7.11.鍛冶場の守りと情報収集


 ほとんどを石造りで作られている建物は、見ているだけで涼しくなる。

 ここは燃えるように熱くなる場所であり、冷え込むように冷たくなる場所でもあった。


 鍛冶場に戻ってきていたレミとスゥは、一度中に入って作戦会議をすることにした。

 まずは守りをどうするべきなのか、そして情報収集はどうやって進行すればいいかなどといったことをあらかじめ決める予定だ。


 一番の問題は、スゥが喋れないということ。

 可愛らしさという魅力を使っての情報収集は困難なので、どうにかしてこの子に仕事を回せないかと考えることにした。

 しかし、スゥはレミから見てもまだ子供だ。

 何を任せるべきなのか、少し悩んでいた。


 スゥは子供の中ではトップクラスに近い実力を持っているだろう。

 それは木幕との修行に置いて、持っている剣術スキルが六にまで上昇している事から察することができる。

 もう上位冒険者の次元だ。


 レミも薙刀術スキルと槍術スキルがそれぞれ七に上がっている。

 津之江の稽古はレミにピッタリであったらしく、その成長速度を一気に加速させていた。

 剣術は五。

 これだけでもその辺の冒険者には劣らない程の実力がある。


 他にもスキルは沢山あるのだが、言葉を発することができないスゥはそれを教えるのに難儀していた。

 スキルだけは上がっているが、実戦は齧る程度しかやっていない。

 ライルマイン要塞での兵士との戦いが、スゥにとっての初陣だったのだから。


「んんー……。私よりも高い剣術スキル……。同じスキルを持ってるからこそ、スゥちゃんの強さが身に染みて分かってしまう……」

「っ!」

「褒めてるけど、そうじゃないのよ……」


 胸を張ったスゥに、レミがそう言った。

 確かにスゥは強い。

 躊躇のなさもあるし、戦闘すれば恐らくほとんどの敵に勝つことができるだろう。

 だがそれでもやはり心配なのだ。

 この子を本当に戦わせていいものかと。


 一人がここを守り、一人が情報収集と言うのが一番理想的な形だ。

 だがスゥにここを守らせるわけにもいかないし、情報収集に行ったとしても子供だけでは不安が残る。


 任せられる実力は、ある。

 だが子供ということがレミの後ろ髪を引っ張って決断を鈍らせていた。


 実際、対人戦で何処まで通用するか分からない。

 二人の場合、魔法使い相手には苦戦を強いられることになってしまうのだ。

 それはあの時の戦いで十分理解している。

 対策もあれから考えたので、何とかなるかもしれない。

 が、やはり任せるという決断ができなかった。


「んん~……。レミちゃん、他にどんなスキルがあるの?」

「っ」

「耳?」


 そう言って、スゥは耳を指さして何か遠くの音を拾う様に手を耳の後ろに置いた。

 次に一つ一つの方向を指さして、二本指を立てたり四本指を立てていく。


「……え、索敵スキル!?」

「っ!」

「わぁ~!」


 スゥは指さす方向に、何人居るのかを当てていたのだ。

 それができるのであれば、情報収集には役立つかもしれない。

 しかし、そこでまた問題が発生する。


 話を聞いてきたとしても、それを伝える手段がないのだ。

 これは本当にどうしようもない。

 文字を教えておけばよかったと後悔したが、そんな時間はなかったように思える。

 木幕といる時はいつも稽古だったし、移動中は紙もないので教えることができなかったのだ。


 今教えてもいいが……なかなか時間が作れそうにない。

 さてどうしたものか。


「できれば二人で行きたいね……」

「っ!」

「とりあえず文字、教えよっか」

「! っ! っ!」


 とはいえここには紙がない。

 どうしようかなと思ったが……そう言えば鍛冶場に炭が沢山置いてあることに気が付いた。

 それを使って文字の練習をすればいいだろう。


 最悪向かって来た兵士を縛って話を聞けばいいかと考えながら、スゥに文字を教えるために鍛冶場の炭を手に取った。

 書きにくいが文字を教えるのには十分だ。


「じゃ、手袋して。私が書く文字を真似してね」

「っ!」

「これが……スゥ。スゥちゃんの名前ね」

「~っ」


 そんな風にしながら、時間を潰した。

 早く兵士来ないかな、と思いながらまた文字を書いていったのだった。

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