3.10.Side-レミ-ネズミ駆除──☆
カンテラを片手に、下水に行く為の梯子をゆっくりと降りていく。
槍が少し邪魔だが、これは必要な物だ。
狭い空間で長物を振るうのはなかなか技術が必要だが、レミはそれも狙っていた。
広い所だけで戦うのが戦場ではない。
そう幾度となく木幕に言われ続けていたので、どこかで練習しなければいけないなと考えていたのだ。
そして見つけたネズミ駆除の依頼。
場所は地下の下水道だというではないか。
これはとっておきの稽古場所が見つかったと意気込んでいた。
「ふふん! ここで仕事を完遂すれば、ちょっとは身につくでしょ!」
とても安易な考えではあったが、その行動自体は間違ってはいない。
狭い空間では長物を使うのは大変だというが、まずやってもないのにそれを信じるのは良くない事だ。
扱いに慣れていない武器を狭い場所で使う方が、何倍も危険である。
自分で実演して、弱点を見つけ、それを補う戦い方を覚えるのがいい。
そう持論付けていた。
長い梯子を下り、ようやく下水道に辿り着く。
ふぅ、と一息ついて周囲を見渡してみると……。
「めっちゃ広いじゃああああん!!」
声が盛大に返ってくる。
確かにここは下水道ではあるのだが、その広さは呆れるほどの物だった。
よく地下をここまで掘り上げたなと思う。
恐らく魔法で掘り上げたのだろうが、それにしてもこの広さを掘るのに一体どれだけの人員を動員したのだろうか。
広い分には全く申し分ないのだが、これではレミの計画が総崩れだ。
狭い場所で戦う用意をしてきたというのに、結局ただ広い所で槍を振るうことになる。
唯一違う所があるとすれば、それは異臭がするという事だろうか。
田舎育ちのレミにとっては、特に何も問題ないのだが……気分は落ち込んだ。
「なによぅ。これじゃ意味ないじゃぁん……」
見る限りネズミもいない。
これではただの地下探索だ。
ここで得られるものは、小さい的に当てるくらいの物になるだろう。
とは言え、これも仕事である。
ほっぽりだすわけにはいかない。
ネズミを探すために、灯りを頼りに下水道を進んでいく。
情報によると、ここにいるネズミは光に集まる習性があるようだ。
なのになぜ地下にいるのかは不明だが、もし情報通りであればこのまま歩いていけば勝手に集まってくるはず。
今は片手がカンテラで塞がっているので、木幕に作ってもらった木刀を片手に持って進んでいくことにする。
腰にぶら下げれるようにして来ればよかったと、少し後悔。
とりあえず道なりに進んでいく。
曲がり角があるので、そこを曲がることにした。
警戒は怠らないようにして、曲がるときは顔をひょこっと出して周囲の状況を確認する。
すると、そこにはおびただしい数のネズミが死んでいた。
「!!? ええ!!?」
ばっと飛び出て、ネズミの状況を確認する。
ネズミは全てに傷がついており、四肢が損傷していたり、臓物が飛び出たりしていた。
確実に一匹一匹を仕留めている様だ。
ネズミの状態からして、これは全て切断による攻撃だという事がわかる。
一匹も突き技で倒してはいない様だ。
「うっへぇ……なにこれ……」
とは言っても、長く見続けられるものではない。
レミは確認した後、すぐに布を取り出して口に巻き付ける。
そして、片づけをし始めた。
余り良い事ではないかもしれないが、これをギルドに届ければ報酬は貰える。
そもそも片付けなかった人が悪いのだ。
と、いうか……。
「放置しないでよー! これ片付けなかったら依頼受けた私のせいになるんだからねー!?」
と、言うのが本音。
死体を放置していれば疫病が蔓延する可能性があるのだ。
それに、ここはとてもよく整備されている。
土が見えない。
死体は外に出して処理しないと、臭くなるし疫病は蔓延するかもしれないしで良いことは一つもないのだ。
それにここは王都の地下。
こんなことをしていたのがバレたら、即刻牢獄行きである。
それは死んでもごめんなので、せっせと片付けに勤しむ。
誰がこんな事をしたのか分からないが、レミは今ご立腹であった。
ただでさえ計画が総崩れになったというのに、剣を一度も振ることなく依頼を達成してしまうのだ。
それもお片付けという形で。
何の成果にもなりはしない。
「全く! 誰よこんな事したの!」
「ご迷惑だったでしょうか……」
「当り前じゃない! 私の計画が台無しだわ!」
「とりあえず……お片付けを手伝いますか?」
「そうね! ……って……え?」
振り返れば、そこには知らない女性が立っていた。
頭に雨を防ぐ為の様な大きい藁の帽子をかぶり、腰には様々な釣り具がぶら下がっている。
そして、二振りの日本刀。
更には木幕にとても良く似た服を着こなしている……。
明らかに転移者、木幕と同郷の人物だという事が一目で分かった。
「え……えあ……えっ」
「どうなさいましたか? ああ、すいません。名前を教えていませんでしたね」
そう言うと、女性は帽子を取って頭を軽く下げた。
とても綺麗なお辞儀だ。
「私は水瀬清。貴方は?」
全ての行動が美しく感じる。
何をするにしても、決まった動作、行動があるような立ち振る舞いだ。
レミはそれに少しだけ見とれてしまったが、すぐにはっとして自分の名前を教える。
「れ、レミです」
「変わった名前ですね」
いや、貴方には言われたくない。
心の中でそう叫んだレミだった。
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