第2話「講堂の外で」-4

 しかし、そんな大山先生の言葉に、俺は思わず慌てた。

 ついてきてくださいと言う大山先生の姿さえ、今の俺の目はもう見ることができないというのに、いったいどうやってついていけばいいのだろうか。

「なあ、おい、ついていくって、どうすればいいんだよ」

俺は今肩を掴んでいる光浦和希に、そっと尋ねた。

「どうするって、そのままついていけばいいんだよ」

「そのままついていくって?」

「だから今までと同じように、俺の肩を掴んだまま歩いていけばいいんだって」

少し投げやりな光浦和希の声と同時に、やつが1歩前に進み出たのが分かった。

(そっかー、そうすればいいんだよなあ)

いったい俺は何を聞いているのだろうか。

 よほど教室に向かうことに緊張しているのだろうか。

 何だか少し恥ずかしくなった。

「光浦さん、もっと優しく言ってあげてください。原田さんはまだ盲学校が初めてなんだから」

と、大山先生は、光浦和希をたしなめた。

 初めて大山先生から『原田さん』と呼んでもらえて、ちょっと嬉しいような、恥ずかしいような、くすぐったい気分である。

「はーいすんませーん」

悪びれることなく、光浦和希は言う。

 こいつ、絶対反省してないだろう。

「光浦さん、教室についたらお話があります」

「えー、何で俺だけ…」

ようやく光浦和希はおとなしくなってくれたようだ。

 やれやれである。

「さあ皆さん、ゆっくり歩いてきてください」

「はい」

大山先生の声に、姫野さんが返事をした。

 たいへんまじめである。

 俺のすぐ目の前に居るこいつとは大違いだ。

 俺たちは、教室に向けて歩き始めた。

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