4.52.見つかった


 日中は平民に紛れての活動を主とする。

 その内容は至極単純だが難しい情報収集。

 様々な所に忍ばせている為、国の中の情報を全て掌握できる。


 しかし、バネップに取り付いていた若い黒い梟が欲を取って失敗してしまった。

 暗殺集団である意識が低すぎる最低な結果だ。

 何とか身柄を確保することには成功したが、もうここに置いておくわけにはいかない。

 なので最後に集めた情報を全て聞きだしてから始末することになった。


 だがその事情聴取の中で、面白い話が耳に入ったのだ。

 “有り得ないくらい強い剣士”がいたというものである。

 どうして公爵のバネップの所に行ったのかは分からないが、その人物こそがあの孤児院にいる老人である可能性が高い。

 それに、シーラの行方もまだわかっていないので、これが今回の手がかりになることは明白だ。


 だが見た目が違ったらしい。

 その剣士は若かったと言っていたのだ。

 とは言え、聞いた中での容姿は老人と一致している。

 見た目を変更することのできる魔術でも有しているのだろうか?


 まぁ折角の手がかりだ。

 そいつを洗っていれば、情報が出てくるかもしれない。

 まずは何故彼らがバネップの屋敷に赴いたのかが気になるところだ。

 だがそれは冒険者組合に潜んでいる仲間が教えてくれた。


 どうやらバネップはクオーラ鉱石の回収を依頼していたらしい。

 だがどうしたことか、その剣士は冒険者ギルドで鉱石を見せることを拒み、直接バネップの所へと持って行くことになったようだ。


 冒険者ギルドが信頼できないという事はよく分かるが、一介の冒険者がそのようなことをするとは到底思えない。

 何か問題になるものでも魔法袋の中に入れていたのだろうか?


「さてと……。此処か……」


 頭で思考しながら歩いていると、少し噂の立っている屋敷に辿り着いた。

 つい最近まではここに誰も住んでいなかったのだが、子供と数人の大人が住み着いたのだという。


 これは完全に別件だが、妙な話だと思って剣士を探すついでに見に来たのだ。

 土地の売買に精通している仲間を置いておいてよかった。

 だが何故自分が行かなければならないのか、という事に関しては不満を持っている。

 こんな調査、ランクが上である自分でなくてもいいだろうと愚痴をこぼしたい気持ちでいっぱいだ。


 溜息をしてから、その屋敷をまずは遠巻きに見てみる。

 随分と手入れがされたようで、あの時の幽霊屋敷とは全く別の物のように感じた。

 よくもまぁ子供と数人の大人で掃除したものだと感心した後、今度は近づいて様子を伺う。


 するとどうだろう。

 庭で子供たちが剣を振っていた。

 何処の貴族がこんな奇特なことをしているのかは分からないが、身なりも良いのでそれなりに良い生活ができている様だ。


「しかし、子供を幽霊屋敷に住まわせるとは……」


 面倒な仕事だったが、おかげで面白い物が見れた。

 何処の誰が子供たちや使用人をこの屋敷に招き入れたのか調べてみるとしよう。


 そう思い、踵を返そうとした時……窓に誰かが居るという事に気が付いた。

 見てみると、屋敷にあった服を着ているのか、随分と小奇麗な姿をしている女性がいる。

 だがその体つきは何処かで見覚えがあった。


「……あはっ。ここにいたのか」


 ターゲットをようやく発見した。

 あいつが居るという事は、こいつらは元孤児院の子供たちという事だ。

 そして、子供たちがいてあいつが居るという事は……奴もここにいるはず。


 悟られない様に帰る。

 通りすがりの一般男性だという風に装ってその場から立ち去った。


 今晩は……少し忙しくなりそうだ。

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