6.18.逃走
道幅は狭いがそれは相手も同じこと。
並んでも精々二人でしか戦う子はできないはずだ。
「スゥちゃん! 周囲の警戒お願い!」
「っ!」
流石に遠距離攻撃は射手を発見できなければ回避することができない。
スゥには索敵をお願いし、上からの攻撃と後方からの攻撃に注意してもらう。
できれば参戦して欲しいが子供を戦わせたなどと知られてしまえば師匠に怒られる。
レミは薙刀を身に寄せて刃を下に構える。
体と薙刀は一直線だ。
そこに先行してきた一人の兵士が突っ込んでくる。
明らかに大ぶりな攻撃だ。
これは手加減する気がないなということに気が付いたレミは、本気を出すことにした。
さて、兵士の鎧は分厚い。
ここでは関節部を狙って攻撃しなければならない……。
レミは相手の動きを弱点を見て、行動に移る。
大振りの攻撃を回避するのは簡単だ。
半歩身を横に躱せば大きな隙ができる。
だがこの薙刀では接近し過ぎた相手を狙うことはできない。
なので回避した瞬間、後ろにいたもう一人に狙いを定める。
相手も先手の兵士を無視してこちらに攻撃を仕掛けてくるとは思っていなかったのだろう。
回避は元より防ぐことも間に合わなかった。
レミは石突を突き出して喉元を狙う。
冑をしていない兵士であればこれで簡単に終わってしまう。
案の定兵士は急所を突かれ、大きくせき込みながら倒れてしまった。
「っ!」
「分かってるわ!」
レミを通り過ぎた兵士が、振り返りざまに剣を横に振るう。
それを伏せて回避してレミは、半回転して薙刀を下段から掬い上げるようにして切り上げた。
遠心力を乗せたその攻撃は兵士の脇に直撃し、辛うじて鎖帷子を貫通して負傷させることができた。
その後のスゥに追撃で両足を刺されたことにより、動くことができなくなってしまう。
「ナイスよスゥちゃん!」
「っ!」
この程度の相手であれば、まだ何とかなる。
レミとスゥは倒れた兵士を乗り越えて後ろに後退していく。
まだ武器を握れる力を持っている兵士の側に居続けるのは危険だ。
回復されてしまうかもしれないが、完全に仕留めることができない以上撤退しながら相手に傷をつけていく方がいい。
負傷兵は足手まといになる。
こうして負傷者を増やしていけば、何とか逃げ切ることができるはずだ。
勝つことは考えない。
スゥもいるのであまり無茶もしたくないのだ。
「スゥちゃん!」
「っ~!」
二人は一斉に逃げだした。
面食らった兵士たちだったがすぐに追跡を始めていく。
こんな数をこの狭い空間で相手にするのは不利だ。
それに逃げることに徹しておいた方が楽。
そもそもこの兵士たちに捕まったら何をされるか分かった物ではない。
名乗らなかったのだし、面倒ごとに巻き込まれるのは目に見えている。
「逃げちゃいましょう!」
身軽なのはこちらの方だ。
後は大きな通りに出てしまえばこちらの勝ちである。
スゥはレミよりも足が速いし、抱えるということもしなくていい。
最悪この子だけでも逃げてくれれば問題はないだろう。
「!!」
「!? どうしたのスゥちゃん!?」
スゥが急に立ち止まった。
すると、周囲の音を聞くようにして耳に手を当てる。
スゥには、兵士たちの足音が聞こえていた。
ガシャガシャと鳴り響く音が、四方八方から。
こうなったらできるだけ数の少ない場所を選ぶしかないと思ったスゥは、すぐにレミの手を引いて身を反転させる。
そして一度通り過ぎた細道を走って行った。
レミはどうしたのか分からなかったが、ここはこの子を信じようと自分でも走り出す。
スゥは何度か立ち止まり、音を聞いてまた走るを繰り返す。
そして兵士と鉢合わせた。
「これは突破した方がいい!?」
「っ!」
「了解!」
レミとスゥは四人の兵士に向かって掛けて行く。
スゥが近くにいるので少しひやひやしたが、こうして離れてくれないだけありがたい。
少し行動は制限されるが、今は構っていられないだろう。
「ピーーーー!!」
一人の兵士が口笛を吹いた。
これはマズいと思ってまずはその兵士を叩く。
ガインッ!
盾を持っている兵士に攻撃を邪魔され、逆に反撃を受けることになった。
だが槍を軸にして回避し、その兵士の顔面に蹴りを喰らわせる。
少し怯んだだけなのでほとんど意味はないが、この一瞬が大切だ。
レミの背後からスゥが飛び出す。
大きな盾で気が付くことができなかった兵士は、スゥの持っている半透明の青い刃が、兵士に襲い掛かる。
露出している喉元を狙った。
なかなかの容赦のなさだが、今はもう構っていられない。
盾持ち兵士をけ飛ばした後、レミはその勢いを使って他の兵士に刃を向ける。
下段からの切り上げを一度防がれるが、その衝撃を利用して今度は石突で突き技を繰り出す。
ガツッと顔面を捉えたその攻撃は強力だったようで、兵士は鼻血を出して倒れてしまう。
残り二人は魔導兵。
接近戦で兵士が戦っていたので援護ができなかったようだ。
今も兵士を後ろに向かっているので中々狙いが付かないらしい。
「「はっ!」」
「が!?」
「っ!?」
途端、体全身に痺れが襲い掛かる。
足元を見れみれば、小さな魔法陣がその辺に沢山描かれていた。
「ぱ、パラライズ……!」
「っー……」
体が痺れて全然動かせない。
スゥも同じようで、転がった刀を握りしめにいくだけで精一杯だったようだ。
すると魔法兵が近づいてきて、首筋に強力な一撃が繰り出された。
レミはすぐに意識を手放してしまったのだった。
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