4.15.決め事
スラム街を出て、木幕とレミは売っている家を探しに来ていた。
流石に家を建て直すだけの資金は無いと思うので、今は誰も住んでいない家を選びたい。
できるだけ安く買うことができれば、他の事に資金を回すことができる。
木幕もそれを承知していた。
元々あぶく銭だと思っていた物だったので、こういう使い方ができるのであればそれでよかったのだ。
金はまた稼げばいい。
あのレッドウルフなるものを狩れば、また資金は溜まるだろう。
そう思っていたのだが、あれはまぐれで見つけた物。
普通はそう簡単に人前に出てくることは無いのだという。
何か別の金策を整えておかなければ、今後の活動にも支障が出てきそうだ。
それと、道中で様々なことを決めておいた。
まずは子供たちの身なりを整える事。
別に隠す気はないが、人々がスラム街の人だと判断しているのはその身なり。
それさえ良くすれば、少なくとも今すぐに差別を受けるという事は無くなる。
目星を付けることができたら、服の材料を買いに行く予定だ。
参考程度に、売っている服を買って行ってもいいだろう。
あと、剣術指南は木幕と沖田川で行う事になった。
これは妥当と言えば妥当なのだが、その間はレミとアイラがギルドで仕事をすることにする。
暫くの間はそれで持たせることはできるだろう。
子供たちがしっかりとした食べ物を食べて、元気を取り戻した後は冒険者登録をして仕事をしてもらうことになった。
小さな子供だけでもできる仕事は沢山ある。
一人一人が今日の食事代を稼げるようになれば、後は生活を安定させてスラム街の人々をちょっとずつ増やしていくだけだ。
後は家を買うだけ。
できるだけ広い場所が理想なのだが……。
家を探すとなると大変だ。
まずはこの土地の管理を任されている者を探さなければならない。
とは言えそれはその辺にいる人が知っている事なので、難しいことでは無かった。
だが一番大変なのは、いい立地を探すこと。
街中では目立つだろうし、出来れば少し離れた場所がいい。
そして安い所。
それを探しても回っていれば、あっとう言う間に一日が終わってしまう。
長丁場になることは覚悟していたが、まさかここまで大変だとは……。
木幕としては大工を雇えばそれでいいと思っていたので、少し驚きである。
その為今はレミが情報を収集中だ。
そこで、気になる話を聞くことができた。
「……どうです? この条件に合った所って知ってますか?」
「んー、難しいねぇ。というか、こんなに広い家なんて、それこそ幽霊屋敷くらいしかないよ?」
「幽霊屋敷?」
「ああ。バネップ様が任されている地区なんだけど、そこに持て余している屋敷があってね。人が住んでいないからボロボロだし、バネップ様も取り壊したい気持ちはあるんだろうけど、こういう噂が広まって大工が解体も渋るようになったんだ」
「す、すいません。もうちょっと詳しく聞かせてもらってもいいですか?」
幽霊屋敷。
話を詳しく聞いてみると、その立地は今レミが考えている物に合致していた。
広い家があり、訓練をする庭があり、ある程度街から離れている。
条件としては完璧なのだが、やはりその屋敷が幽霊屋敷と言われている理由が気になるところだ。
そこは当初、妙な噂もなく普通に人が暮らしていたらしいのだが、ある日突然住んでいた人が不自然な死を繰り返していったらしい。
家主、その家族、メイド、執事、庭師その全てが一人一人死んでいったのだとか。
更にはその魂がうろついており、夜な夜な声が聞こえるんだと、その人物は怖がらせるようにして話してくれた。
それを聞いてレミは震える。
こう言った事は本当にあるから笑えない。
いい場所だとは思ったが、流石にこんな噂のある場所に子供たちを連れていくわけにはいかないと、話をそこそこに切り上げようとしたが……。
「場所は向こうだな?」
「ちょっと師匠!?」
「え、行くのかい? まぁ別に止めやしないけど……」
方角を確認した木幕は、すぐにその屋敷がある場所に進んでいく。
レミはそれを慌てて追いかけるが、その足取りはとても重い。
好き好んで行きたくなどないのだ。
「師匠やめときましょうよぉ!」
「何を恐れているのだ」
「だって幽霊屋敷ですよ? 怖いですって!」
「原因を突き止めれば問題あるまい」
「原因も何も幽霊ですって! 斬れないですよそんなのー!」
「だから原因を突き止めると言っておるだろう」
「ええ?」
魂が居るという事は、成仏することができなかった者たちが未だにその屋敷に留まっているというだけの事。
という事は未練があるはずだ。
念仏でも唱えてあげれば、成仏させることもできるかもしれない。
木幕は幽霊の存在を信じていないわけではない。
なので出来る限りのことはしてやるつもりだ。
それでその屋敷が手に入るのであれば、儲けものである。
日ノ本式の追悼方法を知らないレミは、やっぱり首を突っ込むんじゃなかったと、トボトボその屋敷に向かって歩いていくことになったのだった。
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