第3話「いざ教室へ」-4

「先生、この足の裏のぼつぼつした物は何ですか?」

俺は大山先生に尋ねた。

「点字ブロック」

そう答えたのは姫野さんだった。

 点字ブロック…。

 そうだ、そういえばそんな物もあったよなあ。

 今までも、駅の階段の手前とか、ホームと線路の間とかに敷き詰められている、黄色のぼつぼつした物があることは、何となく知っていた。

 だけど、それはあくまで何となくの情報として頭に入っていただけで、今まであまり気にとめてこなかった。

 そんな点字ブロックを、まさかここまで強く意識することになるとは思わなかった。

 そうなのだ、これから俺は未知の世界へと1歩1歩着実に足を踏み入れていくのだ。

 そう思うと、新鮮な気持ちが高まっていくのを感じる。


(それにしても、姫野さんはすごいなあ。さすが盲学校10年目だ。各階にある教室の名前をすらすら言えてしまうんだからなあ。俺そこまで覚えられるかなあ)

階段を上りながらそんなことを考えていたのだが、ふと疑問に思った。

(ところで、作業室って何だ?)

「ねえ、姫野さん、作業室って何?」

踊り場に付いた時、俺は思い切って姫野さんに話しかけてみた。

「…」

しかし姫野さんからはなかなか返事が返ってこない。

 俺が突然質問したから驚かせてしまったのだろうか。

 まだ俺のことを怖がっているのだろうか。

 俺の中で、再び姫野さんに対する不安が募っていく。

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