3.11.Side-レミ-共同作業
下水道で転移者と出会い、何故かわからないがネズミの片づけを一緒にする運びとなってしまった。
一体何故こうなってしまったのだろうか。
そう考えるレミだったが、助かっていることは確かなのであまり気にしないことにした。
しかし、何故水瀬清はこの国の地下水路にいるのだろうか。
馬車で待機している時に、木幕が同郷の人物と出会ったと言っていた。
もしかすると、この人がそうなのかもしれない。
そう思い、作業をしながら話をしてみることにした。
「み、水瀬……さんは何故こんなところに?」
「この国の入り口までは行ったんですけど……。私通行証など持っていません。なのでこうして地下を通って入って来たのです。いや~。この国の地下は入りやすいですね。足場がしっかりしています」
やはり転移者はこの世界に無知過ぎる。
通行証がなくても、通行料を支払えば入国できるという事を知らない様だ……。
だがそれにしても地下を通ってくるというのは少しやりすぎな気がする。
とは言え、城壁を越えてくるよりはましなのだろうか……。
足場がしっかりしているとは言っていたが、そんなに歩きやすい空間ではない。
一体この女性は何処でそう言った経験を積んできたのだろうか。
考えれば考える程、謎が深まってきてしまう。
しかし水瀬曰く、入ってきたのは良いが恐ろしい程のネズミに襲われて大変だったらしい。
ネズミは此処から下水の放出口まで出て来たそうで、それを一匹残らず始末してきたのだとか。
ここからそこまでの道のりは、随分とかかる。
それを全て片付けなければならないと思うと、レミは気が遠くなりそうだった。
とは言え、これだけの量のネズミを全て殺しているのだ。
的は小さいし、数も多い。
それを全て斬り捌いてここまで来るのには、相当な集中力と体力を有するはずだ。
だが水瀬と出会った時、彼女は息を荒げた様子もなければ、返り血も浴びている様子は無かった。
それだけで彼女の実力が推し量れる。
レミは作業を続けながら、聞かなければならない事を聞くことにした。
「えっと……同郷の人に……会いました?」
「あら、貴方は知っているのですか。そうですよ、木幕さんという人にお会いしました」
予想は的中してしまった。
やはりあの時木幕が出会ったという人物は、この水瀬清だったらしい。
交戦はしなかったというが……。
次に会った時は気が変わっているかもしれない。
今現在、レミはまだ答えを出していないので、二人を突き合わせるのはやめておいた方が良いなと心の中で考える。
自分の力では二人は止められないのだ。
突き合わせないようにするのが一番いいはず。
袋に詰めたネズミの袋を、水瀬がレミに手渡す。
それをレミは地上まで持っていく。
作業としてはこれの繰り返しだ。
「んんーーーーっ!」
これが結構な力仕事。
地上まで数匹のネズミが入った袋を持って上がるのはとんでもなく大変だ。
それに、このネズミは大きい。
人の足程の大きさから、大きめの籠程の大きさまでと様々である。
重量もそれなりにあるのだ。
だが、水瀬はそれを軽々と持ち上げてレミに手渡す。
見た目こそ華奢なのではあるが、筋肉量は見た目よりあるように思えた。
「ど、どうして水瀬さんそんな簡単に持ち上げれるんですか……」
「ん? 体の使い方ですよ。腕で持ち上げるのではなく、肩で持ち上げるのです」
「…………??」
首を傾げているレミを見て、水瀬は実践しながら教えてくれた。
まず、袋に数匹のネズミを詰めて縛る。
縛った所を腕に一度巻き付け、背筋をまっすぐ伸ばして肩を少し上げた。
「分かります?」
「え? ぜんっぜん分からないです」
「えーっとですねぇ」
水瀬は右手で持っている袋を一度降ろす。
その時、首を右に向けた。
それに合わせて肩も右に落ち、左の肩が上がる。
「袋を握るのではなく、手に巻き付けてください。引っ掛かるように。親指と人差し指の間でダマを引っ掛ける感じです。で、肩ですが……」
一通り説明した後、左肩を下げて右肩を上げる。
そうすると必然的に腕が上がり、袋が持ち上がった。
「大雑把に説明するとこんな感じです。腰を使うので重すぎる物は持たないようにしてくださいね。もし、重たい物を持つときは、膝を曲げて腰を落としてから足で持ち上げるようにして見てください」
恐らくとても丁寧な説明だったのだろう。
だが、レミには全く理解することが出来なかった。
それに水瀬は気分を悪くすることもなく、ただクスクスと笑って楽し気にしていた。
「ふふふふ。力を入れるのは手の平だけ。後は脱力してみてください」
この説明はとてもよく分かった。
持っている袋をぶら下げるように持つ。
すると、肩にずしんと荷重がかかったが、先程よりも楽になった気がする。
筋肉疲労から何かを持っているというだけで少し辛いのだが、これであればまだ続けられた。
「お、おおっ!」
「畑仕事だけでは使わないところもありますからね。体をどういう風に使えばどういう動きができるか、楽ができるかを追及して行けば、戦える時間も増えますよ」
「確かに! 有難う御座います!」
「どういたしまして」
何から何まで綺麗な動作をするなと感心しながら、とりあえずこの仕事を終わらせるために、作業を再開するのだった。
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