞かないわけにはいかない。
木幕と石動は、流石にそこまで偉くはないのでまずは荷運びを終わらせる。
それからこの島に降りることになった。
「石動さん。もうここに就職してくださいよー」
「おいは鍛冶師だど?」
「えぁ!? そうなんすか!?」
荷下ろしをしていた乗組員の一人が、石動をさりげなく勧誘するが速攻でぶった切られた。
だがそれよりも彼が鍛冶師であるということの方が驚いたらしい。
「木幕さんはー」
「某は旅をしている。ここに永住する気はない」
「そっすかぁ……」
それは残念と、乗組員はしょんぼりしながら荷運びを進めて行く。
今回この二人が参加してくれたおかげで、出航が早まったのにも対応することができたのだ。
彼らには感謝しかない。
だからこれからも一緒に働いてもらいたいと期待していたが、やはりそう上手くはいかなかった。
二人にとってこの船は仕事場ではなく移動手段だ。
目的の物を持って帰るのにもこの船を使うかもしれないので、あとで船長に許可を取っておかなければならないだろう。
名残惜しそうに話しかけてくる乗組員と共に、二人は荷下ろしを進めていった。
海賊の一団も協力をしてくれたので、積み込むときよりも早く終わったようだ。
乗組員と海賊たちは仲がいいらしく、久しぶりと挨拶をしながら一緒に仕事をしていた。
海賊と聞くと悪い印象しか受け付けないが、こうして見ていると見聞が狭いなと反省せざるを得ない。
彼らは彼らなりに生活をしているのだ。
少し手段が良くないかもしれないが、こうして魔王軍と戦ってアテーゲ領を守っているのは確かである。
その話も少し聞きたい。
時間ができたら聞いてみることにしようと思う木幕だった。
荷下ろしも一段落終えた後、船員のほとんどが一度島に降りた。
仲がいいということもあって、何やら海賊の一団が労ってくれるらしい。
とは言えそれは魔王軍と戦った時の戦利品をくれるというだけのものだが、男としてそれに興味がない者はいないだろう。
木幕と石動もそれに続き、とりあえずついて行ってみることにする。
歩いている最中、テガンを発見することができた。
明らかに海賊と思われる大男と何かを話している様だ。
「と、言うことがありまして……。あ、いいところに。おーい! 木幕、石動ぃー! おいでー!」
二人の姿を見つけたテガンは、手招きをして呼ぶ。
無視するわけにもいかないので、戦利品を後にしてそちらの方へと足を運んだ。
テガンの前に立っていたのは、石動よりも背丈の大きい男だ。
だが体格的には石動の方が勝っているように思える。
バンダナから何個かの髪飾りをぶら下げ、ガッサガサになった髪は結んで後ろへと放り投げていた。
日焼けによって黒くなった肌が、彼の印象をより濃いものとしているように思える。
海賊らしい分厚い革のコートを肩に羽織り、腰にはハンティングソードが携えられていた。
服の下にはいくつもの武器が仕込まれているらしく、所々不自然な荷重が加わっている。
「こいつらが?」
野太い声を発しながら、大男は二人を品定めするようにじろじろと見た。
それに苦笑いしながら、テガンが説明する。
「そうなんだ。なんでも鉱石を探しに来たらしい」
「鉱石ぃ?」
移動中、テガンには木幕たちの目的をしっかりと話していた。
掛け合ってくれるとは思っていなかったが、彼としても木幕と石動の存在は少しだけイレギュラーで面白かった。
なのでちょっとだけ世話を焼こうとしたようだ。
大男が、二人を見やる。
「おい、名前は」
「木幕」
「石動だ」
「俺はデルゲン・ファカシム。なんだってこの島なんだ」
石動が前に出て、それを説明する。
「近場じゃ鉱脈がないだ。輸入品も粗末な鉄ばかり……望みは薄いかもしれないが、鉱石があるっていわれているここならいい鉄が採掘できるかもなんだべさ」
「あー、じゃあれか。鉄を採掘する許可を出せということか?」
「それと寝床だんな」
海賊たちはこの島を拠点にしているだけで、持ってはいない。
占領に近い形ではあるが、鉄を採掘する許可自体はデルゲンにはないはずだ。
なので二週間ほど海賊たちが拠点としているところに住まわせてくれる許可を、今回は取ろうとしている。
デルゲンは少し悩んだが、目を開いてこういった。
「駄目だ」
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