6.16.槍購入


 翌日、木幕と葛篭は武器屋に行くことにした。

 何故葛篭も一緒に行くことになったのかというと、見たことがないから見てみたいとの事。

 どうして今まで一度も行っていなかったのか疑問に思ったが、頼れる人物がいなかったので人助けをしながら方々を点々としていたらしい。

 それではこの世界の常識もあまり知らないというのも納得だ。


 レミとスゥは留守番である。

 と言うより自主練がしたいということだったので、無理に連れて行くのも悪いと思って置いてきたのだ。

 今頃は庭か何処かで剣技を磨いているところだろう。


 あの二人もどんどん実力を付けていっている。

 次第に教えられる側になりそうだなと思いながら、木幕は武器屋へと足を運んだ。


 武器屋は普通だった。

 鍛冶場が用意されていない場所の様で、武器だけしか置いていない。

 防具屋は別にあるとの事。

 だけど盾はここでも販売しているらしい。


 中には数々の武器が並べられている。

 手入れはされているようで、どれも新品だが古い物は格安でまとめられていた。

 錆びて使えなくなっていたり、刃こぼれが酷くてとても使えない物ばかりだ。


 葛篭は新品の武器や古びた武器を突きながら、首を傾げる。


「ほぁ~。粗末ん鉄つこーとるなぁ~」

「声を落とせ……」


 この世界に故郷と同じ性能を有している武器はない。

 斬ることを前提に作られていない物ばかりなのだ。

 文化の違いだと思うのでそれも仕方がないとは思うが、たまには感嘆するような武器を見てみたいものである。


 鋼を知り、研ぎを熟知している葛篭はこの武器たちの性能が分かる。

 どれも粗末品だ。

 だがそれなりの価値が付けられていることに、変な関心を示していた。


 さて、木幕の目的の品は槍だ。

 一体何処にあるかなと思って見てみると、一ヵ所に立てかけられていた。

 どれも新品であるのには間違いない。

 柄は木材で作られたものが良い。

 その条件に見合う物はいくつも発見できた。


 だが、肝心の刃となる部分がなんとも心もとない。

 刃の形が様々で、均一なものが一つもないのだ。

 素槍のようなものが欲しいのだが……。


「店主。普通の槍はないのか」

「それ全てが普通の槍ですよ?」

「むぅ……」

「木幕。わてが作ったらぁか? 木工なら任せい」

「む、そうか。では刃の部分だけ購入するか……」

「あぁー、できれば柄も買うてくれ。一から作るんはえらいけぇ疲れるから

「分かった」


 そういうことであればと、木幕は短剣を吟味する。

 これを解体すれば槍の穂先にはなるだろう。

 短剣は鞘に納められることを前提としているため、まっすぐなものが多くあった。

 その中で一番綺麗なものを選び取り、手に取って重さを確認する。


 一つは決まった。

 次は槍を購入して穂先を取ってしまおう。

 選ぶのは柄の長さが丁度いいもので、質も良いもの。

 葛篭は木材の目利きが得意だったのでこれは任せることにする。

 長さが長ければ後で調整できるということだったので、葛篭に任せて槍を選んだ。


 全てで金貨二枚。

 中々高額だった。

 まぁいいかと思い、指定された金額を渡して購入を済ませた。


だらばっとそれじゃ

「!? お客さん!?」


 葛篭はその場で槍の穂先をへし折った。

 ここでしなくてもいいのにと呆れながら、手渡されたその棒の長さを確認するする。

 少し長いが丁度いい。

 穂先に付けるために加工すればもう少し短くなると思うので、これくらいでいいだろう。


 もうこの際だ。

 短剣も解体してしまおうということで、さっさとばらして余った部品を店主に返した。

 必要のない物はいらない。

 これが葛篭の考えだ。


 その行動に呆然としていた店主だったが、金も払って貰っているので文句は言えない。

 やることは終わったと言わんばかりに、二人は店を出る。


「では、頼んだ」

「おう。まずは帰らぁか」

「それもそうであるな」


 騒がしい場所では仕事はできない。

 なので木幕と葛篭は静かな宿で加工をすることにした。

 敵に武器を作ってもらうことなんてあるんだなぁと木幕は思いながら、葛篭を見る。


 だが葛篭は、加工と言う作業を楽しみにしているだけのようだ。

 本当に戦いは好んでいないのだろう。

 だが彼との戦いは勉強になることばかりだ。

 また一度、手合わせをしてもらいたい。


「葛篭よ」

「お~?」

「お主に欲はないのか?」

「はぁ~? あるん決まっとっだらぁが決まってる

「それは?」

「寺子屋んせんせーっちゅーんていうのになりてぇなぁ」


 意外な回答に、木幕は少し驚いた。

 彼であれば剣術の師範にもなれる器量があるし、なんなら細工師としてもやっていける実力もあるだろう。

 あの仏の完成度を見れば、それは一目瞭然だ。


 だが、葛篭はそんなものはただの金稼ぎでしかないと考えていた。

 本当にやりたいことは、皆の模範となる人物となること。

 導き手、と言うのがいいだろうか。


 葛篭は、人に何かを教えるということがとても好きだったのだ。

 自分の技術で彼らが飯を喰うに困らない生活ができる。

 これ程にまでいい生活はないのではないか。

 いつもそう思って仕事場の弟子に物を教えていた。


 葛篭の下につく弟子は皆いい子で、誰もが彼に懐いた。

 いいものだ。

 そう思ったのは一度や二度ではない。


 しかし、彼らを守るという義務もある。

 だから葛篭は剣術を独学で編み出し、ここまで強くなった。

 守る者の規模が、他の者とは全く違ったのだ。

 だから彼は強くなったのかもしれない。


 そんな話を葛篭は木幕にした。

 それを語っている時の彼は、諦めきれない夢を追いかけ続ける子供のようにも感じ取れる。


「はっは! 妙な話してまったな。んだら、さっさ仕事すっかえ」

「……うむ」


 葛篭は気持ち足早になった。

 その背中は、今でも多くの物を守ろうとしているということが分かる。

 彼を斬るには、もう少し覚悟が必要だなと、そう感じた。

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