4.17.白装束の骸骨


 見知らぬ天井。

 一体ここは何処だと思ったが、すぐに思い出してがばっと起き上がる。

 そしてまた視界に白い物が写った。


 ばっとそちらの方向を見てみると、それは普通のシートだ。

 よかった。

 そう思いながら一息ついて、また顔を上げると奴がいた。


「イヤアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

『わわっ!』


 このままでは心臓が持たない。

 そう思ったレミはすぐに飛び上がってベッドから脱出する。

 幸いにも武器は隣にあった為、すぐに構えて思いっきり突き出した。


 スカッ。


「あっ」

『……』


 相手は亡霊だ。

 こんな攻撃が効くわけもないという事に今更ながら気が付いた。

 亡霊はすり抜けた刃を見ながら、カタカタと笑い始める。


『あっはっはっは!』

「ヒッ」

『見えてるのね! 貴方やっぱり私の事見えてるのねー!!』

「ふえ?」


 白いローブを纏った骸は、その辺を嬉しそうに飛び回り始める。

 表情が一切ないのでそれが恐ろしいが、それでも口調は普通だ。

 それが唯一レミに安心感を与えてくれた。


 だがなんだこいつは、というのが本音である。

 いきなり現れて驚かされたと思ったら、また驚かされた。

 そしてこの亡霊とは思えないほどの明るい性格。

 一体この骸骨は何者なのだろうか……。


「起きたか」

「師匠……これ……」

「ああ。この屋敷に住んでいた主らしい」

「はぁ!?」


 木幕はいつの間にか亡霊と会話をしていたらしい。

 よくもまぁそんなことが出来る物だと思ったが、そもそも彼のいた場所ではこことは常識が違う。

 こういう事も普通にあることなのかもしれないと、勝手に飲み込んで納得した。


 だが骸骨の姿で飛び回るこの亡霊は、まさしくレイス。

 明らかに人間に害を与えそうな姿をしているのだが……意識もしっかりあるし意思疎通も取れている。

 何があったら人間の時の記憶を残してこの屋敷に留まることができるのだろうか。


 しかしそんなことを考えても分かるはずもなく、呆けた表情で木幕とその骸骨を見ていた。


「え……っと……」

「ああ、それと此処の噂についても全て聞けたぞ」

「いやいやいやいや! なーに亡霊と打ち解けてるんですか!?」


 ただ単に度胸があるだけなのか、それとも鈍いだけなのか。

 どっちかはっきりして欲しい。


 しかし話を聞けたのは思わぬ収穫だ。

 レミもこの屋敷の噂については気になっているので、とりあえず話を聞かせてもらうことにした。

 だがその前に骸骨が割って入ってきて、カタカタと笑いながら自己紹介をしてくれた。


『あははっ! 私はメランジェ・スティア! この姿になってようやく人と会話できたわ! 長かった~!』

「ええ……と、レミです……」

『レミちゃんっていうのね! 何でも聞いて聞いて! お話しできるなんて数十年ぶり! 本当に嬉しいわ!』


 なんでも聞いてとは言うが、骸骨の顔を向けられて普通に話せる人間などいるのだろうか?

 少なくともレミにはそこまでの度胸は無い。

 身を縮めて怯えていると、唐突に木幕が壁に掛けてあった妙な仮面を、彼女に手渡した。


「弟子が怖がっておる。これを付けては貰えぬか」

『え? ああ! そう言えば私骸骨だったわね! ごめんなさいね。鏡も曇っちゃって自分の姿みたくないしで忘れてたわ~』


 そう言い、メランジェはそれを受け取って顔に付ける。

 どうして物体のある物を持てるかは分からないが、もうその辺は突っ込まない方がよさそうだ。


 だが顔が隠されたおかげで会話がしやすくなった。

 とは言っても……。


「師匠、もう少しまともな物無かったんですか?」

「これ一つしかないな」

『へへ~』


 まともにはなったのだが、これは仮面というより装飾品だ。

 鹿の頭がくっついている。

 だがそれを全く重くなさそうに被っているあたり、問題はないのだろう。


 その妙な姿によって、会話がしやすくなったのは間違いないが……。

 本当にもう少しまともな物は無かったのだろうか。


『で、何が聞きたいの~?』

「あっ、えーっと……この屋敷の噂について……」

『一回説明したけど、いいわ。教えてあげる!』


 逆にそっちの方がありがたい。

 恐らく木幕は話の半分も理解できていないだろう。

 彼から聞く方がよっぽと困難を極めることになるので、メランジェから聞いたほうが理解できるのだ。


 まず聞きたいのはこの屋敷の噂。

 不自然な死が続いて屋敷に住んでいた人が全員死んでしまったという事。

 実際にその現場に立ち会っていたのであれば分かるはずなのだが、彼女の口から出た言葉は耳を疑う物だった。


『不自然な死って言われているけど、あれ実は怪異事件でもなんでもなくて、普通に毒殺されただけよ?』

「……えぇ?」

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