1.7.忠告
山賊達はやられた仲間を一つに集める作業をしていた。
一部ではあるが、目撃者によると相手は一人でほとんどの敵を屠ってしまったという。
にわかに信じられない話しではあったが、それは今積み上げられている死体がその信憑性を強めていた。
「……くそ」
「頭、どうしますか?」
「レミは?」
「話しによると……あのよそ者についていたとか」
よそ者とレミが協力して仲間を助けにきたようだ。
だがレナはレミを殺したくはなかった。
レミの両親は過去の襲撃で命を落としてしまったが、立派な山賊の娘であり、頭たる資格を持っている唯一の仲間なのだ。
なのでどちらにせよ、レミは仲間に引き入れるつもりであった。
それは今も変わらない。
「声を大きくする魔法をかけな」
「はい」
男は指示に従って魔法をレナの喉元目がけてかける。
しっかりと魔法がかかった事を確認した後、大きく息を吸って声を山に向けて放った。
『レミ! 聞こえてるね! 無駄なことは辞めてさっさと出てきな! 出てくるなら村人の命の保証はしてやる! ただし! 一刻遅れるごとに一人殺す! 分かったね!?』
そこまで言うと、レナは喉をさすって口を閉じた。
◆
レナの声はレミにしっかりと届いており、無論その周囲にいる仲間にも伝わっていた。
先ほどまで共に寝ていたはずの祖母の声が聞こえ、安心したかと思ったのだが、内容を聞いて絶句した。
今までに聞いたことのない怒号。
言葉遣い。
更には殺害予告。
その一つ一つがレミを混乱させるには充分すぎる物だった。
同時に他の村人達からは不安の声が上がっている。
「レミちゃんのばあさん……? なんで?」
「わかんないよ……」
「でもさっき殺すって言ってたよな」
「そうだけど……どういうこと?」
レミにはその言葉は聞こえない。
必死に自分の中で今起こっている現状と現実逃避に努めていたからだ。
これでは不味いと木幕は村の者達に声をかける。
「皆の者、怪我はないか!」
「俺達は全員大丈夫だ」
「左様か。民はあとどれほどおるのだ」
「今いるのは二十三人……まだ五十人以上はいるよ」
村の男はそう言うが、逆にこれだけの数があの場所に留まっていたのは良かったと言えるだろう。
しかし、先ほどレナの忠告を聞いた村人達の士気は非常に下がっている。
木幕としては猫の手も借りたい状況ではあったが、この状態ではとても使えそうにはなかったため、今力尽くで攻め入るのは諦めた。
しかし、早く行動しなければ一刻ごとに命が刈り取られる。
急がなければ取り返しのつかないことになりかねない。
「お主らに問う。仲間を助けたいか?」
「当たり前だ! あんなのあんまりだ!」
「そうよ!」
「でも……僕たち戦えないよ……」
「武器もないしな……」
どうやら助けたいという意志は残っているようだ。
武器は後でなんとでもなるので一度置いておく。
とりあえず村人達の意志を見ることは出来た。
で、あれば後は行動を起こすだけだが、まずは相手の目的が知りたいところだ。
今襲撃を起こしている奴らはこの村の住人である。
なので奴らのことはここにいる村人達の方が詳しいはずだ。
幸い、こちらには歳を召したご老体もいるので、なにか役に立てる事が聞けるはずだ。
「敵を討つには敵を知らねばならない。お主らの知っていることを教えてはくれないか?」
「それはいいが……俺達の知っている事なんてたかが知れてます」
「奴らに繋がる共通点……などは無いか?」
「共通点……?」
村人達は相談しながら木幕に色々教えてくれた。
まず第一に、奴らの歳が大体同じであること。
分かり易く言ってしまえばほとんどが三十から四十代くらいなのだという。
それの何処が共通点であるのかは今は分からなかったが、それらの若い子供も参戦していたと言うことを聞いて少し疑問に思った。
「家族ぐるみなのか……?」
「見た限りはそうだったわ」
「……ご老人。この村に移住者は来たことがあるか?」
「…………ある……あるぞ」
今の若い衆は知らない事だったようで、それに少し驚いていた。
それは約十七年前のことで、憔悴しきった人々をこの村に招き入れたことがあったそうだ。
その中に……レナと幼きレミがいたことを、このご老人はしっかりと憶えていた。
「……よくもまぁ山賊が牙を隠し続けておったものだ」
「ちょっと待ってくれ! じゃあレミちゃんも山賊だって言うのかよ!」
「でもそうでしょう? 話しからして分かることよ」
「確かに……」
「お前ら……!」
今は仲間であった者達が山賊だったという事実を知って、皆疑心暗鬼になっている。
こうなることは予想していたが……今は現状を見て欲しい。
「レミ殿が山賊であれば、この襲撃に参加していたのは間違いない。だが襲撃に参加もしていなければ、お主らを助けまでした。故に奴らの仲間ではない」
これは自信をもって言えることだった。
レミは木幕と共に村人達を救出した。
その事実が、山賊ではないという理由に繋がる。
もし、レミが山賊であった場合、いつでも木幕の背中を刺す事が出来たはずだ。
「それに……この姿を見てまだそれが言えるか」
その言葉に村人達の目線が全てレミに注がれる。
だがレミはそんな事に気が付きもせず、今までの会話を聞くことも出来ず、ただただ涙を流して頭をかき、現実逃避を続けていた。
混乱は時に狂気へと変わる。
今のレミの状態は混乱と狂気の狭間であり、戦に巻き込まれた村の生き残りがよくこうしているのを木幕は憶えていた。
最愛の者を失った悲しみ、裏切り。
今回は後者……もしくは両者ではあるが、唯一の肉親である祖母があのような発言をしたとなれば、こうなってしまうのも分からないでもない。
女の心は非常に脆い。
木幕にもその気持ちは十分に理解できるものであった。
「恐らく言葉はまだ届かぬ。誰か傍にいてやるがよい」
その言葉で動き出したのは、やはり女性達であった。
だが、先ほどレミを山賊呼ばわりした者は動けず、ただそれを見守っているようだ。
「某は奴らを屠るつもりでおる。それに見合う策もある。だがそれを起こすにはお主らの許可が必要だ」
「許可……?」
「田畑を燃やす許可である」
木幕の言葉に、その場にいた村人達は難色を示した。
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