4.6.子供
翌日の朝を迎えた。
ベッドで睡眠が取れたので、旅の疲れも殆ど吹き飛んだ。
朝支度をして、一階に降りる。
寒いといつもより多く眠ってしまう。
別に何の支障もない事だが、習慣というのはなかなか抜けない物で、木幕はいつもより少し起きるのが遅くなってしまったことに頭を掻いた。
昨日購入したマントを羽織り直しながら、外の空気を吸う。
冷たい空気が肺に入ってきた。
雪国が近いというだけで、この辺はまだまだ雪は降らない様だ。
そんな話を昨日宿の店主とした。
この辺の気候は読めないなと思いながら、朝食をとる為に宿の中に戻る。
すると、宿の入り口のすぐ隣に妙な物が布にかぶさっているのが見て取れた。
昨日はこんなもの無かったはずだ。
気になって指先で突いてみると、コテンと倒れてしまう。
別に危険な物ではなさそうだ。
そう思って木幕は、すぐにその布をはぐった。
すると……そこには縮こまって寝ている子供がいた。
「!?」
すぐに体温を地肌で確認し、まだ息があるかどうかを確かめた。
幸い普通に寝ているだけだが、夜になればこの辺りも冷たくなってしまう。
だというのにこんな布一枚で一夜を過ごしたとなれば、体調を崩してしまうはずだ。
故に、体は冷え切っていた。
すぐに子供を抱えて宿の中に連れ込み、木幕の借りている宿に入って温めさせる。
その後、店主に声をかけて事情を説明し、温かい食べ物と飲み物を作ってもらった。
暫く子供の対応をしていると、レミが起きてきて慌てている木幕と店主を見て状況を把握する。
「どうしたんですか!?」
「子供が外で寝ていてな。随分と冷えていたから一度宿に連れ込んだのだ」
「子供ですか……」
「お客さん。子供を暖炉の近くに持ってきてくれますか?」
「うむ」
宿屋の店主は昨日の男とは違い、快く子供の介抱をしてくれるようだ。
暖炉の近くに椅子と毛布を用意してくれた。
子供は静かに眠っているが、やはりまだ体が冷たい。
木幕は子供を抱えて暖炉の近くに腰を下ろし、毛布をかぶって温めてやる。
随分と小汚い格好をしているあたり、スラムの子供なのだろう。
もしかしたらあの屋台での事を見ていたのかもしれない。
それでこの人なら何かしてくれるのではないかと、着いてきたのだろう。
できればもっと早くに顔を出してもらいたかった。
そうすればすぐにでも面倒を見てやれたのだが……。
そんな木幕を、レミと店主は後ろから見る。
「……あのお客人、変わってますね」
「やっぱり普通、スラムの子供を助ける様なことはしませんか?」
「普通はそうですね……。助けたとしてもそれからの事を考えれば、見捨てる方が得策です。奴隷にするくらいしかできませんし、それでも力は弱いですから、暫くはただの穀潰しとして蔑まれることがほとんどですよ」
「……貧困層への偏見が凄いですね」
「うちは違う国から来たので、この国の人よりかはマシだと思いますがね……。他の宿だったらすぐに放り投げられてますよ」
「お気遣い感謝します」
「いえいえ」
宿屋の店主はそう言って、暖かい食べ物を取りに厨房へと戻った。
この子の事を考えると、この宿に泊めることになるかもしれない。
そうでなくても宿を貸してくれたお礼として、少し宿賃を多く渡しておこう。
食事代くらいは出しておかなければ。
今は余裕があるので、それくらいは問題ない。
それを確認した後、すぐに木幕の隣に座る。
「どうです?」
「うむ。もう大丈夫だろう。寝息も深くなってきた」
「でもこの子、何処から来たんでしょうか。スラムの子供っぽいですけど」
「あの屋台でのことを見ておったのかもしれぬな」
「それでついて来たと……。なるほど」
あり得ない話ではない。
レミはそう思ったが、さてこれからどうしようかと考える。
暫く金には困らないと思うので、今は人探しを重視するべきだ。
だがここでこの子供が現れた。
この子の面倒も木幕が見るというのであれば、見るしかなくなる。
見捨てるなどという言葉を吐けば、すぐにでも彼からの鉄槌が下るだろう。
流石にあの屋台の店主の二の舞にはなりたくない。
まぁ、子供が一人増える程度であれば何の問題もないだろう。
それに……。
「可愛いですね」
「良い顔立ちの男の子であるな」
「綺麗にしてあげればもっとましになるでしょうね」
「むぅ。これであればレイラに子供用の服も見繕ってもらえばよかったな」
「あ。もうこの子の面倒を見る気満々なんですね」
予想は意外と的中する物だった。
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