第2話「講堂の外で」-3

「おい、姫野さんはあまり目が見えていないんだよなあ」

俺は光浦和希に耳打ちした。

「うん、そうだよ。全盲に近い弱視だね」

全盲に近い弱視…。

 なるほど、盲学校に行くと、目の見え方について、そのような分けられ方をされるのかー。

 そのことに少し驚いたと同時に、入学式の日早々とても勉強になった。

 だが俺が知りたかったのは、目の見え方の分けられ方についてではない。

「姫野さんは何でさっき、俺が講堂の入り口でこけそうになったのが分かったんだ?」

「そりゃあだって、目があまり見えていなくても、わずかな物音とか、ちょっとした空気感とかでも、周りの状況が何となく分かるからだよ。タカピョンだってそうだろ?」

「あー、確かにそうかもしれない」

言われてみれば、確かにそうだ。

 今さっき姫野さんを怖がらせたんじゃないかと不安になったのも、彼女の表情が見えたからではない。

 そのような雰囲気が、空気感を通して何となく伝わってきたからだ。

 目が見えていなくても、音や雰囲気で、動作や表情と言った、周りのだいたいの状況が分かることがあるのだと、俺はこの瞬間今更のように思い知ったのだった。

「なっ、姫ちゃんには何でも分かっちゃうんだよなあ。すごいだろう?」

光浦和希は得意げに言う。

「…はい」

光浦和希に言われた姫野さんは、はっきりとそう返事を返した。

「ごめん、姫野さん」

俺は彼女にそう謝るのがやっとだった。

「…はい」

ややあってから、光浦和希に言われた時と同じトーンで彼女は言った。

 やはり姫野さんは、まだ俺のことを怖がっているのだろうか。

 てか俺の今の謝罪は、彼女に届いていたのだろうか。

 いったい俺は、これから姫野さんとどう接していけばいいのだろうか。

 うーん、分からない。

「はいみなさん、今から教室に移動しますので、ついてきてください」

そんな同級生女子への戸惑いや不安に打ちひしがれている俺の耳に、大山先生の澄んだ凛々しい声が飛び込んできた。

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