4.5.屋台


 予想外の収入により、今は何でも買える。

 まずは服だ。

 武具屋で依頼した服が完成するまでは、何か変わりの物が無いと厳しい。


 なので先ほどとは違う店に行き、今度こそ温かい服を購入した。

 大きめのマントだ。

 何かの小さな牙で前が止めれるようになっているので、ずり落ちたりという事はしない。

 黒色のマントで、中には何かの毛皮がびっしりと付けられている。


 少し首元がくすぐったいが、まぁ無いよりはましだ。

 それにすぐに戦闘の構えを取ることができる。

 今からレイラの所にこれを持っていったら、このように作ってくれるだろうか?


「さて、これからどうするか……」

「人探しついでに、また依頼をこなさないとですね」

「いつも当てが無いからな」


 そう、今回も当てはない。

 ここに侍が居ればいいのだが……。

 いつもこんな調子では、本当に見つからない時が来てしまうかもしれない。

 もう少し対策を練り、情報網の確立を急いだほうがよさそうだ。


 しかしそんな情報網などない。

 この世界にで作るわけにもいかないし、自力でやっていくしかないだろう。


「……あ、なんかいい匂いしてきません?」

「そう言えば飯をまだ食べていなかったな。出店か?」

「見たいですね! 寄っていきません?」

「うむ。いいだろう」


 腹が減っては何とやら。

 ここまでの長旅で、知らぬ間につかれているのだ。

 温かい飯を食って英気を養おう。


 そう考えた二人は、匂いのする方へと足を運んでいった。

 そこは随分と賑やかな場所であり、幾つもの屋台が所狭しと並んでいる。


 食べ物以外にも、アクセサリーや骨董品、更には武器や素材、薬品など様々な物が並べられていた。

 大きな通りにここまでに人が出店を開いているのは、レミも木幕も初めて見る。

 何か良い物があれば、買ってもいいかもしれない。


「とりあえず……食べ物はあそこに固まっているみたいです」


 レミがそう言うので、まずは軽食を取る。

 この世界に来てみた事のある物から、見たことのない不気味なものまでさまざまな食べ物が並んでいた。

 しかし、残念ながら甘味は無いようだ。


 初めに手に取ったのは焼き鳥だ。

 鳥というには少し肉がデカすぎる気はするが、安いし腹になるしで一石二鳥だ。

 たまにはこうして食事を取るのも悪くない。

 食べ歩きをしながら他の屋台も見てみる。


 すると、小さな子供の集団がポテポテと歩いるのを見つけることができた。

 服はぼろく、とても寒そうに見えるが、各々が手に持っている物で屋台の食べ物を購入しようとている。

 何を食べようか迷っている様だ。


「沢山食べたい……」

「じゃあ大きいのにしよう! あの焼き鳥とか大きいよ」

「お爺ちゃんやシスターにも持って帰らなきゃ。お爺ちゃんあの大きなお肉食べれるかな?」

「多分大丈夫だよ! すみませーん!」


 木幕とレミの居た方に、子供たちが走ってくる。

 邪魔しては悪いので、少し距離を取ってその様子を眺めていた。

 その間に持っていた肉を全て平らげる。

 レミはその大きな肉に苦戦している様だ。


 すると、罵声が聞こえた。


「あっち行けガキども!」

「えうっ! お、お金ならあります!」

「関係ねぇよスラムのガキが。お前らに食わせるようなものは用意してねぇ! 分かったらあっち行きやがれ!」

「そんな……」


 その声はレミにも聞こえた。

 だが、その後すぐに背筋にゾクリとした悪寒が走る。

 恐る恐るその原因を見てみると、持っていた串を片手で折り、ズカズカと屋台に向かっている木幕の姿が見えた。

 もう手遅れだ。


「おい」

「っ!?」


 腹の底に響くような重圧を乗せた声が、焼き鳥屋の店主に放たれる。

 その声にびくりと体を震わせ、驚愕の表情をして木幕を見た。

 どんな感情を抱いているか分からないが、今はそんなことどうでもいい。

 折れた串を彼に向け、そのままの口調で問う。


「今のは何だ」

「な、なな、なにとは……」

「客をぞんざいに扱っているのが見えた。聞こえた。ましてや子供だ。お主の店は客を選ぶのか」

「い、いや、だってスラムのガキですよ? そんな奴らに──」


 パキッ。

 木幕は更に圧を乗せ、親指の力だけで串をもう一度折った。


「客に身分など関係ないであろうが!!」

「ヒュッ……」


 その怒号に周囲の者たちも静かになって、一つの屋台を見る。

 隣にいた屋台の店主も、血の気を引かせて後ずさった。

 しかし、木幕は周囲の様子など全く気にしない。

 そのままの勢いで、彼に圧をかけ続ける。


「どうした。今ここに小さな客が来ている。お主のすることは決まっているだろう」

「っ! は、はい! はいっ!!」


 彼はすぐに肉を準備して、子供たちに恐る恐る手渡した。

 子供は律儀な物で、しっかりとお金を渡して頭を下げる。

 だがここで食べるという事はせず、受け取るとすぐに走り去ってしまった。


 それを見届けた木幕も、すぐに去る。

 もうここには来たくないと心の底から思いながら、レミと一緒にその場を離れた。


「やり過ぎですよ……」

「某は何か間違ったことをしたか?」

「いえ、むしろスカッとしました。でもどうするんですかあれ。放心してますよ?」

「知らぬ。己のやった行いを悔い改めさせておけ」

「あの状態で出来るのかな……」


 とりあえず二人は宿に戻る。

 長旅の疲れはまだ癒せていないのだ。


 しかし、その後ろから小さな子供が一人付けてきている事には、気が付くことができなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る