4.54.襲撃


 木幕の大声を聞いて起き上がったレミとライア。

 すぐに得物を手に取って廊下へと飛び出す。


「ライアさん!」

「レミさんは女の子部屋へ! 僕は男の子を!」

「はいっ!」


 部屋の扉の前で指示を出したライアは、すぐに走り出す。

 それに続いてレミも走り、子供部屋に一気に駆けこもうとする。


 パリンッバリィン!

 窓が割れる音が周囲から聞こえてくる。

 それに気を取られて足が一瞬止まってしまった。

 廊下の窓は盛大に割られ、真っ黒な服を着た暗殺者らしき人物が入ってくる。


 レミの姿を見つけると、服の中からきらりと輝く小刀を取り出して戦闘態勢を取った。

 こちらもすぐに構えを取り、すぐに片づける為に前進する。

 まだ子供部屋の中からガラスの割れる音は聞こえていない。

 今敵対している二人を始末してすぐに中に入る。

 そう考えていたのだが、流石に大きな音を出した暗殺者共は隠密という言葉を捨てて全力でかかってくるようだった。


 レミのいた部屋の窓が割られる音がする。

 他にも入って来ようとしている者がいる事に気が付いたレミは作戦を変更した。


 踵を返して扉に駆け寄り、中に入る。

 咄嗟の行動に相手は反応できなかったようで、何とか部屋の中に入ることに成功した。

 そして足止めをする為に鍵をかけ、クローゼットを倒して部屋の入り口を閉じる。

 あと気にするべきは窓。

 ここまで来てしまったら後戻りはできないが、下にいる師匠と沖田川が来てくれれば勝機はある。


 何とか一時的な安全を確保したレミだったが、次に目に入った物は信じられない光景だった。


 シーラが子供に刃を突き立てようとしている。

 まだ寝ている子供にだ。

 レミは声を掛けることもせず、反射で動いてシーラの顔面を薙刀の腹でぶっ叩く。

 リーチがあったからこそ間に合った。

 何とかシーラを吹き飛ばし、地面に転がす。


「がぁっ!」

「──っ! 何してるんですか貴方は!」


 丁度ナイフも落としたので、すぐに拾って真反対の壁に投げておく。

 この襲撃と彼女の行動。

 一瞬戸惑ったが、これはシーラが原因で起こったことなのではないだろうかという考えに至る。

 だが何故。


「二人とも起きて! アネッサ! ウィリ!」

「はーい……?」

「むぬぅー……」

「緊急事態! アネッサ! ウィリを連れて隠れて!」

「え? んー……え?」


 まだ寝ぼけまなこで事態の把握ができていない。

 その時、窓の一つから敵が入って来た。

 だが狙いはレミではなくシーラであったようで、足蹴にして拘束し刃を突きつける。


「ぎゃっ!」

「……シーラだな?」

「なんで! 私は協力してるじゃない! 殺すならあっちの子供殺しなさいよ! 私は違うでしょう!?」

「はえ?」

「え、なんて言ったの……? レミ姉ちゃん。シーラさんなんて言ったの?」

「隠れて!!」

「ひぅ! は、はいっ!」


 その剣幕に押され、アネッサは目を覚ましてウィリを運んでベッドの下に隠れた。

 とりあえずその位置であれば巻き添えになることは無い。


 だが今のシーラの発言で彼女が敵だという事が判明した。

 どういう訳か敵にも狙われているが、仲間ではないのだろうか。


「命によりお前も殺す」

「なんで……!?」

「まずなぜ老人を殺さなかった。そして移動したという報告もなかった。お前は俺たちの事を知っているんだから、逃げたと捉えられても致し方ないよなぁ」

「えぐぁ……」


 反論しようとしていたシーラだったが、すぐに三回ほど刺された。

 喉、心臓、肝臓を狙った致命傷となる攻撃ばかりだ。

 ぽいと投げ捨てる様にして放り投げられたシーラは、もう動くことは無かった。


 そして、狙いがレミに定まる。

 ギョロっとした目玉が向いたと同時に突っ込んできた。

 長物である為室内戦は厳しい。


 が、薙刀はそうではない。

 確かに振り回すことは難しいだろうが、薙刀は室内でも戦う事の出来る獲物だ。

 下段に構えたその刃は少し腕を上げるだけで相手を突き刺すことができる。

 とは言えそれもこの狭さでは一筋縄ではいかないだろう。


 相手の動きを見てどう避けるかを推測し、刃を常に相手に向けておく。

 そうすることで勝手に突っ込んできてくれるのだ。


「頭で分かってても!」


 レミは思いっきり薙刀を突く。

 だがひらりと避けられた懐に潜られた。


「出来るかっ!!」

「がぁっ!?」


 思いっきり足を上げ、敵の急所を蹴り上げる。


 レミは長物で室内戦をする時のリスクを十分に考えていた。

 小刀でもあったらよかったのだが、生憎急いでいたのでその様な物は持ち合わせていない。

 なので体術に頼ることにした。


 人は強い武器を持っていると武器にばかり頼ってしまうものだが、拳だって立派な武器になる。

 先程の突きは敢えて攻撃を許した技だ。

 相手の持つナイフではもっと接近しなければ指す事は出来ない為、蹴りで応戦したのだ。

 まさか綺麗に入るとは思っていなかったので、心臓がバクバクと動いて息が切れていた。


 すぐに薙刀を構えてもんどりを打っている相手の喉元に刃を向けた。


「っ!」


 だがレミはこれが初めての人との戦闘。

 勢いそのままに行ければよかったのだが、流石に人を斬るとなると覚悟が必要だ。

 しかしこのまま脅しをかけていても状況は一切変わらない。

 それどころか悪い方向に進むばかりだ。


 後ろには子供もいる。

 これ以上敵が増えればこのように上手く立ち回れるかは保証できない。

 やらなければやられるのだ。

 自分に暗示をかける様にしてその言葉を口に出し、覚悟を決める。


 レミは息を止め、力を入れて敵を突き刺した。


「ぜぇ……はぁ……よし……やった! やったよ……!」


 ダンダンダンダンッ!

 廊下の敵を忘れていた。

 だが今はあのバリケードで対処で来ているようなので、窓からくる敵だけに集中することにした。

 屋敷だから窓の数は多いが、入って来れる場所は限られる。


 レミは助が来るまでここで防衛線を張ることにした。

 いつまで持つかは分からない。

 できれば刀となる木刀が欲しい所だが……部屋に置いてきたことが悔やまれる。


 いつ相手が来ても良い様に、静かに集中して敵を待った。

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