2.4.手掛かり

 ゴブリンの襲撃を助けた木幕達は、護衛として馬車に乗り込んで国へと進んでいた。


 この冒険者達は随分と遠い場所から来たようで、一月ほど馬車に揺られ続けていたのだとか。

 しかし、護衛と言っても人を乗っけているわけではなく、商人の代わりに国に荷物を届けているようだった。


 護衛は八人いたというが、馬車に乗っている荷物を見るにそれだけの人数はとても馬車に乗れなさそうだ。

 乗れて五人程度だろう。


「だから数人は外で歩きながら警戒をしていたんです」

「ふーむ。逃げるにも逃げれなかったと言う訳か」


 馬車であればあの程度の魔物、すぐに引き離すことが出来る。

 だがそうすれば外にいた三人は襲撃を受けて確実に命を落としてしまうはずだ。

 見捨てるわけにもいかない。

 なのでそれを助けるために、全員で外に出て戦ったのだろう。


 ……実力不足ではあったようだが。


 因みに……今生き残っている冒険者三人の名前は……。

 Cランク冒険者の隊長ダイル。

 Dランク冒険者のキース。

 同じくDランク冒険者のハットがこの馬車に乗っている。


「……気になっていたのだが、そのでーとかしーとか言うのはなんなのだ」

「? ランクの事ですか?」

「恐らくそれだ」


 初めて聞く単語に意識を向けすぎて、話の内容が入ってこない。

 レミに教えて貰ったような気がしないでもないが……。


「ランクは冒険者の位置づけみたいな物です。ランクが低ければ低いランクの依頼しか受けれません。逆に高ければ、高いランクの難しい依頼を受けれます」

「意味はあるのか?」

「ランクは強さを表します。弱い冒険者が、無謀にも高ランクの依頼を受けて死なないように、ギルドが色々と管理しているんですよ」


 ランクはFから始まってAがあり、それよりは強い冒険者をSとするそうだ。

 因みにゴブリンの危険度はEランクの魔物らしい。

 だが集団になれば危険度が跳ね上がり、危険度がDになることがあるようだ。


 先程死んだ者達は、揃ってEランクだったようで、その全員が今日初めて外に出ての依頼を請け負ったらしい。

 運が悪かったと言うことろだろう。


 ゴブリンでもあったとおり、魔物には危険度に階級がある。

 その危険度に応じた冒険者が、その魔物を討伐したり、間引いたりするそうだ。

 そうすることにより、致死率はグッと下がったようで、今ではこれが普通とされている。


「ダイルさん! リザードマン危険度はいくつなんですか?」


 レミが勢いよく出てきて、木幕と話していたダイルに聞いてくる。

 レミは冒険者についてはあまり詳しくないようで、魔物のランクは分からないのだという。


 ダイルは思い出す様に空を見て、暫くしてからレミの質問に答える。


「……確かBランクの魔物だったと思います」

「わぁ! 師匠凄い!」

「あれでびーなのか。弱いなぁ……」

「え? え?」


 ダイルは木幕達がさもリザードマンを倒しましたよ、という会話を聞いて少し混乱しているようだ。

 とはいえ、それは事実であり、レミが剥ぎ取った素材を見せて信じて貰った。


「嘘だろ……?」

「ほんとです!」


 何故かレミが得意げに答える。

 どうだ、うちの師匠は凄いだろうとでも言いたげだ。


 木幕は「お主が威張るな」と軽く頭を小突く。


「あうっ」

「そ、そんなに強い方だったのか……。だったら俺たちも安心して馬を動かせます」

「期待するでないぞ」

「またまたご謙遜を」


 あれは全て葉隠丸の能力だけで勝ち取った勝利。

 自分の力ではない。

 それに……レミから魔剣の話も聞いているので、出来るだけ葉隠丸の能力は表に出したくないと言うのが本音だ。


 これから人を殺しに行こうと言うのに、顔が割れてしまうのは控えておきたい。


「一つ聞きたい」

「なんでしょうか」

「これから向かう街に……変わった人物は居らぬか?」


 この世界で、木幕は自分のことを変わった者だと理解していた。

 となれば、他に転移させられてきた者達も、変わった者だといわれているに違いない。


 そう確信していた木幕ではあったが、ダイルからは予想とは違う答えが出てきた。


「でしたら勇者様ですね!」

「勇者?」


 また聞き慣れない単語だ。

 だが崩してみれば勇敢な者、そう捉えることが出来る。

 あっているかどうかはわからないが……。


「ええぇ!? 勇者って存在してたんですかぁ!?」


 レミが急に出てきて、勇者の話に食らいつく。

 そんなに珍しい物なのだろうか。


 大きく反応したレミに、ダイルも驚いていたが、すぐに気を取り直して意気揚々と勇者の話をしてくれた。


「そう! いたのです! とてもお強く、正義感もある素晴らしいお方です! 腰に携えた剣は炎を巻き起こし、その剣でばっさばっさと迫りくる敵を一網打尽にしたと、もう国中で大騒ぎになってましたね!」

「ほぉ。よほど良い剣の使い手と見える。是非とも手合わせをしたいものだ」

「勇者様は寛容なお方です! なので、どんな頼みも聞いてくれますよきっと!」


 木幕はそれを鼻で笑い飛ばす。

 どんな頼みでも聞いてくれる者などいない。

 ましてやそれが仏でも、全てを叶えてくれることはできないのだ。


 でなければ……あいつは死んでいなかった。


「師匠?」

「む、ああすまん。なんでもない。して、何が変なのだ? その勇者とやらは」


 話を戻す。

 確かにその勇者という者は優秀な剣士なのだろう。

 だが、それだけで変な奴呼ばわりはされないはずだ。

 何か特別な理由があるはず。


 ダイルは「それがですね~」と、少しもったいぶったようにしてから、答えてくれた。


「自分の呼び方……勇者じゃなくて、大将って呼ばせるんですよ」


 だんだんとダイルとの会話に飽きていた木幕だったが、その言葉に、ハッとさせられた。


「たいしょー?」

「大将。あれだけ強く、なんにでも寛容なあの勇者様なのですが、何故か呼び方だけは徹底させていましてね。勇者は嫌だ、英雄も嫌だ。大将なら許すと」

「ほ、本当に変ですね……」

「だろ? 結構変わってるお人だろう?」


 変わっているも何もない。

 何も変わっていないではないか。


 木幕は目標が見つかったと、口元を綻ばせる。

 もちろん誰にも見られないように。


 大将、という言葉は、木幕のいた日の本では様々な意味を持つ。

 屋台の大将、総大将、侍大将……。

 木幕の思いつく限り、殆どは戦における呼び方ではあるが、大将という言葉は、指揮官のことを指す言葉である。


 その人物は、勇者、英雄といった、この世界ならではの言葉に違和感を持っていたのだろう。

 そこで、自分が一番馴染みのある、強い者として呼ばれる呼び方を周囲に徹底させた。


 木幕は確信する。

 その勇者と呼ばれる人物こそが、侍であると。


「レミよ。見つかったぞ」

「? 何がですか?」

「勇者こそが、某の探している者だ」

「へ? ……ええええええええええええ!!!!」


 馬車の中に一つの大声が響き渡る。

 その声は、魔物をおびき寄せるには十分な声量ではあったが、その時だけは何故か襲ってこなかったのだという。

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