4.7.スゥ


 暫く暖炉の前で温まっていると、子供が目を覚ました。

 今の自分の状況が理解できず、男性の腕の中でキョロキョロと周囲を見渡す。


 男は寝ており、起きる様子はない。

 だが体を温めてくれていた様で、毛布が一緒に掛けられている。

 とりあえず気恥ずかしいので抜け出したいのだが、どうしたら起こさずに出れるだろうと思案する。


 まずは男性の体を椅子の背もたれの様に倒し、ゆーっくりと腕をどけて毛布を被せなおす。

 その後にぴょいっと膝から飛び降りて、暖炉に近づいた。

 毛布から抜け出したので、少し寒かったのだ。

 だがすでに体は温まっていたようなので、少し熱いくらいだった。


 だがこれはどうしたらいいのだろうか。

 どうしてここに運ばれたのかを覚えていない。

 周囲を見渡してみるが、やはりここは知らない部屋。

 だが小奇麗な所を見ると、少なくともスラム街にある建物ではないという事が分かる。


「……」


 最後に覚えているのは、眠気に耐えられず壁に寄りかかって寝た時である。

 布があったのでそれで暖を取っていたのだが、それは何処に行ったのだろうか。

 この国では布か何か、風を凌ぐ物がなければ寝ることは難しい。

 大切な物なので探したいが……。


 ぐうううう……。

 お腹が空いた。

 そう言えばここ最近碌な物を食べていない……。

 孤児院を出て食べ物を探しに行って迷子になったので、帰り道は覚えていないので帰る事は出来ないだろう。

 知っている子が近くにいればいいとは思うが……こんな綺麗な場所にいるわけがない。


 どうしよう、そう考えて動けなかった子供だったが、ガチャっという扉が開く音に気が付いて飛び跳ねる。

 すぐに男の影に隠れて、入ってきた人物の様子を伺った。


「師匠~。……ってあら!? 子供は!?」


 どうやら女性の様だ。

 辛うじてまだ見つかっていない様だが、それも時間の問題だろう。

 だがここからどう動けばいいのか全く分からない。

 固まっていると、ついに見つかってしまった。


「良かった……目を覚ましたのね」

「……」


 無事を確認した後、彼女は今度は男性を揺さぶって起こす。

 のそりと目を覚ましたのだが、何かに気が付いて探し物をし始めた。

 だが目が合うとその動作は止まり、ほっとした様子を見せる。


 誰だろう?

 どうして自分を探しているのだろうかと不思議に思う。


「レミよ。店主を」

「はい」


 女性はすぐに部屋から出て行く。

 それを確認した男性は、優しい口調で声をかけてくれた。


「具合はどうだ?」

「……」


 その問いに小さく頷く。

 受け答えもはっきりしている所を見てか、男性も頷いた。


「帰るところはあるか?」

「……」


 それにも取り合ず頷いておく。

 だが帰り道が分からないので、次に首を振った。

 それだけでは分からないと、男性は困った顔をする。

 何か説明が悪かっただろうか?


「……話せないのか?」

「……ぁ……ぅ」

「ふむ。声が出ぬのか。だが呪い子とは違う様だな」

「……」


 知らない単語が出てきて、今度はこちらが首を傾げることになってしまった。

 男性はまぁいい、と呟いて、自分の名前を教えてくれた。


「某は木幕だ。お主は何という?」

「ぅ……っう」

「ん?」

「ツ……ぅ」

「つぅ?」

「すー……うー……」

「すぅ?」


 それにコクコクと頷いて答える。


 スゥ、これが子供の名前。

 親の顔は知らない。

 気が付いた頃には、孤児院にいた。


 そんなスゥの頭を、木幕は優しく撫でる。


「スゥか。帰るところがあるというのであれば、まずはそれを探してみよう」

「師匠ー! ご飯の準備できましたっ!」

「うむ。では行こうか。スゥよ」


 何処に行くのだろうか?

 だが今は彼らの言う事に従っておいた方がよさそうだ。


 木幕について行くと、暖かい食べ物がそこに並べられていた。

 こんなに豪華な物は初めてだ。

 すると、木幕はスゥを持ち上げて椅子に座らせる。


「まずは食べよ。話はそれからだ」

「私もたーべよっと」

「……! ……!?」


 食べていいのだろうか。

 こんなに豪華な物を。

 そうは思ったが、気が付けば手にフォークを持ってがっついていたのだった。

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