第1話「入学式」-8
その声は、さっき俺たちの名前を呼んだ教師の声に似ているような気もするが、今はそんなことをじっくり考えている場合ではない。
「す、すみません」
静かな会場内に、俺の声が響き渡る。
ああ、俺は入学式早々やらかしてしまった。
「いひひっ、タカピョンひのちゃんからおーこらーれーたー」
反省し切りの俺の左隣で、押し殺したような声で、光浦和希が言うのが聞こえた。
(ったく、誰のせいでこうなったと思っているんだ?!)
反省の合間を縫うように、ふつふつと怒りがこみ上げてくる。
「まあまあ、タカピョンもそんな怖い顔すんなって」
左肩を軽く小突かれながら、光浦和希は言う。
(あのなあ!)
怒りがマックスに達しようとしていた、その時だった。
「中学部担任の大山加奈子です」
俺の耳を、女性の声が貫いた。
(中学部担任…?!この先生が、俺たちの担任になるのかー)
その声から、30代後半から、40代前半ぐらいの、凛々しい女性教師というイメージが、俺の脳裏に思い浮かんだ。
だが、どことなく威厳もありそうな感じもして、もしかしたらこの教師も相当厳しいんだろうなあと不安になった。
「ちぇ、なーんだ担任はカナッペか」
そんな俺の横で、光浦和希が舌打ち交じりに呟いた。
(おい、先生をあだ名で呼ぶんじゃない)
と、次の瞬間聞こえてきた声に、俺の胸はどきっと音をたてた。
「中学部副担任の日野原敏文です」
その声は、今さっき俺たちを注意した男性教師の声だった。
(おいおい、これからの1年を、俺はこの二人の先生からいろいろしごかれなければならないのかよー。まいったなあ)
何だか先が思いやられる気分だ。
そう思ったのは、光浦和希も同じだったようで、
「うわっ、ひのちゃんかよー、まいったなあ」
と、嘆きのような呟きが聞こえてくる。
(だから先生をあだ名で呼ぶなって)
このクラスの担任と副担任から厳しくしごかれることよりも、こいつと関わっていくことの方が、よっぽど先が思いやられる。
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