2.5.リーズレナ王国


 木幕たちは巨大な城門の前までやってきた。


 その巨大な城門は、見たこともない鉄格子のような檻と、数十人がかりでかからなかければ動きそうもない、木造の門をいう、二重構造の門となっていた。


 これを自分のいた城で使えば、確実に門の耐久性が上がるだろうと考えたが、ここの城門は石材で作られている。

 木材で門の基盤を作る日の本の門では、この作りは非常に無駄なものではないだろうか。

 それに、おそらくこの鉄格子は、横に開くのではなく、上に上がる形式の門である。


 その様な門は見たことが無いし、もっとも木幕は建築に関しては素人である。

 真似しようにしろ人に教えようにしろ、まず知識がないのでそれは叶わないだろう。


「……無駄に大きすぎはしないか?」

「普通ですよ」

「……門だけでこれほどとは……。城は一体どうなっておるのだ。というか、城下はこの先なのか?」

「そうですよ」

「城下町を城壁で囲っておるのか……」


 城下町を守るためだけに、このような大きな門をこさえているとは驚きだ。

 木幕のいた城では、城の囲いに入れる者は極々少数であった。

 それであるのに、この国の城主は民を全てを囲むほどの城壁を築いている。


 これだけで城主の民を想う気持ちが理解できるし、その権力、富、力も見ることができた。

 直感ではあるが、この国の城主はさぞ立派な者なのだろうと、木幕は感じていた。


 門を通ろうとすると、門番らしき姿をしている者に止められた。

 随分と変わっている服装をしているものだ。

 全身を白い甲冑で覆っているため、非常に動き辛そうではあるが、動きを見ているに、そのようなことはなさそうだ。


 しかし、その足さばきには思わずため息が出そうになる。

 足音を隠そうとするそぶりも見せず、来ている甲冑をガッシャガッシャと動かしながらこちらに歩いてくるのだ。

 これがこの素晴らしい城主を護衛するための兵だと思うと、心底残念で仕方がない。


「通行書、もしくは身分証を」

「はい」


 ダイルたちは、妙な紙きれを門番に差し出している。

 門番はそれを見て「なんだ、商人じゃないのか」と呟いた後、それをダイルたちに返した。


 門番は次に木幕たちに向きなおる。

 しかし、木幕は身分を証明できるものなど持ってはいない。

 あるにはあるが、どうせこの世界では通用しない物だろう。


 さて、どうしたものか。

 そう考えていると、レミが門番に答えてくれた。


「あのすいません。私たち身分を証明できるものがないんです」

「なくしたのか?」

「道中リザードマンに襲われまして……その時に」

「それは災難だったな。では仕方がない、それをギルドに報告して新しい身分証明書を発行してきてくれ」

「はい」


 そのやり取りに、木幕は驚いた。

 そんな軽い嘘でこの国に入る許可が得られるとは思っていなかったからだ。


 これが敵兵であった場合はどうするのだろうか。

 戦の時などは、わざわざ兵を一人一人調べる庁舎があった。

 援軍を城に入れるときなどは、もっと慎重にしていたものだ。


 それが……このような……。


「……」

「し、師匠? どうしたんですか? そ、そんな険しい顔をして」

「……いや、いい。目的は違うのだからな。うむぅ……」


 一度ここの城主に問うてみたい。

 いや、ここでは助言をしたいと言っておこうか。


 しかし、何の身分証も持たない木幕たちが、この国に普通に入れたのは幸運だ。

 それは間違いないのだが、木幕は何処か腑に落ちない表情を拭うことはできなかった。


 門をくぐってみれば、また見たこともない景色が飛び込んでくる。

 日の本の鈍い色をベースとした街並みではなく、色とりどりの建物や、賑わっている店などがあったりで、非常に活気あふれる城下だ。


 建物には石が使われており、それには色がついている。

 土間のような色の壁もあるが、石で建物を作って部屋の中は寒くないのだろうか。


 周囲をよく観察してみれば、生活風景も、商売の仕方にも違いがあるようだ。

 金銭は銅のような鈍い色をしたものや、銀色をした貨幣を使用しているようで、どれも木幕は見たことがない。


 本当に全てを学びなおさなければならないという事に、憂鬱になってしまう。

 今の木幕では、人と会話をすることはできても、金を使って買い物をすることすらできないのだ。


 他十二人の侍は、一体どうしてこの世界を生き延びているのだろうかと、少し興味がわく。

 もし会えたら、少しでも話を聞くべきかもしれない。


 木幕たちは無事に門を潜り抜け、しばらく進み、大きな空間にでたところで、馬車から降りた。

 降りた木幕たちの上から、ダイルが声をかけてくる。


「じゃ、俺たちはこの辺で!」

「うむ、世話になった。後は某らでなんとかしよう」

「いやいや! 困った時は言ってください! では!」


 そう言って、三人を乗せた馬車は遠くへと行ってしまった。

 今思えば、親切な奴らだったと思う。


「あ」

「む? どうしたレミ」

「報酬……」

「……」


 そういえば報酬を受け取るのを忘れていた。

 だが、木幕としては、ここまで馬車で送り届けてくれたこと自体が報酬だと思っているので、別にあってもなくても問題ない。

 レミは地団太を踏んで、先ほどの三人の嫌味を言い放っている。

 気持ちはわからないでもないが、人目があるので控えてほしい。


 だが……向こうから言っておいて、何もせずにどこかへ行くというのはいただけないことである。

 確認しなかった木幕たちが悪いといってしまえばそれまでなのではあるが……木幕は商人ではない。

 そこまで食い入るように話すことでもないし、なにより実際のところ、どうでもよかった。


「レミよ。まずがぎるどとやらに行って、証明書なる物を作りに行かねばならぬのだろう?」

「は! そうでした! それに……これもありますからねー!」


 そう言ってレミは、リザードマンの素材の入った袋に頬ずりをする。

 確かリザードマンの素材は、高く売れる。

 それを売ることができれば、報酬などいらないという。


 とはいえ、約束を違える者は後々後悔することになると思うのだが……。

 木幕たちにはすでに関係のない事なので、ささっとギルドへ行くことにした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る