第3話「いざ教室へ」-1

 講堂を出て渡り廊下を通って、俺たちは学校の建物の中へと入った。

 所々開いている窓からは、春特有の暖かい風が吹き抜けてくる。

 そんな廊下を、俺たち一向は教室に向けて歩いている。

 きっとその途中には、教室やら、トイレやら、音楽室やら、理科室やらと、いろいろな部屋が並んでいるのだろう。

 そしてそれらの部屋には、その名称が表示されているのだろう。

 でも今の俺には、それらを見ることはできない。

「トイレ」

と、姫野さんが突然言った。

(そっかー、入学式長かったもんなあ。そりゃあトイレにも行きたくなるよなあ)

と俺は思った。

「そうだねえ、ここは女子トイレだねえ」

しかし、大山先生はあっさりそう返しただけで、そのまま女子トイレの前を通り過ぎてしまったのだ。

(おい、姫野さんをトイレに連れて行かなくていいのかよ)

そんな俺の心配をよそに、一向はなおも廊下を歩き続けている。

「男子トイレ」

と、姫野さんは再び言った。

「そうだねえ、ここは男子トイレだねえ」

大山先生はそう返した。

 なるほど、ここが1階の男子トイレなんだな。

(ん?待てよ?)

俺は思った。

 さっき姫野さんは、色や光が分かるぐらいにしか目が見えないと聞いたけれど、なぜここが男子トイレだと分かったのだろうか。

 全盲に近い弱視なら、男子トイレの表示だって読めないはずなのでは?

 もしかしてこれも雰囲気や空気感で感じ取っているのだろうか。

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