4.16.幽霊屋敷


 幽霊屋敷という事でその周辺に住むのも嫌悪されているのか、この辺りには住んでいる人が極端に少ない様だ。

 だが寂れているという事は無く、定期的に誰かが手入れをしに来ているという事が分かる。

 しかしそれは周囲の家だけ。

 この屋敷は全く手入れがされていないようで、庭は草が生え放題、ツタが屋敷にへばりついて屋根には少しだけ草が生えている始末。


 これを購入したとして、手入れをするのはとても大変そうだ。

 だがやはり立地としては良い。

 諦めてしまう程には惜しい程に、レミの考えていた条件に合致している。


 今は日も高い。

 それ故に恐怖感もあまりないが、それは外だけの話。

 中に入ればその限りではないだろう。


「……」

「え、中はいるんですか!? やめましょーよー! 怖いですって! ほんとに! ねー師匠ー!?」


 その呼びかけを完全に無視し、木幕は道であった場所をすたすたと歩いていく。

 こんな所に一人で残されても敵わないので、レミも渋々同行した。


 庭を過ぎて大きな扉の前に立ってみる。

 まだまだしっかりとしている様で、建付けが少しだけ悪い程度で使えないことは無い。

 それを確認した木幕は扉を思いっきり押して開けた。


 ギギギギーという嫌な音を立てながら、扉はすんなりと開いてしまった。

 このまま入れば不法侵入になってしまうが、そもそも誰も見ていないし見捨てられた家なのだ。

 誰かに見られたとしても、咎められる可能性は限りなく低いだろう。


 扉は一度開くと、今度はすんなりと動くようになった。

 どうやら軸に草が絡まっていた様で、今開けた拍子にそれを全て千切ってしまったらしい。

 随分と放置されていたという事が、そこだけで把握できる。


 しかし中も散々な有様だ。

 扉から風が入ると埃が舞立ち、思わずせき込んでしまう。

 足を踏み入れれば足跡が付くほどに、埃が溜まっていた様だ。


「ふむ……」


 だがそれをに気にして見れば、なんともいい家だ。

 興味本位で近づく者もいなかったのか、手すりや壁には傷は殆どない。

 家具も一度綺麗にすれば今からでも使えそうなほどには整っている。


 最後にいた住人か、それとも使用人かが手入れをしたのだろう。

 部屋の中にある全ての家具にシーツが被せられていた。

 掃除さえしてしまえば、暮らす分には問題ない程の家具がここには眠っている。


 そこで木幕は一度手を合わせ、軽く頭を下げた。

 ここにあるのは言ってしまえば遺品。

 実際に許可を取ることはできないが、以前住んでいた者に使わせていただきますと念を込めて暫くその体勢を取っていた。


 レミもそれに続いて同じ様な仕草を取る。

 これが木幕のいたところでの追悼の仕方なのだろうと思い、見様見真似で同じことをしておいた。

 何かが変わるようなことは無いかもしれないが、しないよりしておいた方が良いだろう。


 長いなぁと思いながら、すっと頭を上げるレミ。


『ううぅ……ううぅ……』

「……は? ……へは……っ!?」


 真隣から泣いている声がした。

 先ほどまでは普通に静かな場所だったはずだ。

 それに加えて、その声は普通の声とは違って若干響いていた。

 普通の人間では出せないであろうそんな声を聞いたレミは、背筋に悪寒が走り叫び声も出せずにただ息をする事だけしかできない。


 油の差していない錆びた機械の様にぎこちない動きでその正体を見てしまう。

 見てはならないとは思っていても、どうしても気になってしまう物だ。

 それは自分の意思ではない。


 するとそこには、白いフードを被り、足元にかけてボロボロになっていくローブを身に纏った骸骨が、両の手を合わせながら木幕と同じ格好で死者に追討を捧げていた。

 目が離せない。

 見続けてはいけないとは理解しているが、どうしても目を背けることができなかった。


 そして、その骸骨はレミに気が付いてしまう。

 カクッと一瞬でこちらを向き、漆黒の窪んだ双眸がレミと目を合わせてしまった。

 それが、限界だった。


「キャアアアアアアアアアアアア!!!!」

『イヤアアアアアアアアアアアア!!!!』

「なんだっ!?」


 骸骨が叫び声を上げる様は、今まで話を聞いて来た怖い話よりも恐ろしい物だった。

 レミの意識は、そこで途切れてしまうのだった。

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