6.17.周りから


 大きな街道を進んでいる。

 今までの街とは違う程込み合っており、歩くのも一苦労だ。


 レミとスゥは、稽古終わりに遊びに出ていた。

 いつもの基礎練習が終わり、教えてもらった型をなぞる。

 大体二、三時間くらいやっていただろうか。

 そこでスゥがお腹が空いたと言ったのだ。


 勿論この子は喋ることができないのでジェスチャーではあったが、もうここまでの付き合いだ。

 言いたいことも分かるようになってきた。


 ということで、いい匂いのする方向へと足を運んでいく。

 屋台も多く出ているので、食べるものが多くて困ってしまう程だ。

 路銀はまだまだたくさんある。

 使いきれないほどにあるので、これを持って出歩くのは本当にひやひやする。


 今は武器も魔法袋に仕舞っているので身軽だ。

 薙刀は二本あるが、基本的に使うのはルーエン王国で作ってもらった薙刀。

 これもいい素材で作っているので、強い武器である。

 後は自分が何か魔法を使えれば言うことないんだけどな、と思いながら、レミはスゥの後をついていく。


 スゥは何度か振り返って早く早くと手招きをしていた。

 はいはいと言いながらそれについていく。


「スゥちゃん何が食べたい?」

「っ!」

「あれは何かしらね?」


 スゥが指差したのは魚の身を調理して売っている屋台のようだ。

 しかし濃い匂いが漂っている。

 魚からこんなに濃い匂いが出るのだろうかと気になり、そちらに足を運んでいく。


 近づいてみれ見れば、そこは焼いた魚の身に何かを塗っていた。

 恐らく調味料だということが分かるが、これは一体何だろうか。


「おじさーん。これなんですか?」

「これかい? アテーゲ海から水揚げされたウォルパっていう魚さ。こうしてソース付けて食べるんだよ」

「ああーなるほど。二つ貰ってもいいですか?」

「いいけど、子供には辛いかもよ?」

「あ、そうなんですか。じゃあとりあえず一本」

「はいよー」


 値段は非常に安かった。

 受け取ったそれをスゥに手渡して食べさせてみる。


 一口食べたスゥだったが、意外と平気そうな顔をして咀嚼する。

 これなら自分の分も買わないとな、と思った瞬間、スゥが舌を出して手で扇ぎ始めた。

 どうやら辛かったようだ……。


「み、水あります?」

「はっはっはっは! あるよあるよー。ほれ坊主」

「っ~~!」


 スゥは水を飲み、レミは魚を受け取って食べてみる。

 確かに少し辛いが、意外といける。

 皮もぱりぱりとしているし、身はほぐれていった。

 癖のある味ではあったが、悪くはない。

 レミはそのままパクパクと魚を食べて行く。


「っ~」

「フフッ、なにか違うの買わないとね。おじさん、子供にも食べれそうな屋台ってあります?」

「ああ、それなら……。おーい、こっちの子供にトロペンやってくれないかー?」

「いいぞー!」


 隣りの屋台に声をかけると、すぐに店主が食べ物を包んで持ってきてくれた。

 芋に何かがかかっている様だ。

 それはトロトロとしていて、明るい色をしていた。


 だが非常に熱くなっているらしい。

 手に持っていても熱さが伝わるのか、スゥは何度か持ち替えながら息を吹きかけて冷ましている。


「これなんですか? あ、お代です」

「ども。これは芋にチーズをかけたものだよ。意外と合うんだよこれが」

「へ~」

「! っ! っ!!」

「お、美味しかったかい?」

「っ!」


 トロペンを一口食べたスゥは何度かジャンプして美味しさを表現した。

 それからはパクパクと食べていく。

 すぐに無くなってしまったが、スゥはそれだけで満足したらしい。


「ありがとうございます」

「商売だからね。また人連れてきてよ」

「機会があったら、ですね」

「期待してるよー」


 簡単な会話を済ませた後、二人はその場を離れた。

 なかなか美味しい食べ物もあるんだなぁと思いながら、さて次はどこに行こうかと考える。

 もう少し屋台を回ってもいいが、あまり食べ過ぎると晩御飯が食べられなくなってしまう。


 後は観光がいいかもしれない。

 だがこの辺の観光名所はあるのだろうか?


「っ?」

「ん? どうしたのスゥちゃん」


 スゥは指をさす。

 すると、向こうからフードを被った明らかに貧困層の子供らしき人物が走ってきていた。

 こちらを見ているのを察するに、レミたちに用があるらしい。


 子供は二人の前で立ち止まり、服を引っ張ってくる。

 なんだろうと首を傾げたが、子供を放っては置けないだろう。

 師匠であれば絶対に助けるはずだ。


 スゥもこの子たちの辛さは分かる。

 何か事情があるのだろうと思って、小さく頷いた。


「君、名前は?」

「ハラク……」

「何があったの?」

「説明してる時間ない……来て、お願い……」

「分かった。案内して」


 レミとスゥは、子供の案内に従って走っていく。

 体が弱いということもあって速度は出ていないが、この子にとってはこれが全速力なのだろう。


 大通りを抜け、少し細い道に出る。

 スラム街に行くのかと思ったがそうではないらしい。

 細い小道を迷うことなく進んでいった。


 そこで、ふと子供が立ち止まる。

 周囲を見てみるが、ここには誰もいないようだ。

 一体どうしたのだろうと思っていると、急にこちらに向かって走って来た。

 だが何かするということはなく、そのまま通り過ぎて行く。


「ごめんなさい……」

「え?」


 通り過ぎる直前、子供は謝った。

 振り返ってみると、知らない兵士がこちらに剣を向けて立っている。

 まだ奥にもいるということが分かった為、すぐに魔法袋から薙刀を取り出して構えた。


 子供を見ていると、兵士から双子であろう似たような容姿をしているもう一人の子供が解放されていた。

 双子は申し訳なさそうにこちらを見ながら、タタタタッと離れて行ってしまう。


「最低ね」

「っ……!」


 子供を人質にして、レミたちをここに誘い込むように仕向けたのだろう。

 だがあの子たちは助けられた。

 あの子たちは何も悪くない。


「誰?」

「無駄な抵抗をしなければ危害は加えない。ついてきてもらおう。武器を下ろせ」

「私は誰だって聞いたの。まさか受け答えもできない兵士じゃないわよね」

「ッ……貴様……!」


 このキレやすさ……。

 貴族の兵士か何かだろうか。

 立派な装備をしているが、何処に所属している兵士なのかは分からない。

 スラム街で戦った兵士ではないということは分かるが……。


 そこで、レミは周囲を見る。

 道幅は三メートル程しかない。

 ここで長物を扱うのは少し難しいかもしれないが、津之江の教えてくれたこの流派であれば何とでもなる。

 後は自分の実力だ。


「そう簡単に捕まってなるものですか」

「っ! っ!」

「行け」


 兵士が前に出てきた。

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